色素性乾皮症( 3 )

【色素性乾皮症(XP)のDNA修復機構異常について】

錦織千佳子 色素性乾皮症 皮膚科の臨床 Vol57, No6, 897,2015 より

紫外線によるDNA損傷は、ピリミジン塩基が隣接する部位で起きやすく、隣り合った同士が二量体を作るシクロブタン型ピリミジンダイマーや6-4光産物が多く作られます。これらはDNA 二本鎖構造にゆがみを生じますが、この傷を修復する経路としてヒトではヌクオチド除去修復(nucleotide excision repair: NER)が存在します。これにはゲノム全体を一様に修復する全ゲノム修復(global genome repair: GGR)と、転写鎖で優先的に行われる転写共役修復(transcription coupled repair: TCR)がありますが、両者は損傷DNAの認識機構は異なるものの、それ以降の経路は共通しています。上図のようにNERのいずれかのステップにかかわる分子に障害があるとXPA~G群を発症します。近年その遺伝子の塩基配列、また遺伝子座は解明されています(前項、色素性乾皮症ガイドライン表、参照)。

またNERとは別に損傷乗り越え修復(translesional DNA synththesis: TLS)があります。DNA損傷によって複製がストップしてしまうのを避けるために傷はそのままにして、向かいの二重鎖に塩基を挿入して複製を進めていきます。XP-Vではこの系で働くDNA合成酵素h(DNAポリメラーゼη :POLH)に障害があります。この酵素はピリミジンダイマーの向かいの嬢鎖にA-Aを挿入して複製を進めます。本来error prone(誤りがち)な複製経路ではありますが、紫外線によるDNA損傷ではチミンダイマーが多いことから結果的にT-T A-Aの誤りの少ない複製となっています。

XP患者では各群で臨床的に違いがありますが、同じ群でもその表現型と遺伝型との間に相関があります。本邦のXPA患者では88%でXPA遺伝子のイントロン3、3‘側のスプライシング受容部位のGからCへのホモ変異が認められ(IVS3-1G>C)、創始者変異と考えられています。これは日本人XPA群患者のXPA遺伝子のホットスポットであり、PCR制限酵素断片長変化(AlwNI)によるPCR-RFLF解析によって検出されます。同じA群でもエクソン6のナンセンス変異の場合は症状の進行が遅く神経症状は成人になってから発症します。日本人ではV群においても創始者変異が認められます。日本人でのXP遺伝子の保因者頻度は全体で人口の3%、A群は1%とかなり高率です。たまたま両親ともに保因者であった場合は1/4の確率で患者が生まれることになります。

【診断と検査】

特徴的な皮疹、光線過敏、その経過によりなるべく早期に診断することが重要です。
XPを疑ったら次の順に検査を進めていきます。

🔷光線照射試験、最小紅斑量の測定

sun lampなどのbroad band UVB光源を患者背部に照射し、24時間後にかすかに識別できる紅斑が生じる最小の紫外線量(最小紅斑量 minimum erythema dose: MED)を測定します。TCRに異常がある群ではMEDが低下し、紅斑出現のピークも遅延します。GGRのみ障害されるC群、E群およびTLSに障害のあるV型では低下しないことが多いです。
明らかにA群が疑われる場合は不必要な紫外線の照射試験は避け次の検査に進みます。以下の検査は患者さんの皮膚生検組織から細胞培養を行い、線維芽細胞を用いて行います。

 

🔷紫外線感受性試験(コロニー形成法)

一定量の線維芽細胞をシャーレに撒き、紫外線を照射して細胞が死滅し、コロニーが減衰し、細胞が生き残る割合を非照射対照に対する百分率で求めます。A群が紫外線致死に対して最も感受性が高く、XP-Vは最も感受性が弱いとされます

近藤靖児・市橋正光 色素性乾皮症 p164 光線過敏症 金原出版 東京 2002 より

🔷不定期DNA合成能の測定

不定期DNA合成(unscheduled DNA synthesis: UDS)とは定期DNA合成に対応する言葉で、本来DNAが合成(複製)されないはずの時期におこる合成をさします。定期DNA合成は細胞周期のS期(synthesis period)におきますが、細胞が分裂せず、DNA合成もしないG0期などでは、普段外部からDNAの前駆物質である3H-チミジンを与えても取り込みません。しかし正常細胞に紫外線を照射したあとでは下図のa.のように取り込みます。少量のDNA合成、修復があったことがオートラジオグラフィーでわかります。しかし色素性乾皮症の細胞では下図b.のようにこの取り込みが欠損ないし低下しています。

