日光じんま疹と多形日光疹

平成29年度日本皮膚科学会研修講習会の講演をベースにまとめてみました。講師は関西医大の岡本先生でした。
  
日光蕁麻疹  関西医科大学  岡本 祐之
【日光蕁麻疹】
日光蕁麻疹は比較的稀れなタイプの蕁麻疹であり、日光照射後に露光皮膚に限局して紅斑・膨疹を生じますが、数時間で消退します。数分から数十分後に生じますが、ピークは30分前後が多いとされます。ごく稀には頭痛、めまいや吐き気などの全身症状を伴い、アナフィラキシー症状を呈した例の報告もあります。
小児から高齢者まで幅広い層にみられますが、女性の例が多く青年層に好発します。
発症の季節はやはり紫外線が強くなる春から夏が多数を占めていますが、夏季になるとhardeningといって光線に耐性がでてくる例もあるようです。
原因となる光線の作用波長は紫外線から可視光線まで様々ですが、日本では可視光線のみ、あるいは紫外線を含んだ可視光線領域が多くみられます。ただ、ヨーロッパ、北欧ではやや紫外線領域での発症が多い傾向があるそうです。
大部分の患者さんで、血清中に原因となる物質が存在し、作用波長の光線をin vitro(試験管内)で照射して、その血清を皮内注射すると蕁麻疹(即時型陽性反応)を生じます。それでIgE抗体依存性のⅠ型アレルギーと考えられています。ただその物質が何かは分かっていません。また症例によって作用波長が異なることより、抗原も単一ではないと推測されます。
患者さんによっては、蕁麻疹の発症を抑制する抑制波長や、逆に皮疹を増強させる増強波長を伴っていることもあります。
抑制波長は作用波長よりも長い波長のことが多く、そういった患者さんでは日光に当たっているときには蕁麻疹は出現せず、むしろ日陰に入ってからでることがあるそうです。
特殊な型の日光蕁麻疹として、日光に当たって数時間してからでるタイプの遅発型、特定の部位にだけでる固定型、眼瞼や口囲に血管浮腫がでる型、クロルプロマジンやテトラサイクリンなど薬剤が誘発因子となってでる型などがあります。
治療は他の蕁麻疹と同様に抗ヒスタミン剤が使用されますが、効果は今一つのようです。薬剤使用の前提として遮光、サンスクリーン剤の使用は重要です。
これらでなかなか改善しない例では徐々に光線を当て続けて耐性(hardening)を付けていく方法が奏功することもあります。日光浴、内服PUVA療法などが試みられています。
重症例ではシクロスポリンなどの免疫抑制療法、γグロブリン静注療法、血漿交換療法などがなされています。近年は難治例に対し、オマリズマブ(抗IgE抗体)が著効をしめした例の報告もあるそうです。

【多形日光疹】
日光照射によって生じる原因不明の内因性アレルギー性皮膚疾患と考えらえています。頻度は先の日光蕁麻疹よりも多く、それ程稀な疾患ではありません。特に欧米では治療の必要のない軽症例を含めると人口の10~20%が多形日光疹の症状を呈するとされています。青年層の成人女性に好発します。
皮疹の出現は日光に当たった後、遅発性に出現しますが、症例により異なります。照射後4~8時間以内に出現するケースが多いですが、2~3日後に発症するケースもあります。日光蕁麻疹と異なり、皮疹は24時間以上続きます。
臨床症状は露光部に丘疹、紅斑、小水疱などがみられますが、症状は多彩で、湿疹型、小水疱型、局面型、多形紅斑型などに分類されています。時に 日光蕁麻疹との合併もみられます。
大多数は春から夏にかけて発症しますが、真夏は日光に対して耐性(hardening)を示すために、症状はむしろ軽快傾向にあります。従って顔や手背などの年中日に当たっている部位は腕などと比べると皮疹が出にくいようです。季節と共に自然軽快しますが、また翌年に同様に再発することを繰り返す例が多いようです。
日光に対する遅延型(Ⅳ型)アレルギー反応と考えられていますが、その抗原となる内因性物質は明らかではありません。
作用波長は中波長紫外線(UVB)の症例が多いものの長波長紫外線(UVA)あるいはUVB~UVA両領域に過敏性を示す症例も多くみられます。ただし光線テストでは通常のテストでは正常のことも多く、大量あるいは反復照射で元々の皮疹が誘発されることが多いとされます。従って、決まった検査法は確立されていません。
鑑別診断としては薬剤性光線過敏症、光接触皮膚炎、ポルフィリン症、色素性乾皮症、日光蕁麻疹など他の光線過敏症を否定する必要性があります。これらの原因が明確でなければ多形日光疹と診断されますが、形態も作用波長も多彩であるために多形日光疹は単一疾患ではなくいろいろな疾患も混在している可能性もありえます。
時に慢性光線性皮膚炎との鑑別が問題になることもありますが、同症は発症年齢が高齢者であること、苔癬化など慢性湿疹の像を呈すること、長期に持続すること、hardening現象がみられないことなどで鑑別します。
治療は遮光、サンスクリーン剤の使用を原則とします。その上でステロイド外用剤、抗ヒスタミン剤などを使用します。hardening現象を利用して、適度の紫外線を定期的に照射する紫外線療法も行われています。PUVA療法、ナローバンドUVB療法が有効との報告もあります。

参考文献

堀尾 武. 日光蕁麻疹. 監修 佐藤吉昭 編集 市橋正光 堀尾 武 光線過敏症 東京: 金原出版;2002. pp131-141.

岡本祐之. 多形日光疹. 監修 佐藤吉昭 編集 市橋正光 堀尾 武 光線過敏症 東京: 金原出版;2002. pp141-148.

上出良一. 日光蕁麻疹の鑑別診断・治療・臨床経過. 総編集◎古江増隆 専門編集◎秀 道広 皮膚科臨床アセット16 蕁麻疹・血管性浮腫 パーフェクトマスター 東京:中山書店;2013. pp 231-236.