血管炎分類

結節性多発動脈炎は1866年にKussmaul&Maierが剖検例で諸臓器の動脈周囲に結節状の肥厚を認める壊死性血管炎の症例を結節性動脈周囲炎(periarteritis nododa)として報告したのが最初です。その後病変は動脈全層性にみられることがわかり、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa: PAN)と改名されました。
全身性の血管炎の分類は1952年のZeekの分類が最初といわれています。彼女は血管炎を過敏性血管炎、アレルギー性肉芽腫性血管炎、リウマチ性血管炎、結節性多発動脈炎、側頭動脈炎の5つに分類しました。その後疾患の数が増え、さらに1982年にはANCAの発見によりANCA関連血管炎の概念も確立されは変化してきました。それらも踏まえ腎臓病理組織所見に基づきChapell Hill分類が発表されました。1993年に米国ノースカロライナ州のChapel Hill で開催された血管炎の名称と定義の合意形成を目的とした国際会議で原発性血管炎の10疾患が採用されました(CHCC1994)。そして、罹患血管サイズによって大型・中型・小型血管炎に分類されました。(表1参照)

この分類は20年近く世界中で流用されてきましたが、それは罹患血管サイズによる分類が簡便でわかりやすかったという理由があります。また大型、中型の血管炎では罹患臓器の虚血症状が出、小型血管炎ではその血管のサイズにあった症状(蝕知可能な紫斑、多発神経炎、糸球体腎炎、肺胞出血など)の症状が出るなど、疾患の鑑別に便利でもありました。

また、大型血管炎は肉芽腫形成性の自己反応性T細胞異常、小型血管炎はANCAなどの自己抗体、液性免疫の関与するものが含まれており、分類と病因の関係に一定の関連がみられました。

しかしながら、その分類には改善を要する問題点もありました。1994年版では10疾患しか含まれていませんでしたが、多くの血管炎がこの分類から漏れていたこと。人名を冠した疾患名(Eponym)の取り扱いを避けて、病理学的所見に基づく命名への変更が問題とされたことなどがありました。それで、2012年再び全世界の血管炎の専門家がChapel Hillに集まって分類の改変が行われました。
Eponymについては、人名を廃止する方向性のようですが、高安病、川崎病と2つ日本人名は替わるものがないと残りました。日本からの希望もあったようです。ただCogan症候群は残っていますし、それをいったらベーチェット病はどうするのだ、とチャチャを入れたくなります。ある種の人名を残したくなかったなどのウワサは聞こえてきますが、将来は日本人の名前はどうなるのでしょう。(学問と関係ない横道にそれてしまいました。)(CHCC2012)(表2)。
大きく変わった点は大中小の血管炎のほかに新たに4つのカテゴリーが加えられたことです。すなわち、種々の血管を侵す血管炎、単一臓器の血管炎、全身性疾患に続発する血管炎、誘因の推定される続発性血管炎の4つです。それに伴って含まれる対象疾患数は10から26へと大幅に増加しました。(下記の表2参照)

ただし、CHCC2012はリウマチ内科や腎臓内科が中心となって作成されており、この会議では皮膚科医は1人も含まれていなかったといい、皮膚科で使われる血管炎が本分類ではすべて包括されているわけではなく、皮膚科からするとやや使いにくく今後改善の余地があるとのことです。しかしながらこれに替わる国際的な皮膚科血管炎のガイドラインはないとのことでCHCC2012をベースとして本邦の皮膚科の血管炎のガイドラインは作成されています。皮膚科に関係の深い血管炎は真皮の細動脈から毛細血管、細静脈、さらに皮下組織までの血管で、それはChapell Hill分類の基本になった腎臓の動静脈の病理組織と相似性があるといいます。

次から皮膚に関連のある個々の疾患について順次みていきたいと思います。

(図、表はいずれも日本皮膚科学会ホームページで一般公開された血管炎・血管障害診療ガイドラインから)