XP細胞ではUDSは正常細胞の50%以下に低下しますが、 XP-Vでは70%以上は保たれています。

 

近藤靖児・市橋正光 色素性乾皮症 p178 光線過敏症 金原出版 東京 2002 より

🔷宿主細胞回復能(host cell deactivation : HCR)

Sendai ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスなどに紫外線照射し、これらのウイルスの希釈一定量をXP細胞が単層で隙間なく増殖した状態の時に、シャーレ内に散布します。そして1〜2週間培養します。ウイルスが増殖した部位は細胞融解を起こし、細胞がなくなり、プラークとなります。それはウイルスが増殖したことを示し、宿主細胞の修復活性能を反映しているとみなされます。XP細胞では(特にA群では)ウイルスの生存率が低下し、コロニー形成法と似たような生存曲線となります。

🔷相補性群試験

ポリエチレングリコールで処理することによって異なる人由来の細胞を融合させることができます。下図のように2種の細胞A,Bのいずれかあるいは両種の核を持つ2核細胞や多核細胞ができます。
これらに紫外線照射後トリチウム−チミジンを取り込ませ、UDSをみると、異なる細胞核(A-B)の入った細胞は、お互いに遺伝的に異なった欠損を相補うために、UDSは正常レベルまで回復します。これを相補性といいます。一方で同種の場合(A-AまたはB-B)はUDSの回復は全く見られません。このような検索を異なったXP細胞間で繰り返しA~G群までの相補性群が確定してきました。

近年はこのように面倒な細胞融合法ではなくて、紫外線照射したレポータープラスミド(ルシフェラーぜ発現ベクター)を患者細胞に遺伝子導入することによりHCRを指標にする方法で行われるようになり、検査の感度、迅速性が向上しました。但し、この方法ではNER低下の少ないXP-E, NER機能は正常でTLSに異常があるXP-Vの診断は困難だそうです(森脇真一  日皮会研修講習会テキスト より)。

細胞融合法


近藤靖児・市橋正光 色素性乾皮症 p163 光線過敏症 金原出版 東京 2002 より

🔷原因遺伝子産物の検出

XP-V患者ではMEDも正常で日焼け反応も起こさず、上記のコロニー形成法でも低下は少なく、UDSの低下も軽度とされます。これらの検査では確定診断に至りません。しかし、90%以上の患者さんでTLS(損傷乗り換え複製)で働くはずのPOLH蛋白の発現が認められないか、低下しているためにその蛋白の発現を検索することがXP-Vの確定診断に有用です。


🔷XP患者の遺伝子診断

近年XP遺伝子は同定され、遺伝子診断が可能になりました。特に日本人のXP患者に多く見られるXPA 群の患者ではXPA遺伝子のイントロン3、3‘側のスプライシング受容部位のGからCへのホモ変異が88%にヘテロ変異が9%に認められます。前者の遺伝子異常(IVS3-1G>C)は日本人患者のXPA遺伝子のホットスポットであり、PCR制限酵素切断片長変化で同定できます。遺伝子異常があると制限酵素で切断されますので2本のバンドがみられます。一方保因者の場合は、1本は切断され2本のバンドとなりますが、もう1本鎖は正常なので切断されません。従って合計3本のバンドが見られます。健常者では切断されませんので1本のバンドとなります。この検査は血液、頬粘膜、羊水などでも施行できます。重症のXPA群に対しては羊水による出生前診断が行われています。羊水9mlを2分して一方はPCRに、もう一方は培養に用いられます。

これら検査の詳細については、大阪医科大学皮膚科、神戸大学皮膚科のホームページで解説があります。神戸大学皮膚科では検査部と共同でXPの遺伝子診断を他病院からも受託可能なシステムを構築したそうです。

参考文献

光線過敏症 改訂第3版 監修 佐藤 吉彦 編集 市橋 正光  堀尾 武 金原出版 2002 東京

錦織 千佳子: 色素性乾皮症 皮膚科の臨床 Vol57,No6,892 2015

Visual Dermatology Vol.10 No.5 2011 特集 光線過敏症-最新の研究から遮光対策まで- 責任編集 上出良一