小児の急性発疹症・はしか

神戸の日臨皮での薬疹のシンポジウムから。
小児の急性発疹症は小児科へも皮膚科へも受診があります。疾患も両科にまたがるケースも多く、日常診療で対応に苦慮するケースもあります。小児科の立場からの重要事項の解説がありました。

小児の急性発疹症への対応策~小児科医の立場から  (中野貴司先生 川崎医科大学 小児科 教授)

症状を軽減させる治療は最も重要ですが、家族が理解・満足できるような説明を心掛けることの重要性を述べられました。
小児の急性発疹症では感染症が多いことが特徴です。勿論、前回までに述べたように薬疹もみられますし、鑑別が重要になってきます。

🔷症状が多彩で、短期間で発疹の性情が変化する
例えば、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS: staphylococcal scalded skin syndrome)は乳児に好発しますが、しばしば短期間、短時間で発疹のの性情が大きく変化します。口囲の発疹(放射状亀裂、びらん、眼脂など)が半日で全身に拡大することもざらです。菌の出すexfoliative toxin(表皮剥奪毒素)が血中から全身にまわり全身に紅斑、水疱、表皮剥離を生じるからです。家族にその可能性を伝えておかないと、急激な変化、重症化にショックを受けて、治療、医師に対する不信感につながることもあります。

🔷合併症、後遺症が残りうる疾患
これらは成人以上に懸念されることが多く、告知、合併症の説明が遅れると、そのことが予後に悪影響を及ぼしたのではないかと憂慮する家族は多いです。
A群溶連菌感染症の急性糸球体腎炎や、リウマチ熱、IgA血管炎による腎合併症、川崎病による冠動脈瘤などが該当します。
(これらは小児科でみる疾患ですが、皮膚症状は当然皮膚科に来ます。簡単に下記に述べます。
*A群溶連菌感染症・・・いわゆる猩紅熱(以前は届け出が必要だったために同名は避ける傾向がありました。)高熱、咽頭痛、口囲蒼白、苺状舌、全身の紅斑を主症状とします。発疹は頚部、腋窩、鼠径部、大腿などの屈曲部から全身に拡大します。毛包性紅色丘疹で、ざらざらした感があります。頬が真っ赤になり、口囲は白くなる、いわゆる猩紅熱顔貌を呈します。関節部では皺に沿って線状に皮疹ができ、時に点状出血、水疱もみます。舌は白苔(白色苺状舌)を呈し、これがはがれると赤色苺状舌を呈します。1週間程度で暗赤色となり、落屑となります。手足は時に膜様に皮むけします。ペニシリン系抗生剤を少なくとも10日間使用。急性糸球体腎炎(10~15%),リウマチ熱(0.3~3%)。
A群溶連菌感染症には稀に劇症型といわれ、重篤な経過をたどるものがあります。(いわゆる人食いバクテリア)。最近菌の遺伝子変異によることが分かってきていますが、免疫低下などの要因も想定されています。
*IgA血管炎・・・(アナフィラクトイド紫斑、ヘノッホ・シェンライン紫斑)。頭痛、発熱、関節痛などを伴って主に下肢に点状~爪甲大の紫斑を生じます。発症後6か月間は糸球体腎炎のリスクがあります。定期的な尿検査を要します。特に血尿に蛋白尿を伴うケースでは要注意です。
*川崎病(急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群)・・・原因不明の発熱、皮膚粘膜病変、リンパ節腫脹、中型血管炎を主徴とする疾患。溶連菌、ブドウ球菌、EBウイルスなどの関連が想定されています。
39度前後の高熱が5日以上持続。眼球結膜充血。(ウサギの目の様と形容されます。)頚部リンパ節腫脹。口唇の発赤、乾燥、亀裂。苺状舌と口腔粘膜の発赤。手足の硬性浮腫・紅斑、テカテカ・パンパンに腫れる。回復期には手袋状に皮むけ、膜様落屑。第2~4病日より体に不定形発疹(多形紅斑、麻疹、風疹、猩紅熱、じんましんなど様々に似た発疹)、BCG接種部位の発赤、時に水疱(これは他の疾患ではみないので特異的)。急性期に70~80%に心臓障害(心雑音、不整脈など)、ごく稀に突然死、心筋梗塞。発熱が11日以上持続すると冠動脈瘤を発生し易い。アスピリンを主体とした抗炎症療法、大量γーグロブリン点滴による冠動脈瘤の抑制など。
(ちなみに発見者の川崎富作先生は千葉大学の出身で、かつて発見に至る苦労話をお聴きしました。原因は不明ながら全身性に中型の血管を侵す血管炎で日本人をはじめアジア人で多くみられるようです。全身臓器を対象とする血管炎のChapel Hill分類が1994年に提唱され、2012年にはその改訂版が提唱されました。人名を冠した疾患名(Eponym)を廃止する方向で改正が行われ、Wegener肉芽腫症、Churg-Strauss症候群、Henoch-Schonlein症候群は原則なくなりました。その中にあって日本人の名を冠した高安動脈炎、川崎病は残りました。日本人学者の希望もあったようですが、何か誇らしい感じを受けます。ーーー余談でした。)

