コケイン症候群

コケイン症候群(Cockayne syndrome :CS)は紫外線に対するDNA損傷の修復システム(DNA repair)の中でヌクレチオド除去修復、特に転写共役修復(転写領域のDNA損傷の優先的な修復)に異常があり発症する常染色体劣性遺伝性の疾患です。この疾患の一部は先に述べた色素性乾皮症の遺伝子異常を合わせ持っていますので、希少難治性疾患ではありますが、ここにまとめてみました。
この疾患名は1936年に英国の小児科医Cockayneが「視神経の萎縮と難聴を伴い発育が著明に低下した症例」として最初に報告したことに由来します。
本邦での発症頻度は2.7/100万人と非常に稀で、国内の患者数は100人以下とされます。
【原因】
CSの責任遺伝子はヌクレチオド除去修復系に関わるCSA(5q12.1)、CSB(10q11.23)、色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum : XP) B・D・G群の原因遺伝子であるXPB(2q14.3)、XPD(19q13.32)、XPG(13q33.1)の5つです。本邦のCS患者さんの責任遺伝子は55%がCSA、30%がCSBでXP遺伝子関連(XP/CS合併型)は15%だそうです。
【症状】
CSは臨床的にⅠ型、II型、Ⅲ型、XP/CS型に分類されます。
🔷CS I型(古典型)・・・最も多いタイプです。出生時は正常ですが、生後数か月から日光過敏がみられるようになります。1歳頃より著明な成長障害がみられます。また、言葉や歩行の発達が極めて遅いなどの精神運動発達障害もみられるようになります。2~3歳前後では早老様の特有の顔貌(老人様顔貌、落ちくぼんだ眼、鳥の嘴様の鼻、大きな耳、上顎突出、小頭、皮下脂肪萎縮など)がみられるようになります。10歳を過ぎると四肢関節拘縮が進み歩行困難となります。思春期までに視力、聴力の低下により失明、難聴となり、経口摂取が困難となり、経鼻栄養や胃瘻が必要になります。齲歯も好発します。また肝・腎障害、糖尿病、心血管、呼吸器、尿路感染などの全身性の疾患も生じやすくなり予後は極めて不良です。
🔷Ⅱ型(重症型)・・・出生時から症状があり、先天性白内障を伴います。予後は極めて不良で5歳までに死亡することが多いとされます。
🔷Ⅲ型(遅発型)・・・光線過敏の自覚はなく、成人になってからCS様の皮膚、神経症状の出現してくるタイプで中には60歳生存例もあります。
🔷XP/CS合併型・・・XPB・D・Gいずれかを合併した群でやはり予後不良で多くが5歳までに死亡します。雀卵斑様の色素斑は軽微ではありますが、紫外線防御を怠れば多発します。
【診断】
主徴候
1)著明な成長障害
2)精神運動発達障害
3)早老様の特徴的な顔貌
4)日光過敏症状
副徴候
5)大脳基底核石灰化
6)感音性難聴
7)網膜色素変性
その他CSにのみ必発ではないが多発する症状(略)
確定診断は遺伝子検査、DNA修復試験ですが、それが未施行でも主徴候、副徴候が揃い、他の疾患が否定でき、あるいは同胞にCSがあればCSと確定診断されています。
《分子遺伝学的診断》
・UDS(不定期DNA合成)・・・ヌクレオチド除去修復の中のゲノム全体修復系が維持されているCS細胞ではUDSは正常です。
・紫外線照射後のRNA合成能・・・CS細胞ではヌクレオチド除去修復の中の転写共役修復系に異常があるために低下します。
RRS(post-UV recovery of RNA synthesis)の著明な低下。CS細胞に紫外線照射した後のH3ウリジンの核内への取り込みをオートラジオグラフィーで検出します。
・CSA, CSB, XPB/CS, XPD/CS, XPG/CSのいずれの群に属するかの確定は紫外線照射レポーター遺伝子(ルシフェラーゼ発現ベクターなど)の宿主細胞回復能を指標にした相補性試験でなされます。
・CSA, CSBについてはこれらのCS遺伝子については遺伝子変異のホットスポットがないために、確定検査をするならば遺伝子の全エクソンの直接シークエンスが必要となってきます。
CSの遺伝子異常と様々な臨床症状との関係は未だ不明で、これからの研究課題だそうです。
【鑑別診断】
小児に発症する重篤な光線過敏症の一つで類縁疾患である色素性乾皮症は鑑別すべき疾患として重要です。
その他の遺伝性の光線過敏性疾患であるBloom 症候群やRothmund-Thomson症候群、早老症としてはWerner 症候群、プロジェリアなどが鑑別疾患としてあげられます。(これらの一部はDNAヘリカーゼの一種,RECQヘリカーゼ異常症として分類されています。)
【治療、ケア】
遺伝性疾患であり残念ながら根治的な治療方法は望めません。各症状、合併症に対する対症療法、患者ケアが主体となります。

国内ではコケイン症候群研究会や患者家族会(日本コケイン症候群ネットワーク(CSネット)があり活動しています。
この疾患の詳細はこれらのHPに述べられています。


コケイン症候群  光線過敏症があり、大きな耳、落ちくぼんだ眼窩、老人様顔貌など
特有な顔貌を認めます。

コロニー形成法による紫外線感受性試験
a. A群色素性乾皮症(▲、●)では高い紫外線感受性を示す。
b. コケイン症候群(◎、◬、▣)(二重枠)では正常コントロールに比べて紫外線に高感受性を示す。UDS(不定期DNA合成能)は正常。ブルーム症候群(▽、◇)ではコロニー形成法、UDSとも正常範囲内。

参考文献

森脇 真一 23 精神・身体発達遅延から疑うCockayne 症候群 皮膚科臨床アセット20 日常診療において忘れてはならない皮膚科症候群 総編集◎古江 増隆 専門編集 土田 哲也 東京:中山書店;2013.pp102-105.