ポルフィリン症

頻度はそれ程多くはありませんが遺伝性の光線過敏症(一部後天性もありますが)のなかで忘れてはならない重要な疾患です。
平成29年度の皮膚科研修講習会での中野先生のお話を中心に書いてみます。

ポルフィリン症      講師 中野 創 弘前大学 皮膚科

【ポルフィリン症とは】
ヘム蛋白合成経路にかかわる酵素異常のために、ポルフィリン体あるいはその前駆物質が体内に蓄積することによって皮膚症状、消化器症状、神経精神症症状を生じる疾患の総称。
その酵素異常に対応して現在では9つの病型に分類されていますが、なかには非常に稀な病型もあり、また皮膚の症状を呈さない病型もあります。
ヘム蛋白の中で最も有名なのは血色素であるヘモグロビンで、血中の酸素運搬を行っています。それ以外にも下記の種々のたんぱく質が含まれています。
ミオグロビン・・・筋肉内での酸素貯蔵
チトクロームC・・・細胞内電子伝達系の必須分子
チトクロームP-450・・・薬物などの解毒を司る、種々の薬剤の代謝、相互作用などで実臨床でも重要になってくる
カタラーゼ・・・過酸化水素の分解
ヘム合成経路を下の図に示します。(図1)
【分類】
経路の各段階で作用する酵素があり、その異常によって蓄積するポルフィリン体、あるいは前駆物質が変わってきます。その物質の違いによって大きく光線過敏などの皮膚に症状を呈する皮膚型と、皮膚には症状はなく、急性の消化器症状、神経症状を主体とする急性型に分類されます。ポルフィリン体は光毒性を持つために光線過敏を生じますが、ALAなどの前駆物質では光毒性を示しません。(表1)
ここでは主に皮膚型について説明します。
元々ポルフィリン症は稀な疾患ですが、本邦で1920~2010年までに報告された例で、多い順に晩発性皮膚ポルフィリン症300例程、骨髄性プロトポルフィリン症200例程、急性間歇性ポルフィリン症200例程、異型ポルフィリン症50例程、遺伝性コプロポルフィリン症、先天性骨髄性ポルフィリン症、各40例程と極めて稀です。
この中で急性間歇性ポルフィリン症は光線過敏などの皮膚症状をおこさず、腹痛、嘔吐、便秘などの急性腹症を特徴としますので、皮膚科では扱いません。従って、晩発性皮膚ポルフィリン症、骨髄性プロトポルフィリン症の2疾患が皮膚科医が扱う主なものとなります。
【晩発性皮膚ポルフィリン症 porphyria cutanea tarda:PCT】
幼児例や遺伝性と思われる例もありますが、大部分が飲酒歴の長い中高年の男性にみられます。C型肝炎や避妊薬が誘因になる場合もみられます。
コプロポルフィリノーゲンⅢを生成するウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素(UROD)の活性低下によって発症します。
後天性の場合でも、URODの先天的、遺伝的な活性低下が潜在しこれに上記の誘因が加わって発症すると考えらています。
日光曝露後、顔や手背などの露光部に紅斑、水疱、びらん、痂皮などを生じます。繰り返し慢性化すると瘢痕やびまん性色素沈着、多毛などを生じ、皮膚はごわごわして厚くなるものの、一寸した外力で破れやすく、線状のびらん、色素沈着、瘢痕を残しやすくなります。
検査所見では血清鉄値、フェリチンの高値が特徴で、肝機能異常、B,C型肝炎ウイルス陽性も多くみられます。ポルフィリン体では赤血球のポルフィリン体は陰性で尿中のウロポルフィリン、コプロポルフィリンが高値となります。
治療は誘因となる飲酒や薬剤の禁止、遮光が原則です。一般的な治療方法は鉄負荷改善を目的とした瀉血療法です。2,3週ごとに300~500mlの瀉血を行います。これらのコントロールができれば予後は良好ですが、肝癌の併発も多くみられます。
【骨髄性プロトポルフィリン症 erythropoietic protoporphyria:EPP】
PCTに次いで多い病型です。
ヘム代謝系の最終段階で働くフェロケラターゼ(ヘムシンセターゼ)の欠損によってプロトポルフィリンが蓄積するために生じます。
臨床症状は光線過敏ですが、その程度は軽重種々で、軽微な小びらん、小瘢痕、色素沈着程度のみのケースから急性期に紅斑、びらん、紫斑、水疱などを生じ、慢性期には皮膚が厚く粗造となりシワが目立ち、強皮症様の外観を呈するケースもあります。
検査所見では、血中ポルフィリン体が増加し、かつ尿中ポルフィリン体は陰性です。蛍光赤血球、光溶血現象も診断の補助になります。現在は遺伝子診断が可能ですが、浸透率の低い常染色体優性遺伝とされており、染色体の遺伝子変異ともう1本の遺伝子の組み合わせで酵素活性の程度、発症するか否かが規定されているそうです。(図2)
治療は、ビタミンA前駆物質であるβカロテンが有効であるとの報告もあります。光線過敏発症に重要な役目を果たすfree radicalまたは1重項酸素を消去するとされています。皮膚症状のみの例では予後は良いですが、胆石、肝疾患との合併例があり、肝硬変や肝不全を生じるケースもあります。胆汁うっ滞にはデオキシコール酸、肝不全には肝移植、骨髄移植が試みられています。
増悪因子となるアルコール、バルビツレート、スルフォンアミド、エストロゲンなどの薬剤は避ける必要があります。
【先天性骨髄性ポルフィリン症 congenital erythropoietic porphyria:CEP】
極めて稀な疾患です。
ウロポルフィリノーゲンを生成するウロポルフィリノーゲンⅢ合成酵素(UROS)の活性低下によって尿、便、血中に異性体Ⅰ型ポルフィリンが蓄積、過剰排泄されます。
生後間もなくから高度な光線過敏が発症します。紅斑、浮腫、水疱、潰瘍、瘢痕など。繰り返していくうちに色素沈着、脱失が混在し、皮膚は粗造となり強皮症様となります。おむつがピンクに着色したり赤色尿で気づかれるケースが多いとのことです。
またポルフィリンが歯牙に沈着するために、赤色歯牙となります。溶血性貧血、脾腫、骨粗鬆症、角結膜障害など多彩な症状を呈し、予後不良ですが、一方軽症例もみられます。