🔷感染伝播が問題となる疾患
*妊婦への影響・・・風疹、伝染性紅斑(リンゴ病)、水痘 これらは原因ウイルスが胎児異常をきたす可能性があるために、診断、説明は慎重に行う必要性があります。
*基礎疾患のあるケース・・・麻疹、水痘は白血病などの基礎疾患、免疫抑制状態であると重症化します。
*集団生活での対処の注意・・・小児の感染性発疹症は学校保健安全法施行規則によって出席停止期間が定められている疾患も多いです。
(一部抜粋)
出席停止の期間
麻疹・・・解熱後3日を経過するまで
風疹・・・発疹が消失するまで
水痘(みずぼうそう)・・・全ての発疹が痂皮化するまで
ちなみに
手足口病・・・口内の発疹で食事がとりにくい、発熱、体がだるい、下痢、頭痛などの症状がなければ、学校を休む必要はありません。
伝染性紅斑(りんご病)・・・顔が赤くなり、腕や腿、体に発疹が出たときは、すでにうつる力が弱まっていることから、発熱、関節痛などの症状がなく、本人が元気であれば、学校を休む必要はありません。
伝染性膿痂疹(とびひ)・・・病変が広範囲の場合や全身症状のある場合は学校を休んでの治療を必要とすることがありますが、病変部を外用処置して、きちんと覆ってあれば、学校を休む必要はありません。

近年、予防接種の普及によって、疾患構造は大きく変化してきました。麻疹は土着株ウイルス(D型、H型)の伝播は断ち切られました。(2015年WHOにより認定)。しかしながら報道にもあるように外来株(B3型)による集団感染は散見されます。ワクチン未接種者、1回接種者を中心に感染し、2回接種者が多い年代は少ない傾向です。従って0~4歳と20~30歳代に多い傾向です。麻疹患者の激減に伴い小児科医サイドの問題として(皮膚科医も)1例の麻疹も診察しないままに専門医となる小児科医が増え、麻疹と薬疹とが誤診されるケースが散見されます。
修飾麻疹・・・ワクチン1回接種しても十分な免疫がえられなかったり、抗体価が減弱した場合に生じる軽症麻疹でコプリック斑もみられない。
異型麻疹・・・1960年代に用いられた不活化ワクチン(Kワクチン)接種後の麻疹で現在はほぼみられない。紅斑、紫斑、丘疹を多発し、肺炎など重症化した。コプリック斑はみられない。
麻疹IgM抗体は非特異陽性があり、突発性発疹、伝染性紅斑、デング熱などで弱陽性になります。また麻疹でも発疹3日目までは陰性です。
上記のように、麻疹が広くみられないこと、しかし輸入感染症として時に集団発生すること、修飾麻疹の比率が多くなっていてコプリック斑も見られないこと、皮疹も典型的でないこと、IgM抗体検査の不確実なことなどを考えると血液、咽頭ぬぐい液、尿からのウイルスの検出(RT-PCR)が必要かと思われます。
水痘についても、水痘ワクチンが2014年10月から定期接種となり、水痘患者が激減しました。疾患構造も変化し 、しばらくは帯状疱疹患者が増えることも予想されます。ワクチン接種済みの水痘患者も時に見られ、軽症で発疹の性情も典型的でない場合もあります。
このように、必ずしも典型的でない麻疹、水痘なども見られることから、より慎重な診断、対応が求められます。