SJS/TEN型薬疹治療

SJS/TEN型重症薬疹の治療には、副腎皮質ステロイド薬(ステロイド)の全身投与、血漿交換療法、大量ヒト免疫グロブリン製剤静注療法(IVIG: intravenous immunoglobulin)、免疫抑制剤の投与などが行われます。しかしながらこれらの治療法についての評価は世界的に一致をみておらず、世界標準治療法は確立されていません。
本邦では、ステロイド剤の大量投与が標準とされ、治癒率、生存率の向上に寄与していますが、海外ではまだステロイド剤使用への否定的な意見も多いそうです。しかし海外でもステロイド大量療法の効果を示す報告も増加しているそうです。
重症薬疹の治療法は近年進展してきています。それでもSJSの3~5%、TENの20~30%は死亡し、各々の11%,30%に後遺症を残すとされます。後遺症には陰部病変の瘢痕や視力障害、口腔乾燥、爪の脱落などがあります。

治療の前提として当然のことながら被疑薬を中止することがまず必要です。その上で補液、栄養管理などの全身管理のできる医療施設で早急に入院治療を開始することです。また痛みを伴う全身性の水疱・びらんなどへのアズレン軟膏や油脂性軟膏の使用トレックスガーゼなどでの保護、二次感染に対する抗生剤含有軟膏などの使用は重症熱傷の治療に準じます。

🔷ステロイド薬の投与法
使用法の要諦は、表皮剥離などの症状が進展しない早期にステロイドパルス療法などで大量に投与し、皮膚粘膜傷害の進行を早期に阻止することです。中途半端な量を使用したり、急激に中止したりなどの不適切な使用法を行うと、予後が悪くなることが示されています。また、早期大量療法によっても症状の改善がない場合は、そのままずるずると引きずらないで血漿交換療法、IVIGなどの他の療法の併用を考慮することが肝要です。
 ただ、具体的なステロイドの量は病勢、表皮剥離の度合、使用時期、感染症の有無などにより個々に決めていく必要があります。
一般的にはステロイドパルス療法はメチルプレドニゾロン500~1000㎎/日を3日間点滴静注、またはプレドニン換算で1mg/kg/日程度(中等症で0.5~1mg,重症では1~2mg)使用します。
治療効果がみえたら、4~7日後に10mg/日、または20%程度減量し、1週間程度で漸減していきます。このステロイド薬の使い方は個々のケースで微妙に異なり、一律ではなく一種職人芸的なところもあります。
🔷眼症状の対処
急性期の眼科の治療が高度の視力障害や重症ドライアイなどの後遺症を軽減するのに重要であるとされています。眼科医の頻回のチェックのもと、ステロイド点眼薬や抗菌薬の使用を行います。急性期に角膜上皮幹細胞が消失すると失明などの重篤な視力障害を残します。また硝子棒を用いた眼球癒着防止も必要です。
🔷感染症への対応
広範囲な表皮剥離、気道粘膜傷害、ステロイドの大量投与はなどは全身感染症のリスクを高めます。細菌感染、真菌乾癬、マイコプラズマ、サイトメガロウイルス感染などへの対処が必要となってきます。
🔷血漿交換療法
2006年にSJS/TENの治療法の一つとして健康保険の適応になりました。単純血漿交換療法と、二重膜濾過血漿交換法(double filtration plasmapheresis: DFPP)があります。後者は高分子物質を濃縮血漿として除去し、低分子物質と液性成分は患者に戻す方法で廃棄血漿量が少なく、新鮮凍結ヒト血漿を必要としない利点があります。
ステロイド薬の治療に抵抗性の症例に適応になりますが、粘膜疹発症5日以内が効果的とのことです。DFPPでも効果があるので、除去された病因物質は100kDa以上の高分子と考えられますが、その詳細についてはまだ明らかではありません。
ただ近年はグラニュライシンなど低分子炎症性サイトカインが病因の一つという報告もあり、理論的には単純血漿交換療法の方が効果的と考えられています。
🔷IVIG
多くの難治性の炎症性疾患に用いられてその有効性が示されてはいますが、作用機序、使い方は十分に解明されてはいません。
SJS/TENに関しても海外では0.5~1g/kg,4~5日使われているのに対して、本邦では0.1~0.4g/kgを3日程度使用する例が多いようです。(ガイドラインでは0.4g/kg/日を5日間)。また海外の単独使用に対し、本邦ではほとんどステロイド薬との併用で、直接効果比較はできません。IVIGの働きについては抗Fas抗体やグラニュライシンが表皮細胞のアポトーシスに関与するとの報告がありますが、解明には至っていません。近年はIVIGは抑制されたTreg機能を回復させることによって効果を発揮しているという報告もあります。
この療法は臓器障害、血栓・塞栓などや肺水腫、アナフィラキシーなどの副作用の報告もありますが、感染症や糖尿病を併発してステロイド薬を使えない患者さんなどは良い適応となります。

🔷重症薬疹の情報サイト

いろいろな情報がありますが、信頼度の高いものとしては下記のものがあります。

1)日本皮膚科学会ホームページ 一般市民の皆様 皮膚科Q&A 薬疹(重症)
                会員・医療関係の皆様 ガイドライン・指針 
重症多形滲出性紅斑スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症診療ガイドライン

2)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル一覧 ●皮膚(平成29年6月改定)

参考文献

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療のフロントライン
総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 東京 中山書店  2011

薬疹の診断と治療 アップデート 重症薬疹を中心に 
塩原哲夫 編 医薬ジャーナル社 2016

重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症 診療ガイドライン 重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会 日皮会誌:126(9),1637-1685,2016