飯塚先生の講演

 先日恒例の浦安皮膚臨床懇話会がありました。なんともう156回とのことです。毎回素晴らしい講師の先生が全国から来ていただき、千葉にいるだけで誰でも(皮膚科医なら?)聴講できる会です。小生は以前はスルーしていましたが、もうお亡くなりになり二度と聞けない大家なども含まれていていまさらながら自分の不明、不勉強を悔やんでいます。
主催者の高森先生に毎回どうしてこんな素晴らしい講演をする人が来るの、と一寸馬鹿な質問をしてみたのですが、高森先生は「いつも学会などで聴いていて、目星をつけた先生を全国から呼んでいるんだよ。」とのことでした。高森先生から声を掛けられたらどの先生も都合がつけばまず断らないでしょう。第1回は臨床の大家、宮崎医科大学の井上勝平教授だったと懐かしそうに話していました。今は亡き植木教授、森教授、玉置教授なども講演されたそうです。これらの教授の講演は今になってとても、とても聴きたいのですが永遠に叶わぬ夢となり果ててしまいました。(そういえばバンクーバーにいって偶然バスの中で同席したドイツの高名な(多分ドイツ皮膚科の大御所)先生の婦人に植木先生は知っているか、ドイツに来て退官後も熱心に勉強していたと言われて、名前は知っているけど業績はあまりよく知らずに、冷や汗ながらあいまいに答えたことがありました、皮膚科のモグリだと思われたかも。でもかつてのベルリン国際学会とかばん持ちで訪れたハイデルベルク大学のPetzoldt教授の話題で何とか繋がりましたが)。
 今回の飯塚先生は過去に数回講演したとのこと、他の会で過去に千葉に講演にいらしたこともあるのですが、今回は1年前から招聘の連絡をとっていたとのことで、高森先生も期待の人でしょうが、小生にとってもとても期待していた先生でした。
今回の講演はオテズラについての講演でしたが、PDE4(ホスホジエステラーゼ4)阻害剤であるオテズラはサイクリックAMPを不活性型のAMPに分解するPDE4を阻害する薬剤です。乾癬ではおしなべてシグナル伝達系が亢進している中で唯一の例外がadenylate cyclade系で、cAMPの上昇にブレーキがかかっています。オテズラは乾癬表皮に過剰に発現しているPDE4を阻害し、細胞内cAMP濃度を上昇させる薬剤の開発の成果として誕生しました。
cAMPの発見の話は過去にも書きましたが、1958年のSutherlandによる発見、さらにPDEの発見により、セカンドメッセンジャーとしてこの物質は一躍注目を浴び、1971年にはミシガン大学のVoorheesが乾癬表皮ではcAMPが低下していることを報告しました。阪大の吉川先生、北大の飯塚先生、根本先生らはマイアミ大学のHalprin先生や安達先生らの指導のもとVoorheesの説の検証をされました。
その当時の苦労話から、その後進化した最近の乾癬の病因、病態について懇切丁寧に、広範な知見を披瀝、解説して頂きました。難しい話を噛み砕いて素人にも分かりやすく説明して下さるのですが、何回聴いても途中でついて行けなくなります。
考えてみれば人体内、細胞内外で生じている代謝、シグナル伝達系の全貌など完全に解明されているわけではないし、その中で乾癬がどのように不調をきたしているかも完全には解明されていないわけです。はい、これが正解です、というように単純明快にはいかないのも当然です。しかしながら過去から現在に至る乾癬研究の全体に通暁していて、免疫、表皮増殖に偏らずに生体のダイナミクス全貌をみて真実に迫ろうとする迫力はなんとなく理解できました。
先生はマイアミ大学のHalprin先生の生体代謝の全般に亘る見方を教わったことがその後の先生の研究のバックボーンになっている(というような)お話をされました。
 高森先生は若かりし頃からの共に競い合い、勉強し合った仲間だとおっしゃいました。彼はどんなに少ない人数の講演でも、興味を持ってくれる人がいれば手抜きをせずに話すのだ、と言っていました。
一般向けにはいつもやや高度過ぎて、ついていけないきらいはありますが、外連味のない講演は久しぶりに学生に戻って先生の講義を受けている気になり年甲斐もなく一寸若返った気がしました。