医薬品副作用被害救済制度

医薬品は当然医療上必要で、健康保持、病気の治療に役立っています。それは紛れもない事実ですが、残念なことに万全の注意を払って使用したとしても一定の確率で副作用が生じることは避けられません。皮膚以外にも内臓臓器を始め各科に関連の副作用が見られます。(厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル一覧 参照)
皮膚科においても、頻度はごく稀ながらSJS/TEN型薬疹を始めとして、重症の薬疹が時に発生します。勿論皮膚科医が処方した薬剤でも発症していますが、頻度的には他科で発症した薬剤性皮膚障害を診察することがはるかに多いです。
適正な目的のために用量・用法を守って使用したにも関わらず一定以上の健康被害を生じた場合には救済制度が適応され、給付金が支払われるようになりました。(PMDAによる医薬品副作用被害救済制度)
 ただ、救済給付の対象についてはいくつかの注意点、制限があります。
🔷対象となるのは1980年(昭和55年)5月1日以降に使用した医薬品
🔷使用方法が適正な用量・用法であること
🔷日常生活が著しく制限され、入院を余儀なくされる程度の障害または死亡例
🔷救済給付の対象外の場合もあります。
●法定予防接種によるもの
●医薬品の製造販売業者に明らかな過失がある場合
●通常の使用量を超えて使用し、副作用が発生した場合
●抗がん剤、免疫抑制剤など対象除外医薬品によるもの
●軽度な健康被害
●医薬品の不適正な使用による場合(適応外使用例については当時の医学薬学の総合的な見地から個別に判断されます。)
🔷給付の種類
医療費、医療手当、障害年金、障害児養育年金、遺族年金、遺族一時金、葬祭料などがあります。

給付方法は患者さん、または家族などが独立行政法人医薬品医療機器総合機構(略称:医薬品機構/PMDA)(下記)に請求して行うことになっています。まずは皮膚科主治医に相談するところから始まると思います。
〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-3-2 新霞が関ビル10階 
☎ 0120-149-93
http://www.pmda.go.jp/kenkouhigai/fukusayou_dl/

🔷上記のように日本には健康被害に対する世界的にも優れた救済制度がありながら(世界的にみてこのような公的制度があるのはドイツと台湾のみだそうです。近年は北欧の一部、韓国でも死亡例に対し同様な制度が導入されているそうです。)、時にはトラブル、医療訴訟につながる例もあるそうです。
長年皮膚科専門家として医療訴訟の鑑定人を務めてこられた昭和大学名誉教授の飯島正文先生のコメントを以下に掲げます。

「訴訟事例からみて、SJS/TENにおける早期の臨床診断の難しさ、失明や死の転帰をとりうる臨床症状のあまりにも急激な悪化に対する誤解や無理解、インフォームドコンセントにおける医師ー患者間の薬品に対する理解不足・誤解からの医療不信が主な原因となっている」とのことです。

「適用外使用された医薬品による重症薬疹は(仮に患者に良かれと思って使用しても)医薬品機構の救済対象外であり、医師の責任には重いものがある。」

「SJS/TENという疾患は、いったん発症すれば急激に重症化する可能性のあることを患者・家族に十分説明して同意を得る適切なインフォームドコンセントがすべてであり、眼科医との連携も重要である。」

🔷治療については、様々な臨床研究がなされ、治療成績が向上しているものの、先に述べたようにある程度の致死率のある重篤な疾患であることは否定できません。いずれにしても、重症化の兆候があれば、できるだけ早期に専門医療機関に入院して集中的な治療を開始することが重要と思われます。

参考文献

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療ラインのフロントライン
総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 東京 中山書店 2011
落合豊子 12 医薬品副作用被害救済制度の利用法 pp 51-53
飯島正文 13 薬疹の医療訴訟では何が問題点とされるか pp54-58

薬疹の診断と治療アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編 医薬ジャーナル社 2016
飯島正文 22. 重症薬疹に対する医薬品副作用 被害救済制度の概要と現況 pp197-207