図2

【付記ーヘマトポルフィリンによる光線過敏】  自験例より

癌治療に対する治療に光感受性物質とレーザー光源を併用して癌細胞を死滅させる治療法があります。これを光線力学療法(Photo Dynamic Therapy PDT)と呼び肺癌、食道がん、子宮頸がんなど各種癌の治療に応用されています。
これは基本的にはポルフィリン体を光感受性物質として用い、がん組織に集まったところに作用波長の光線を当てて癌細胞を死滅させる治療法です。
1980年代に肺癌、胃がんなどの治療法として実用化されましたが、当時はヘマトポルフィリン誘導体(Hematoporphyrin Derivative :HpD) が用いられていました。
治療のあとに、結構光線過敏症がみられました。現在ではより副作用が少ない物質で、腫瘍組織にターゲットを絞った方法に進化しているようですが、基本原理は同じです。
HpDの構造はプロトポルフィリンに似ています。後者の2つのビニール基が水和によってヒドロキシエチル基に変換したものです。HpDの吸収波長、作用波長は基本的にその他のポルフィリンと同様とされます。すなわち400~410nm(Soret帯)に強い吸収波長を持ち、一部は紫外部から可視光700nm近くまで及びます。
自験例は早期胃がんの患者さんに、アルゴンレーザー光照射48~72時間前にHpD2.5~5mg/Kgを静注し、内視鏡下に腫瘍に光を30分程照射治療が施行されました。静注10日前後で多くの患者さんの露光部に軽度から中等度の蕁麻疹様紅斑、浮腫、色素沈着がみられました(図3)。
BLBランプ(長波長紫外線)、Bランプ(ブルーライト、)、プロジェクターランプ(可視光線)にシャープカットフィルターを装着して検査したところ、作用波長は長波長紫外域から500nm以上まで紅斑を生じました(図4)。
ポルフィリン症の光線過敏は主に400~450nmと可視光にまで及んでいるのでより広い波長の遮光が必要ということになります。
ポルフィリン(原則HpDも同じ)の光線過敏の発症機序は先にも述べましたが、HpDにより吸収された光エネルギーはHpDを励起し、それが基底三重項状態の酸素(triplet oxygen)を励起一重項酸素(singlet oxygen)に変換します。同時にfree radicalも形成されます。これらにより組織の酸化が生じますが、細胞の膜、特に脂質に富むライソゾーム膜での過酸化脂質の形成が膜を損傷し、各種酵素を放出させ細胞障害を引き起こし、更にヒスタミンなどのchemical mediatorをも産生しさらに障害を」進める、と説明されています。

 図3

 図4

 

 BLBランプで励起されたHpDの赤色蛍光