薬剤性光線過敏症・光接触皮膚炎

平成29年度日皮会研修講習会の内容です。
講師は浜松医科大学皮膚科の戸倉先生でした。
薬剤性光線過敏症・光接触皮膚炎  浜松医科大学  戸倉新樹

以前、当ブログでも「薬による光線過敏症」という題で2013年7月7日に同様の記事をアップしていますのでそちらも参照してみて下さい。

光線過敏症には種々のものがあり、色素性乾皮症などの遺伝性疾患、ポルフィリン症などもありますが極めて稀です。日常診療で出会うのは、日光蕁麻疹(これも少ないですが)、多形日光疹などもありますが、実はこれから述べる薬剤性光線過敏症、光接触皮膚炎が最も多い光線過敏性疾患です。

戸倉新樹先生は長年光免疫学の研究をリードしてきたその方面の専門家ですが、あまりに基礎的な部分は割愛して当日の講演の内容の骨子を紹介します。
【光毒性・光アレルギー】
外因性の光過敏症には光毒性と光アレルギー性の2つがありますが、光毒性とは光感受性物質が光を吸収して、光化学反応をおこし、それが人体に毒性を生じたものといえます。活性酸素(ROS:reactive oxygen species)がその本態を担っているとされます(光増感酸化反応で、singlet oxygenの関与する反応をtypeII,関与しないものをtypeIと呼ぶ)。これは誰にでも生じうるもので、光曝露すぐに生じえます。光アレルギーは光感受性物質が光を吸収した後に、免疫反応を起こし、アレルギー性を獲得したものです。従って曝露初回では反応は生じず、感作時間のタイムラグを経て発症します。
主にT細胞誘導性であるとされます。免疫反応ですので感作された特定の人にしか生じません。臨床的には、光毒性がサンバーン型なのに対し、光アレルギー性では湿疹型と呈するとされています。
しかしながら、実臨床でこの両者は必ずしもクリアカットに区別できないようです。光アレルギー物質は多かれ少なかれ光毒性を持つようです。
光毒性物質の代表的なものには、PUVA療法で用いられるソラレン(8-MOP)があります。乾癬、尋常性白斑などの治療に用いられますが、これを内服、または外用して紫外線(UVA)を浴びると誰にでも日焼け反応を生じます。しかしまず光アレルギー(アレルギー性光かぶれ)は起こしません。ただ、ソラレンは多くの光感受性物質がたんぱく質と結合して光化学反応を起こすのに対し、DNAに結合しクロスリンクを生じるのが特殊です。ソラレンは一般的ではありませんが、それに似た物質、フロクマリン(5-MOP)はレモンなどの柑橘類に含まれています。それで、へたにレモンパックなどを行ったりして日に当たると同様の光毒反応をおこし、シミを作ったりするので注意が必要です。ベルガモット油の入ったオーデコロンも光毒性を起こします。ペンダント型のシミを作るのでベルロック皮膚炎という名前で呼ばれています。これはソラレン誘導体のbergapten(5-MOP)による光毒性反応です。また麝香鹿の生殖腺の分泌物は天然の動物性香料としてコロンなどに使われることがありますが(musk ambretteあるいは合成香料のニトロムスク)光かぶれを起こすことがあります。
光化学反応と臨床的な紅斑などとの症状の関連、原因はなお解明されていないようです。ただ炎症メディエーターとしてのプロスタグランジンE2の働きなどの関与が明らかになりつつあります。
【光アレルギーの機序】
光アレルギーが起こるためには光感受性物質と蛋白質が紫外線照射によって共有結合することが必要です。これにはまず化学物質に光(主にUVA)が当たり、プロハプテンという光感受性物質に変化して後、蛋白質と結合するという説と、共有結合した後にUVAが当たり光感受性物質に変化するという説があります。ほとんどの光アレルギー性物質は光ハプテンであるとされます。
いずれにしても蛋白質と結合して抗原性を獲得した物質はランゲルハンス細胞(樹状細胞)上のMHC/自己ペプチドに抗原提示されてT細胞を刺激し、接触アレルギーを起こします。
外因性光感受性物質によって生じる光線過敏症の作用波長はUVA(長波長紫外線)ですが、稀にはUVB(中波長紫外線)で生じます。光毒性では吸収波長と同じで、光アレルギー性ではより長波長側にずれる傾向があるとされます。
【光接触皮膚炎】
いわゆる光かぶれのことです。
一般の接触皮膚炎で免疫反応を介さない一次刺激性の接触皮膚炎が光毒性接触皮膚炎に当たり、アレルギー性接触皮膚炎が光アレルギー性接触皮膚炎に対応します。
様々な物質が光かぶれを起こしますが、実臨床的に大きく分けると化粧品含有物質(サンスクリーン剤、香料、ヘアスプレーなど)、薬剤、機能性食品(栄養剤)に分類されます。
🔷サンスクリーン剤
Parsol, オクトクリレン、ベンゾフェノン、PABA(Para-amino-benzoic acid)、ベンゾフェノン類はプラスチック、化粧品、ゴム製品や塗料などの酸化防止剤としても含まれることがあります。
🔷香料(歴史的)
ムスクアンブレット、ベルロック皮膚炎(5-MOP:bergapten)
🔷染毛剤
PPD(Paraphenylendiamine)
🔷殺菌剤(歴史的)
