色素性乾皮症( 1 )

森脇 真一 先生(大阪医科大学皮膚科)の講演内容をまとめてみました。(一部他文献参照)

 色素性乾皮症(Xeroderma Pigmentosum: XP)は1870年オーストリアの皮膚科医 Kaposiらにより、色素異常を伴う重篤な光線過敏症として初めて記載されました。しかしこの病名は、病状が皮膚のみに限局する印象を与え、全身性疾患であることを反映していないとして、現在ではやや不適当という考えもあります。
1968年に米国の放射線生物学者CleaverがXP患者さんの細胞には紫外線によって生じたDNA損傷の除去修復機構が欠如していることを発見しました。それ以来この疾患の光線過敏の病態研究が解明、発展したのみならずヒトでの紫外線によるDNA修復機構の解明も飛躍的に進展してきました。
そこに至るまでには基礎科学者による大腸菌をはじめとした微生物によるDNA修復機構の研究の歴史がありました。
(DNA修復 武部 啓 著 東京大学出版会 1983 東京)
その後、XPの紫外線DNA損傷の修復システムの機能欠損は詳細に解明され、ヌクレチオド除去修復の異常で発症するA~G群(XPA~XPG)、損傷乗り越え合成異常で発症するバリアント群(XPV)の計8つの群に分類されています。
近年各群の責任遺伝子も同定されて、遺伝子変異の同定も可能となってきました。
 XPは高発癌性劣性遺伝性の光線過敏症です。その頻度は稀で、西ヨーロッパや米国でそれぞれ100万人あたり2.3人、25万人あたり1人ですが、本邦では10万人あたりに2.2人と推定され世界的にみても罹患頻度の高い国です。
また日本人では光線過敏症状、神経症状ともに重症であるA群が最も多く全体の半数以上を占め、さらにその80%以上にXPA遺伝子の同一の変異を認め創始者変異と考えられています。近年の研究ではその創始者は2400~3600年前の縄文時代に日本に現れ、120世代に亘ってこの島国で増え続け受け継がれてきたそうです。その創始者変異を持つ保因者(ヘテロ接合体)頻度は現代の日本人の113人に1人と決して少なくありません。現在は血族結婚は稀ですが、たまたま両親ともに保因者であった場合には1/4の確率で患者が生まれることになります。地域差もあり本州ではA群が多く、北海道、九州ではV群が、沖縄ではD群が多いそうです。日本人ではV群においても創始者変異がみられるそうです。
 XPという言葉、疾患が一般に広く知られるようになったきっかけは世界的には2001年 ニコール・キッドマン主演の”アザーズ”、日本では2006年の“太陽のうた”という映画、テレビドラマによるところが大きいそうです。その放映後60万筆もの署名提出が指定難病の認定に役立ったそうです。2005年には全国XP連絡会も結成されました。ただこの映画ではXPは「夜しか活動できない病気」「日の光に当たれない病」という趣旨の描写だけが強調されているきらいがあり、A群などの神経障害、聴力障害、精神発達障害などへ触れられることがほとんどなく連絡会では「主人公の設定に実際と異なる表現もあるが、映画を機会にXPに関心を持ってもらえることを強く願う」という旨のコメントを発表しています。
XPは新たな難病制度のもとで、平成27年1月より小児慢性特定疾病722疾患のひとつ」(14.皮膚疾患)として、また平成27年7月より指定難病(疾病番号159)として公的補助の制度が開始されたそうです。

XPの大雑把な歴史的な流れをみてきましたが、次に臨床、基礎的な面について触れてみたいと思います。

参考文献

光線過敏症 改訂第3版 監修 佐藤 吉彦 編集 市橋 正光  堀尾 武 金原出版 2002 東京

錦織 千佳子: 色素性乾皮症 皮膚科の臨床 Vol57,No6,892 2015

Visual Dermatology Vol.10 No.5 2011 特集 光線過敏症-最新の研究から遮光対策まで- 責任編集 上出良一