種痘様水疱症と蚊刺過敏症

種痘様水疱症とは、幼少時に日光露光部を中心に中心臍窩を伴う水疱や痂皮が付着した丘疹が多発し、瘢痕を残して治癒する疾患です。蚊のアレルギーとは一見何の関係も無いようですが、重症型ではEBウイルス関連のT/NKリンパ球増殖症を発症して予後不良になる点で繋がりがあります。

まず種痘様水疱症(hydroa vacciniforme:HV) について
歴史的には発疹が種痘に似ていることから、1862年にBazinがHVと命名しました。また症状が似ていることから当初は骨髄性ポルフィリン症も紛れ込んでいたようです。

近年、HVの皮膚病変部には(Epstein Barr virus:EBV)が存在することが明らかになりました。ほとんどの症例では、成人前に自然軽快します。古典型HV(classical HV: cHV)。しかしながらごく一部(10%?)ではHVの臨床像ではあっても次第に非露光部にも皮疹を認め、発熱、リンパ節腫脹などの全身症状あるいは血液学的異常を伴う全身型HV(systemic HV: sHV)に移行するケースもあります。
最近三宅らは9歳以上で発症した場合と、EBV再活性化マーカーであるBZLF1 mRNAの皮膚組織での発現が予後不良の因子である可能性を報告しています。
EBウイルスが潜伏感染したT/NK細胞が皮膚病変部に浸潤していますが、これが皮疹の形成にどのように関わっているかは明らかではありません。
HVの他に皮膚科関連では、重症の蚊のアレルギー、蚊刺(ぶんし)過敏症(hypersensitivity to mosquito bites: HMB)があり、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)と合わせてEBウイルス関連T/NKリンパ増殖症(lymphoproliferative disorders: LPD)と呼びます。
血液中にはEBウイルス感染γδT細胞が増殖しています。
HMBは、虫刺されやワクチン注射に続いて、激しい皮膚反応と発熱や肝障害などの全身症状をきたします。
cHV群は、良好な経過をとりますが、sHVとHMBの予後は不良で発症後それぞれ10年、5年で死亡率5割とされています。

ちなみに慢性活動性EBウイルス感染症とは遷延あるいは再発する伝染性単核球症様症状を呈し、血液中および病変組織にEBウイルスのDNAが見られる疾患です。日本など東アジアと中南米に多く、遺伝的な背景が考えられています。
通常はB細胞を標的とするEBVが、TあるいはNK細胞に感染して増殖を誘発するとされていますが、その詳しい機構はまだ不明です。腫瘍性疾患の特徴と免疫不全症の特徴を併せ持っています。
それで、種痘様水疱症、蚊刺過敏症の他に多臓器不全、血球貪食症候群、悪性リンパ腫などを合併します。
また慢性疲労症候群とよばれる疾患群の一部にCAEBVが含まれていることもわかってきましたが、疾患の全貌はこれからの研究に委ねられているとのことです。
治療は、抗ウイルス剤のアシクロビル、ガンシクロビル、IL-2、IFN、ステロイド、シクロスポリンなどの免疫抑制剤、抗がん剤などがつかわれますが、なかなか完治には至らないようです。。唯一造血幹細胞移植が完治しうる治療のようです。
最近、これらの患者さんのEBV感染細胞の中では、転写因子STAT3が恒常的に活性化していて、免疫、炎症の暴走を起こしているが、これを抑制するJAK阻害薬でその活性化が抑制され、さらに炎症性サイトカインの産生も抑制されるとの研究があります。臨床上での効果に期待したいところです。(ちなみにこのチロシンキナーゼのシグナル伝達系でSTAT3は乾癬表皮においても活性化しているとされ(高知大学 佐野)興味あるところです。)

参考文献

岩月啓氏  EBウイルス関連皮膚T/NKリンパ増殖症ー種痘様水疱症と蚊刺過敏症ー
日本小児血液・がん学会雑誌・52巻(2015)3号 p.317-325

三宅智子 種痘様水疱症 皮膚疾患 最新の治療 2017-2018 編集・渡辺晋一・古川福実 南江堂 東京 2017