たかが手湿疹されど手湿疹

湯島皮膚アレルギー研究会に出席しました。東京医科歯科大学主体の研究会なので部外者ですが興味ある演題なので参加しました。
【手湿疹診療のコツ〜手湿疹ガイドラインについて】高山かおる先生(埼玉県済生会川口総合病院)
【皮膚科の自己炎症性疾患:DITRAとCAMPS】杉浦一充先生(藤田保健衛生大学)
乾癬に興味のある小生にとってDITRA,CAMPSは興味があり、魅力的な演題でしたがあまりにも基礎的というか、一般的ではない分野なので今回はスルーです。(興味ある方は以前書いたブログ記事、膿疱性乾癬(2)病因2016.1.15も参考にして下さい。)
一方、手湿疹は外来診療をしていると毎日何人も見るcommon diseaseの代表ともいえる疾患です。簡単な手荒れなら大学病院などには行かず街の開業医にかかると思います。それ程に普通の疾患なのに治らない人はなかなか治らず、苦労することもままあります。簡単そうで奥が深い疾患です。普通すぎるのか、普段学会では手湿疹のセッションはあまりお目にかかりません。(接触皮膚炎の一部としては取り上げられているのでしょうが。)今回はなかなか実用的な演題で興味をひきました。
(以前EADVで聴いた手湿疹ガイドラインの話、千葉県皮膚科医会で聴いた高山先生の話も参考にして下さい。
(2013.10.17イスタンブール 手湿疹、2016.2.8 接触皮膚炎2016)
日本でも最近手湿疹ガイドラインがまとまったとのことでそれに沿った分類、治療のお話でした。

手の湿疹は、手に触れた物全てが原因となる可能性がありますが、職業性接触皮膚炎の頻度が高いとされます。
◆手湿疹は大きく下記のように分類されます。
《病因・病態から》
・刺激性
・アレルギー性
・アトピー性皮膚炎に伴うもの
・たんぱく質性接触皮膚炎(接触じんましんを含む)
《形態から》
・角化型
・進行性手掌角皮症
・貨幣状湿疹型
・汗疱型、再発性水疱型(全身性接触皮膚炎を含む)
・乾燥、亀裂型
いくつかのトピックについて
◆ゴム手袋、ラテックスアレルギー
ゴム手袋のアレルギーは有名ですが、Latexはゴムの木(Hevea brasiliensis)の幹に傷を付け、そこから得られた白い樹液で、その抗原はHev b1~Hev b10まであります。
ラテックスによる即時型(I型)アレルギーで、接触じんましん、アナフィラキシーショックを生じます。
ハイリスクグループと言われているのは1)医療従事者で特にアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎などで手に傷のある人
2)二分脊椎症などのように繰り返し手術を受けたり、留置カテーテルなどで常にラテックスとの接触のある人3)ラテックスと交差抗原性を持つアボガド、バナナ、クリ、キウイフルーツなどにアレルギーのある人などです。(ラテックス・フルーツ症候群)
二分脊椎症ではHev b 1.3が手袋ではHev b 6.02が抗原とされています。IgE特異抗原はラテックス、Hev b 6.02など血液検査で安全に施行できますが、偽陰性も多く、プリックテスト、ゴム手を使った使用テストなどはアナフィラキシーの危険性もあるので、これらの検査は専門病院で行われるべき検査です。
たんぱく質などの高分子は一般的には皮膚にはバリアがあり侵入しませんが、角質に傷があったり、手術創などがあると侵入し易くなります。高分子抗原蛋白によるアレルギーは小麦粉など食物を扱う人に多くみられるそうです。
またゴム手袋のパウダーですが、角層を傷つけたり、コーンスターチがラテックスの成分を吸収して空気中に舞い、それを吸収した人が咳喘息やアナフィラキシーを起こすリスクがあるとされ、FDAはパウダーが安全上のリスクとなると警告しました。平成29年1月18日からは流通を停める措置をとったとのことです。現在はラテックスフリー、パウダーフリーの方向へ向かっているようです。
ラテックスフリー手袋商品(ミドリ安全、ホギメディカル、メドライン、SMSなどがあるそうです。)
これとは別にゴムはゴム硬化剤、加硫促進剤などによるアレルギー性接触皮膚炎(Ⅳ型アレルギー)を生じます。
ゴムの接触アレルギーはパッチテストで調べますが、最近発売されたパッチパネルはゴムの検査試薬はチウラムミックス、メルカプトミックスなど充実していて簡便だそうです。(高価ですが)
