シミの治療

 先日シミの治療についての千葉県皮膚科医会の講演がありました。
講師は当ブログでも度々引用、登場しているシミのスペシャリスト葛西健一郎先生でした。
名著「シミの治療 このシミをどう治す?」の著者でもあります。第1版は2006年の発売、第2版は最近リバイズドバージョンがでました。小生は2冊とも購入しました(別に自慢でもなんでもありませんが)。
数々の講演を聴いてきて納得できる内容と思っています(個人的な意見で、客観性は保証しません)。

顔のシミについては、当ブログでも過去に数回にわたって、かなり詳しく述べました。(2012.2.19, 2013.11-2014.1 シミ、肝斑 、そばかす、PIH, ADM, 老人性色素斑など)そちらのほうも参考にしてみて下さい。

当日の講演の初めに「顔はシミの万華鏡」という言葉がありました。帝京大学の渡辺先生が統計で示されたように、ひとくくりに「シミ」といっても実に様々な疾患、病態が含まれています。同じ人の顔にも複数の異なる種類のシミが混在して現れることがよくあります。まさに万華鏡といわれる所以です。
その中でも しっかり押さえておくべきもの、(重要な鑑別疾患)は以下の疾患であるとのことで、それを重点的に解説されました。
もちろん、メラノーマなどの皮膚ガンはとても重要ですが、それらは割愛して。
#肝斑 #雀卵斑 #老人性色素斑 #後天性真皮メラノサイトーシス(ADM) #炎症後色素沈着(PIH)

#雀卵斑・・・いわゆる「ソバカス」のことです。IPLでもQスイッチレーザーでもピコレーザーでも取れますが、また再発します。
#老人性色素斑・・・脂漏性角化症とも呼ばれるように基本的に良性腫瘍です。ということは、シミが薄くなることではなく、きっちり取り除くことを目指すべきです。その意味では、IPLはよくありません。シミが薄くなってくると取れません。炭酸ガスレーザーやQスイッチレーザーが適応になります。それより絶対的優位ではないものの、ピコ秒レーザー(PicoSure, PicoWayなど)はよい適応です。
#ADM・・・幼若メラノサイトの原因不明の活性化によります。真皮のメラノサイトによるものなので、褐色からやや灰色がかってみえます。発生部位によって6部位に分けられます。6部位の完全型は2%、頬型(頬骨突出部)が80%、下顔瞼が24%に見られます。肝斑と異なり眼瞼にも生じ、頬部はびまん性の三日月型ではなく、ボタン雪状に小斑性にみられることが多いです。額の外側びまん性型は28%、Qスイッチレーザーのよい適応となります。ピコレーザーはダウンタイムが少なくよい適応です。適切に治療されれば再発しません。
#PIH・・・炎症後3-6週後に生じてきます。正常の生体反応ですので1年経てばほぼ軽快してきます。それで治療法は積極的無治療が最善です。治そうとしていろんなことをする事が、却って治癒を妨げます。一番まずいのが、マッサージなど擦ること、従って化粧も、洗顔剤も、日焼け止めも避けさせます。特に日本人はマメにスキンケアしようとして、やたら顔を擦ることがあるからです。ハイドロキノンも勧めません。ただ不安をとり除き肌状態をチェックする目的で毎月受診してもらいます。
#肝斑・・・肝斑の成因についてはいくつかの都市伝説があります。いわく、紫外線、女性ホルモン、ストレスなどなど。成書にもまとこしやかに書いてあります。しかし、目の下がくっきり抜けてそこに紫外線が当たらないでしょうか。男性だって肝斑になります。演者の考える根本原因は擦りすぎによる皮膚のバリア破壊です。反射モードのダーモスコピーで顔の皮膚表面を観察するとそれがハッキリと見てとれます。刺激を避けることによって皮膚のキメが回復して肝斑も軽快していきます。治療に関しては、以前からトラネキサム酸(トランサミン)、ケミカルピーリングなどがありました。トランサミンの効果については以前はエビデンスレベルの高い文献はすくなかったものの、最近は中国、韓国からC1-Bレベルの報告があがってくるようになったそうです。一方、ある時期よりレーザートーニングという施術が喧伝されるようになり、本邦の美容界でも一世を風靡しました。ただ時が経つにつれてその副作用を目にするようになり、演者はアンチレーザートーニングを主張するようになりました。肝斑が擦りすぎなどの外的刺激によるものであるとの自説に基づき、レーザーもかえって刺激になりうること、また過度に照射して白斑を作った場合には永久に戻らないことなど鑑みて肝斑に対するレーザートーニングには異議を唱えています。演者(葛西健一郎)のホームページを見るとレーザートーニングの真実~業者によって作られた施術~というタグがあり、やや刺激的な内容ではありますが、開発の頃から最近までの流れが述べられています。勿論葛西先生の個人的な見解ではありますが、レーザートーニングに興味のある人、現に施術を受けている人は一読の価値はあると思います。
最近は従来の機器に代わってピコ秒レーザーによる肝斑のレーザートーニング(ピコトーニング)がでてきたそうです。これも原理的には葛西先生に言わせると2匹目のどじょうとのことです。
レーザートーニングで具合が良いのは、内服を併用しているケースが多く、毛が焼けて肌がすべすべすること、何か施術をやってもらって安心すること、なども関与するのではないかとのことです。
ただ、最初にも述べたように顔には様々なシミが同時にでます。肝斑の治療と肝斑も併発している人の治療は違います(ADMと肝斑の合併(重複)例は非常に多いです。一番大切なことはシミの正確な診断、見極めです。レーザーは老人性色素斑などの器質的な疾患には強いが、肝斑などの機能的なものには無力だと知ることが重要です。その上で、レーザーはしっかり照射します。当て残しは恥で、炎症後色素沈着は恥ではありません。自信を持って治癒を待てばよいのです。

葛西先生の当日の講演は独自の説も混じっていたようですが、長年の経験と実績に基づいた講演は説得力がありました。
美容の分野、特にレーザー機器は開発が目覚ましく、理論やエビデンスが実践に追いついて行かないように思われます。
乳児血管腫に対するレーザーの適応、フラクションレーザーの瘢痕への効果なども専門家によって意見が異なります。
そういいつつも韓国、中国のこの分野での進出は目覚ましく、AAD,EADVなどの商業展示ブースではアジアからはこの両国で溢れかえり、日本からの展示はほぼみかけません。講演についても同様です。また最近のEADVは学会最終日はレーザー、フィラー、ボトックス一色のさながら美容学会の様相を呈してきています。
若き日に東芝のQスイッチルビーレーザーを用いて太田母斑が完治することを世界に初めて知らしめた渡辺先生、その辛口の解説で日本のレーザー界の重鎮の一人であった帝京大学の渡辺教授も退官されました。葛西先生も一開業医です。色素の分野でアジアを、あるいは世界の皮膚科をリードしてきた日本の皮膚科の科学的な実力が問われ、期待されるところです。