蕁麻疹(7)抗ヒスタミン剤使い方・注意

蕁麻疹の治療には抗ヒスタミン剤の使用が原則です。その中でも中枢神経移行性が少なく眠気の少ない第2世代の抗ヒスタミン薬が第一選択薬として推奨されています。
急性蕁麻疹では通常の抗ヒスタミン薬の使用で軽快した場合でも数日以上皮疹の抑制を確認するまで使用します。十分な症状の抑制ができなかった場合は慢性蕁麻疹に準じて治療します。
慢性蕁麻疹では抗ヒスタミン薬の効果には個人差があり、また効果が出現するのに3~4日を要することもありますし、続けていくと症状が軽減することもありますので、1つの抗ヒスタミン薬は1~2週間続けた後に効果判定します。それで効果が不十分だった場合は内服量を増加したり、変更したりします。内服時間を変更することで眠気などの副作用を減らし、効果を増すこともあります。
 ただ難治性の場合は薬剤の増量だけでなく、感染、ストレス、疲労、さらには抗ヒスタミン薬を含めた治療そのものが悪化因子になっていることもありますので、普段の生活様式や全身の状態、薬剤の必要性も再検討することも重要です。
しばらく蕁麻疹が出ないようならば内服量を減量、あるいは間隔を開けていきます。
 内服中止の目安は急性蕁麻疹では症状消失から1週間程度、1~2か月の蕁麻疹であれば1か月、それ以上の慢性蕁麻疹では2か月とされています。

抗ヒスタミン薬の効果が不十分な場合に増量するか、変更するかについては明確な基準はないようです。近年増量による有効性のデータが多施設での臨床研究で集積されてきています。ある程度効果があれば、すぐに変更せずに鎮静性の低い薬剤を2倍程度まで増量してみるのがよいようです。ただし、眠気などの有害事象や経済的な負担なども考慮する必要性があります。
第2世代の抗アレルギー薬にもかなり違いがあり、眠気などの副作用の少ないことを重視したタイプ(アレグラなどの「眠気軽減型」)や効果を重視したタイプ(アレロックなどの「効果重視型」)に分かれます。
 またTMAX(最高血中濃度到達時間)の短いレボセチリジン(ザイザル)、オロパタジン(アレロック)、ベポタスチン(タリオン)などは即効性ですし、T1/2 (消失半減期)の長いエバスチン(エバステル)などは効果の持続性が期待できます。
 それぞれ特徴があり、個々人の症状、好みなどによって使い分けられているようです。

第2世代の抗ヒスタミン薬は構造的に大きく2種類に分けられます。薬剤を変更する際は、異なる種類のものに変えてみるのも一つの手です。但し、明確な基準はありません。
三環系・・・・アレロック、アレジオン、ザジテン、クラリチン、アゼプチン
ピペリジン系・・・・アレグラ、タリオン、ザイザル、ジルテック、エバステル
抗ヒスタミン薬の副作用で一番問題になるのが、眠気です。薬剤によって【使用上の注意】に違いがあり、車の運転などの制限のないものから、「自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないこと」となっているものまであります。 
ただ、日常診療の印象では個人差が非常に大きくアレグラでも眠いという人はいますし、何を飲んでも2倍量飲んでも平気な人もいます。
また眠気を感じなくても認知機能障害、精神運動の障害、記憶障害なども第1世代の抗ヒスタミン薬で強く認められるそうです。 第2世代でも集中力が低下し作業効率などが落ちる場合もありますので、そのような副作用もありうることを知ったうえで内服することが必要になってきます。
第1世代抗ヒスタミン薬のように抗コリン作用の強い薬剤では、前立腺肥大患者の排尿障害、緑内障の悪化、口渇や粘膜乾燥症状、便秘などの注意事項があります。第2世代の薬剤ではそのような注意書きはみられませんが、やはり注意はしておくのが必要かと思います。
特に高齢者では注意が必要です。

