ブルーム症候群

DNA損傷、ゲノム不安定症候群で光線過敏を呈する疾患として、XP,CSなどと共に上げられる疾患にBloom症候群(Bloom’s syndrome: BS)があります。非常に稀な疾患で世界で数百例、本邦でも数十例ですが、責任遺伝子がわかり、姉妹染色分体交換異常などの特徴があり、かつて大学在籍時に経験した例も参考にしながら書いてみます。

BSは1954年にDavid Bloomが日光過敏、顔面の毛細血管拡張を伴った紅斑、細身の体躯の小人症を呈した3例を一症候群として報告したのに始まります。その後、Bloom, Germanらは症例を集積して、東欧系ユダヤ人に多いこと、常染色体劣性遺伝形式を取ること、染色体異常がみられ、高発癌性があり、免疫不全からくる易感染性などが見られることも明らかにしました。1974年には本症で姉妹染色分体交換(sister chromatid exchange: SCE) が通常の5~10倍の高頻度に起こることが明らかになり、確定診断の手がかりとなりました。1995年には原因遺伝子のBLM遺伝子が同定され15q26.1に座位することが明らかになりました。それはDNAヘリカーぜのひとつでRECQL3ヘリカーゼであり、Werner症候群やRothmund-Thomson症候群とともにDNAヘリカーゼ病に分類されています。
【臨床症状】
最も特徴的な皮膚所見は顔面、頬部の毛細血管拡張を伴ったエリテマトーデスに類似した紅斑を認めることです。日光過敏のために生後直ぐから手などの露光部にも日焼け症状を生じますが、徐々に軽快し乾燥性の皮膚萎縮、色素沈着、色素脱失を残します。身体には多発性のカフェオレ斑を見ることもあります。
身体的特徴としては、低身長、低体重の痩せ型で、長頭、顔幅が狭く、頬骨の低形成があり、高音程の声、合指症、心肺異常、糖尿病、停留睾丸、睾丸萎縮などがみられます。
【免疫不全】
免疫グロブリンIgM, IgAの低下、T,B細胞の機能異常などにより、中耳炎、肺炎、上気道炎などが起き易くなります。
【高発癌性】
種々の染色体異常を伴い、20歳までに25%に悪性腫瘍を生じ、その多くが急性白血病や悪性リンパ腫です。その後は皮膚癌も含め、消化器系癌が多いとされます。
【検査・診断】
臨床的に本症を疑うことは難しいですが、低身長で特徴的な容貌、顔面の紅斑がそのきっかけとなります。確定診断には染色体異常、特にSCEの高値が重要です。また遺伝子異常が同定されれば確診に至ります。
【治療・予後】
遺伝性の疾患なので基本的には対症療法になります。すなわち日光過敏に対する遮光、免疫不全からくる感染症に対処することなどです。一番の問題はやはり若年で生じてくる白血病や悪性リンパ腫への対応です。これらのことより生命予後は良くないとされています。

 
高頻度SCE(ブルーム症候群) 放医研 辻 秀雄 先生による検査

DNA塩基アナログであるBrdUを2回のS期に亘って染色体に取り込ませ、それが1本鎖と2本鎖の染色分体に取り込まれたかによって、その染色性の差が異なります。これをみることによって姉妹染色分体交換の数を測定できます。

SCEは高頻度でしたが、自験例ではUDS(不定期DNA合成)、コロニー生成能からみた紫外線感受性は正常に保たれていました。

 正常頻度SCE

 SCE説明図(文献1より)

 BLM説明図(文献1より)

DNAを巻き戻すたんぱく質を総称してヘリカーゼといいますが、その中のひとつにRecQヘリカーゼがあり、ヒトでは5つがあります。(RecQL1, BLM, WRN, RecQL4/RTS, RecQL5)。5つのRecQのうち3つはヒトにおいて常染色体劣性の様式で遺伝するブルーム症候群、ウェルナー症候群、ロスムンド-トムソン症候群の原因遺伝子産物(BLM,] WRN, RecQL4/RTS)となっています。

ブルーム症候群の責任遺伝子産物のBLMの働きは上図のように説明されています。すなわち
A DNA二重鎖切断からの一本鎖DNA部分の削り込み
B Double Holliday junction(DNA相同組み換え中間体)の解消によるSCEの抑制
C DNA複製終結時の絡まったDNAの分離
D DNA複製時に生じた新生鎖同士の相補鎖形成(chiken foot structure)の解消
E 染色体分配時におけるultra-fine DNA bridgeの解消
BLMはTop3とカップルして複雑に絡みあったDNAのもつれを解消すると考えられています。従ってこの機能不全があればDNA二重鎖の巻き戻しに種々の異常を生じDNA二重鎖切断などのDNA障害を生じ、その結果として突然変異、種々の高頻度発癌に繋がっていくと考えられています。

参考文献

1)関 政幸 RecQヘリカーゼとゲノム安定性維持機構 東北薬科大学研究誌 60.1-11(2013)

2)向井秀樹 皮膚科臨床アセット 20 日常診療において忘れてはならない皮膚科症候群 総編集◎古江増隆 専門編集◎土田哲也 光線過敏症と考えたとき忘れてはならない症候群 22.顔面の蝶形様毛細血管拡張から疑うBloom症候群 東京:中山書店:2013. pp98-101

3)児島 孝行 他 Bloom 症候群の姉妹例 西日本皮膚科・44巻6号・昭57 p936-944