サリチル酸アニリド(TCSA) クロルヘキシジン、ジクロロフェン、・・・TCSA, TBS, bithionolなどを含む石鹸、シャンプー、化粧品などによる光接触皮膚炎が多発したため1970年代にはこれらは原則使用禁止となりました。ただ、persistant light reactionとして慢性光線過敏症の原因となっている可能性もあり得ます。
🔷薬剤
*非ステロイド消炎薬(NSAIDs)・・・ケトプロフェン(貼付)、スプロフェン(貼付)、ピロキシカム
NSAIDsは優れた消炎鎮痛効果があるために内服、注射、坐薬、湿布薬として同様成分が広く内科、整形外科領域で流用されています。これらは主に光アレルギー性を持ち、交叉過敏性のあるものもあります。ピロシキカム(バキソ、フェルデン)はチメロサールと交叉過敏があり、近年多く使われているケトプロフェン(モーラス、セクター、エパテックなど)はスプロフェン、サンスクリーンに含まれるベンゾフェノンとも交叉過敏があります。またこれらの湿布薬の使用中止後も数か月にわたって光過敏性があるといわれ、またサンスクリーン剤との交差過敏性があります。内服薬のチアプロフェン酸(スルガム)、フェノフィブラート(トライコア、リピディル 高脂血症治療剤)と交叉過敏を起こします。またときに重症化してpersistent light reactorとなったり接触皮膚炎症候群を生じます。
🔷機能性食品(栄養剤)
植物でもセリ科、ミカン科、クワ科、マメ科、バラ科、キク科などが光接触皮膚炎を起こします。主な原因成分は8-MOP, 5-MOPです。掬は花屋さん、葬儀会社の人によくみられますが、sesquiterpene lactonによるものといわれています。
またあまり知られていませんが、アリナミンなどのビタミン剤でも光線過敏をおこします。
【光貼付試験】
光アレルギーの検査としては、光貼付試験を行います。通常のパッチテストと同様に貼付しますが、2系列貼付します。貼付後24時間または48時間後に片方系列にのみ、紫外線照射を行います。通常UVAを0.5~3J/cm2照射します。1,2日後判定します。光照射部位のみが赤く陽性反応して、非照射部位に反応がなければ光貼付試験陽性と判定します。
【薬剤性光線過敏症】
臨床的に、露光部に皮疹があることで比較的に診断は容易ですが、近年高齢者など多くの薬剤を内服しているケースがほとんどなので原因薬剤の究明は困難なことが多いです。
露光部のみの皮疹であれば比較的に診断は容易ですが、作用波長がほぼUVAなので薄い衣服を通しても皮疹がみられることがあります。これらのとき日光の当たらない下顎部、腋窩、臀部などには皮疹のないこと、時計部、靴で覆われた部位に皮疹を欠くことなども診断の手助けになります。
サンバーン(日焼け)様であれば、光毒性、湿疹型であれば光アレルギー性を疑いますが、先に述べたように明確ではありません。また扁平苔癬型、多形滲出性紅斑型、LE型、日光白斑黒皮症型などの特殊な臨床型をとることもあります。
薬剤性光線過敏症の原因薬剤は当然ながら時代と共に移り変わってきています。以前はヒドロクロロチアジド(サイアザイド系降圧利尿薬)による光線過敏症が多かったものが近年その使用減少によって少なくなってきました。ところがそれが最近また非常に増加してきました。その理由はヒドロクロロチアジドを少量にしてアンギオテンシンⅡ受容体拮抗剤を組み合わせた合剤が高血圧治療ガイドラインで推奨されて、使用量が増加しているからです。(プレミネント、エカード、コディオ、ミコンビ)
プレミネントが2006年に発売されてから次々に同様薬も発売されてきました。
ただ、薬剤性光線過敏症で報告例がもっとも多いのはニューキノロン系の抗生剤です。
1.スパルフロキサシン 2.フレロキサシン 3.エノキサシン 4.ロメロフロキッシン
またニューキノロン剤では交叉過敏性がありますので注意を要します。
多くの抗菌剤、消炎鎮痛剤、降圧剤、利尿薬、糖尿病治療薬、抗精神神経用薬、高脂血症治療薬、抗腫瘍薬などで薬剤性光線過敏症の報告があります。
時代とともに新薬が発売され、新たなタイプの光線過敏症も報告されています。
モガリズマブ(ポテリジオ)は2012年に発売されたCCR4陽性の成人T細胞白血病治療薬として新発売された分子標的治療薬ですが光線過敏症を発症例が報告されています。
原因薬の同定は1剤ならば、薬剤を内服したあとの紫外線の照射、内服照射試験を行います。また時には披験物質をワセリンで薄め(1~5%)光貼付試験を行います。UVAがほとんどなのでUVA 0.5~2 J/cm2程度照射します。しかしながら先にも述べましたように多剤を内服しているケースがほとんどなので同定は困難を伴います。過去の薬疹情報から頻度の高いものを推定し、投薬医師に依頼し中止、変更をお願いする方法が実臨床では一般的です。いきなり全ての薬剤を中止しがたいので1~3剤位ずつを検討していきます。そうしながら症状が軽快していくか、あるいは内服照射試験での軽減をチェックしていきます。ただし疑わしくても変え難い薬剤もありますので治療はなかなか困難です。遮光、サンスクリーン剤、ステロイド外用剤などで治療を行います。

参考文献

松尾聿朗 薬剤による光線過敏症. 監修 佐藤吉昭 編集 市橋正光 堀尾 武 光線過敏症 東京:金原出版 2002.pp111-121