添付文書における眠気の注意は下記のようになっています。
記載なし
 商品名        一般名       TMAX (時間)  T 1/2 (時間)
 アレグラ   フェキソフェナジン         2.2       9.6
クラリチン   ロラタジン              2.3       14.5
眠気を催すことがあるので自動車運転に注意させること
アレジオン   エピナスチン            1.9         9.2
エバステル   エバスチン              5.5         15.1
タリオン    ベボタスチン             1.2         2.4  
眠気を催すことがあるので自動車運転に従事させないこと
ザイザル    レボセチリジン           1          7.3
アレロック   オロパタジン            1.0         8.8
ジルテック   セチリジン             1.4         6.7
【以上 非鎮静性】
アゼプチン   アゼラスチン            4          16.5
ニポラジン   メキタジン             2          6.7
ゼスラン    メキタジン             2          6.7
【以上 軽度鎮静性】
セルテクト   オキサトミド            2.6         10.1
ザジテン    ケトチフェン            2.8         6.7
【以上 鎮静性】
上記の最高血中濃度到達時間(TMAX) 血中濃度半減期(T1/2) を参考にして症状、好みに適した抗ヒスタミン薬を選択していくことになります。
PET(Positron Emission Tomography)陽電子放射断層撮影を用いた画像解析によって抗ヒスタミン薬の中枢神経系移行性が定量的に解析されています。第2世代の抗ヒスタミン薬での脳内H1受容体占拠率は3~80%とばらつきがあるそうです。
20%以下の薬剤が非鎮静性に分類されているそうですが、これらは第3世代に分類されることもあります。

妊娠と抗ヒスタミン薬
薬剤の添付文書では「妊婦または妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること(妊娠中の投与に関する安全性は確立していない)」などとなっています。

妊産婦に対する抗ヒスタミン薬の使用については、ガイドラインでは次のように記載されています。
Q:妊婦に抗ヒスタミン薬を使用して良いか。
推薦文:妊婦、特に器官形成期である妊娠初期(受精後19日目から妊娠4カ月(15週末)頃)には使用しないことが望ましい。ただし、治療上の有益性が危険性を上回ると判断され、かつ十分な説明と同意がなされた場合には投与してもよい。

 現在まで集積されたデータからは、妊婦の抗ヒスタミン薬の投与で、対照群との有意差はなく、ほぼ安全と考えられます。しかし、これは安全性が証明されたということではありません。薬剤を内服していない健常な妊婦でも2~3%に何らかの先天的な異常があるとされています。ということは内服する限り、出生児に偶発的な異常が生じる可能性は0ではないということです。そのことを十分に説明し、納得した上で必要最小限の内服を行うことになります。
内服するばあいは、鼻アレルギー診療ガイドラインに記載されているオーストラリア基準、およびアメリカFDA基準を参照にして、動物実験で胎児・新生児への影響がなく、妊婦への使用経験の長い下記の薬剤を使うのが望ましいとされています。
クロルフェニラミン(ポララミン)(オーストラリア基準A、FDA基準B)、ロラタジン(クラリチン)(オーストラリア基準B1、FDA基準B)、セチリジン塩酸塩(オーストラリア基準B2、FDA基準B)(ジルテック)。
ヒドロキシジン(アタラックス)、オキサトミド(セルテクト)は使用しないようになっています。

授乳中の内服の注意点
ほとんどの抗アレルギー薬は母体血中から乳汁中に移行します。それで、薬の添付文書では授乳中は内服を避けるか、内服する時は授乳を止めることとなっています。ただし、児に移行する薬剤量はごく微量です。従って、普段乳児に使用される抗アレルギー剤については特に健康被害の可能性はないとされています。
皮膚科のガイドラインでは以下のようになっています。
推薦文:体内に吸収された抗ヒスタミン薬は乳汁中にも移行するので、授乳中は使用しないことが望ましい。しかし経口抗ヒスタミン薬が母乳中に移行する量は非常に少ないと考えられ、使用するか否かはリスクと有用性を踏まえて判断する。

参考文献

蕁麻疹診療ガイドライン 秀 道広 ほか
日皮会誌:121(7), 1339-1388,2011

皮膚科臨床アセット 16
蕁麻疹・血管性浮腫 パーフェクトマスター
総編集◎古江増隆  専門編集◎秀 道広 中山書店 2013