最近の乾癬治療・生物学的製剤2018

また乾癬の記事で恐縮ですが、千葉生物学的製剤乾癬治療研究会がありました。確かに乾癬は治療のトピックスが多く、進歩が早いこともあり、このところ講演会は多い気がします。
今回は岩手医科大学の遠藤幸紀先生による生物学的製剤のレビューでした。豊富な臨床経験に基づいて分かりやすく解説して下さいました。岩手県のみならず、東北一円から患者さんが受診しているとのことでした。また若い頃は東北のクイズ王としてテレビ出演も果たしていた事などの逸話も挟みながらの面白い講演でした。
まず、乾癬の生物学的製剤のラインナップと、乾癬の病態からみてその作用点を分かり易く解説されました。また最近開発されたIL-17阻害薬については詳細に解説していただきました。
発売順に並べると
2010年 レミケード(インフリキシマブ)、ヒュミラ(アダリムマブ) 【TNFα阻害薬】
2011年 ステラーラ(ウステキヌマブ)  【IL-23阻害薬】
2015年 コセンティクス(セクキヌマブ) 【IL-17阻害薬】
2016年 トルツ(イキセキズマブ)、ルミセフ(ブロダルマブ)【IL-17阻害薬】
2018年 トレムフィア(グセルクマブ)【IL-23阻害薬】
舌を噛みそうなややこしい名前がずらーと並んでいますが、命名には法則性があるそうです。一応書いてみると。
まずモノクローナル抗体は英語でMonoclonal AntiBodyで略してmab(マブ)となります。ただ1種類の抗体産生細胞(B細胞)から作られた抗体のコピーで同一の分子構造をもちます。ちなみに蛋白質なので消化されるため経口投与ができず、静注か皮下注になります。
またマウス抗体は-omab、キメラ抗体は-ximab、ヒト化抗体は-zumab、完全ヒト抗体は-umabと命名されます。
動物由来成分を有する抗体はアレルギー反応を起こしやすいので、近年はなるべくヒト成分のみでの抗体の生成の方向へ向かっています。
更に標的によって抗腫瘍tu、免疫調節i、インターロイキンki、心血管ci、骨so、ウイルスviと細分されているそうですが却って訳が分からなくなりそうなので、スルーします。
オマブ、キマブ、ツマブ、ウマブの違いを知っているだけでもなんとなくわかる気がします。
近年は乾癬はT細胞性免疫疾患だそうで、昔は免疫疾患とは教わった記憶はなく(今でも?)時代の変遷にビックリです。
乾癬の病態はTIP-DC➡Th1➡Th17軸で説明され、それらに関わるインターロイキン、受容体などをピンポイントでブロックする抗体の効果によって乾癬の病態が理論的にさらに補強されているようです。
しかしながら、乾癬の病態論のパラダイムシフトともいえる理論の転換は結構偶然の産物もあるそうです。シクロスポリンの有効性しかり、TNF抗体製剤しかり、当初は乾癬を目指して開発されたものではなく、移植免疫や、関節リウマチの治療に使ったら乾癬にも効いたなど、偶然の結果で、各種薬剤のトライアンドエラーの積み重ねで、理論づけが進化していったそうです。

乾癬の病態、生物学的製剤の概要については藤田先生の論文から引用させていただきました。
(藤田 英樹:皮膚臨床 60(10);1489~1496,2018)

立て続けに乾癬病態の中心ともいえるTh17をターゲットにしたIL-17阻害薬が発売され、3剤とも微妙に違いますがそれぞれに今までの製剤よりも高い有効性を示しているようです。
これ程までに多くの乾癬に対する生物学的製剤が登場してくると、それぞれの製剤の特徴、使い分けが問題になってきますが、スピード、関節症状の有無、自己注射の可否、投与間隔、安全性、経済性などを指標として使い分けていくといった解説をされました。関節症状ではTNF阻害薬>IL-17阻害薬>IL-23阻害薬の順に有効である程度の導入基準はあるが、7剤に対し絶対的な使用基準はないとのことでした。遠藤先生の数百例もの豊富な使用経験からすると患者さん個々で効果に差があり、正解はない、例外があるとのことでした。
先生は最後に金子みすずの詩集の「私と小鳥と鈴と」からとってきた言葉「みんなちがって、みんないい。」という言葉で締めくくられました。これが講演演題名でもあったのですが。
ここで金子みすずが出てくるか、と一寸意外な感もあったのですが、しばし薄幸の純真でナイーブな詩人に想いを馳せました。

乾癬に対する生物学的製剤はこれで7剤も出てきました。さらに開発中の薬剤が数種類も控えているとのことです。抗体製剤は乾癬の治療において目を見張るような素晴らしい成果を上げてきました。いままでほぼあきらめるしかなかった関節症や重症乾癬が寛解にまで至る例がでてきました。しかしながらいくつかの乗り越えなければならない点も残されているようです。
その一つは寛解とはいっても治癒には至らない点でしょうか。注射している分には治っているが止めると再発する点。入口はあっても出口が見つからないような感じ。薬剤だから当たり前といえば当たり前ですが、この薬剤の非常に高額な点、免疫を抑制するなどの副作用のある点も長期的には問題となってきます。当然長期使用となってくるわけですが、患者さんも当然年を取っていきます。悪性腫瘍や糖尿病、肺炎、肝炎、心不全なども起こしてくるでしょう。こういった人には生物学的製剤は原則使用禁忌です。また高齢化してくると収入は減ってきて年金暮らしとなっていくでしょう。高額療養費制度はあるとはいえかなりな負担になり使用を諦めるケースもあるそうです。バイオシミラーといっていわば後発医薬品のようなものも発売されてきていますが、皮肉なことに安くて高額療養費の限度額を下回ると却って自己負担額が増えるという事態も起こってきます。また低所得者が使用を諦め、生保だと継続できるなどの機会均等といえないケースも起こり得ます。そもそも破綻しかかった現在の健康保険医療制度がいつまでもつのでしょうか。
使用を中止すると悪化する訳なので、そういったケースではどうケアするかといった出口戦略も専門家の先生方に研究して頂きたいという気がします。
重症乾癬に選択できる製剤が多数できたのは朗報ですが、一寸お腹一杯という気もします。本邦では40-50万人の乾癬患者さんがいるといわれますが、バイオ製剤の適応になるのはそのごく一部です。またオテズラの発売でさらに少なくなった感があります。こんなに高い薬を少ない対象に集中して製薬会社は元がとれるのだろうか、と下種の勘繰りをしてしまいます。ただ全世界的にみると数億人の患者さんがいるのでそこはしっかり計算されているのでしょうが。
あと、使用にいろいろと注意を要する薬剤なので我々開業医レベルでは使用しづらい点も難点です。病診連携は常々勧奨されていますが、実際は副作用管理などのリスクは多く、メリットは少ないという事実があります。
最後は一個人のバイアスのかかったネガティブな感想に偏ってしまい、折角の遠藤先生の講演内容の言わんとする主旨を損ねてしまったきらいがあります。(しかし、市井の片隅で皮膚病診療に当たっている一医師のぼやきを表すのもありかと思い、敢えて心配な部分も書きました。このことが杞憂に終わってしまえば却って幸甚です。)