薬疹と感染症

 すでに賞味期限切れかも知れませんが、先日の神戸での日臨皮総会の続きです。
薬疹のセッションを覗いてみました。それぞれの演題を通して、薬疹と感染症との鑑別の重要性、困難さ、はたまた細菌、ウイルスと薬疹の密接かつ微妙な関連が話題となっていました。
感染症と薬疹の関係は本当に難しく、奥深いテーマです。個人的には永遠のテーマかとも思います。
 この関係については、ごく初歩的なものから非常に困難な、現在の最先端の医学でも解明できていないものまであるかと思います。
例えていえば、”とびひ”を薬疹と診断したり、”水ぼうそう”(水痘)を薬疹と診断したりするのは前者でしょう。
 しかし、これも時期によっては診断が難しく、ごく初期の水痘は虫刺されと区別がつきません。また”とびひ”などのブドウ球菌性感染症もSSSS(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群)やブドウ球菌毒素性ショック症候群となるとSJS/TENなどの重症薬疹との区別が難しいこともあり、重症薬疹のガイドラインではSSSSを除外することは重要な項目の1つとなっているほどです。
診断がついてしまえば、なんでわからなかったと非難されることもありますが、「後医は名医」という言葉もあります。出来上がった皮疹なら簡単に診断できることもあります。
 さらに、困難な、いわば上級編の感染症と薬疹の関係もあります。麻疹(はしか)と伝染性単核球症、DIHS(薬剤性過敏症候群)との区別は時に困難です。会場からは麻疹はコプリック斑などをみれば確実に診断できる、はなから薬疹との鑑別が困難と決めつけるのは如何なものかと思う、との意見もありましたが、確かに専門医でも困難な例はあるようです。コプリック斑も明確でない、IgMは時とし偽陽性を示す、皮疹の分布、白血球数、発熱も典型的でない、特に単回予防接種後の修飾麻疹では難しいことを専門の先生が述べていました。ウイルス抗体価検査は、1回、1種類の検査では確定診断できず、ウイルス間の交叉反応もあり却って誤診する危険性もあります。
さらに、DIHSのウイルスと薬疹の関係、HIV患者での薬疹、GVHDにおける発疹、ヘリコバクター・ピロリでの除菌後の薬疹、ピロリ菌そのものの関与などになるともう、感染症、薬疹が両者とも密接にからみあった病態ともいえる程です。
 これらは専門の先生の話を聴いても完全に理解するのはかなり難しい感があります。細かく書き写しても一般的にはあまり意味はなさそうです。ただ、外来診療において急性の全身性の発疹のある患者さんを前にしてよく「原因は何ですか?」「うつりますか?」と聞かれ、なかなかすっきりした答えができないなかには上記のようなとても難しい背景が隠れていることも理解してほしいのです。(最近では、風疹、麻疹だけでは話は終わりません。皆さんご存知のように、突発疹 、デング熱、チクングニア熱、ジカ熱もあります。聞いたことも無いようなウイルス感染症の報告も有ります。実臨床では原因の特定できていないウイルス性発疹症は結構有るのだと思います。それでも原因は何ですかと、仰るお母さんもあります。抗体価を調べられないことはないけれど2週間ごとのペア血清の採血が必要で全部やると保険はきかないので数万円もかかります、しかもその頃には治っていますというとやめますと仰います。)

中でも小児の急性発疹症で急性ウイルス性発疹症の種類の多さ、原因ウイルスの同定の難しさ、細菌感染症、さらに川崎病などと薬疹の鑑別診断の難しさ、多彩さを考えるとさらにその感が増します。
そこいらの鑑別、対応が非常に難しいながら、日常的によく遭遇し、対応を誤ると後々トラブルにもなりかねない小児急性発疹症のエキスパートの講演内容は次回に。