◆職業性接触皮膚炎
職業に関した皮膚トラブルの90%を占めるそうです。手や前腕に生じます。特定の職業に関連したものが起こります。
*金属では ニッケル、コバルト、クロム、
❖セメント皮膚炎
セメントは刺激性でもアレルギー性でも生じます。土木・建築工業分野で広く用いられていますが、感作性の強いクロムが微量に含まれ、また水に溶けると水酸化カルシウムを放出して強いアルカリ性を示すので、皮膚障害を多く生じます。
手指では乾燥、亀裂を生じ、また顔面、躯幹などにも拡大することもあります。長靴などに侵入したセメントに長時間接触すると化学熱傷を起こし、難治性の潰瘍を生じる場合もあります。
❖レジン皮膚炎
レジンは樹脂一般を指します。エポキシレジン、アクリル樹脂などがあり、工場などで用いられますが、歯科でも多用されるために、歯科医師、歯科衛生士などレジンを日常的に扱う職種の人にも多く皮膚障害がみられます。レジンを使った歯の詰め物、接着剤による口腔アレルギーの例もみられます(舌痛症、口腔扁平苔癬、腫れ、痒みなど)。
レジンはゴム手袋でも浸透しますので、指腹の乾燥や紅斑落屑、亀裂などの症状からはじまります。時に灼熱感を伴います。特にHEMA(ヒドロキシエチルメタクリエート),TEGMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)は浸透速度が速いとされます。蒸気、粉となって空中にも拡散しますので、手だけではなく顔にも皮膚炎を生じることもありますし、喘息様の呼吸器症状を呈することもあります。またネイルジェルなどでレジンを使ったアクセサリーなどの細工をする職種の人にも発生します。重合前の状態(残留モノマー)でアレルギー反応を生じ、硬化するとアレルギー反応は生じにくくなります。直接触ることを避ける、粉、蒸気を避ける防護服、マスクを使用する、ドラフトなどを使用して換気するなどの対策が求められます。
❖美容師・理容師の皮膚炎
洗髪、カット、パーマネント、毛染めなどの手作業を連日繰り返し実施しています。界面活性剤を用いた水仕事によって皮膚のバリアが障害されます。特にアトピー体質の人はより高度に障害されるリスクがあります。最も高頻度に職業性接触皮膚炎を発症するとされ、半数以上の人が手荒れの経験があるとの報告もあります。刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎があり、前者では乾燥、亀裂、鱗屑などの症状を、後者では痒みを伴った紅斑、丘疹、水疱、痂皮、苔癬などの湿疹の形態をとります。西岡のパッチテストの結果によると、染毛剤71.4%(パラフェニレンジアミンをはじめとする酸化染毛剤成分)、シャンプー25%、パーマ液24.1%が陽性反応を示し、その他にも整髪料、作業用ゴム手袋に陽性例がみられました。
対策としては、まず職業選択の時点でアトピー体質の人は熟慮すること、美容の職業についた初期から手袋による防御やスキンケアを実践すること、皮膚炎を発症したら早期にパッチテストで原因を特定し対策を行うことなどが肝要です。
また染毛時だけではなく、シャンプー時も腕までのポリウレタン製の防御手袋を使用することの必要性を業界にも顧客にも周知していくことなどが必要とされます。
◆鑑別診断
手にできた皮疹が全て手湿疹というわけではありません。当たり前の事ですが、きちんと正確な診断をすることが、治療の前提として最も重要です。
•手白癬
•疥癬
•乾癬
•掌蹠膿疱症
•掌蹠角化症
•皮膚筋炎(mechanic hand)
などなど
◆治療
軽症、中等症、重症によって、4段階の治療のアルゴリズムが作成されています。
ステップ1(軽症)・・・問診によって原因を推測、除去しスキンケア、ステロイド外用剤使用
ステップ2(中等症)・・・ほぼ同様、パッチテストでの原因検索、タクロリムス(プロトピック)も使用
ステップ3(重症)・・・皮膚科専門医が専門的に診る、テーラーメイドの治療、皮膚生検、パッチテスト、プリックテストなどでの原因検索、PUVA,NBUVB、エキシマなどでの紫外線治療
ステップ4(重症)・・・ステロイド、シクロスポリン、レチノイドなどの内服剤も追加
❖接触皮膚炎に保湿は有用か?
刺激性接触皮膚炎では推奨度A、アレルギー性接触皮膚炎では推奨度B,C1・・・角質内の水分量を高めてバリア機能を高めることが分かっている。バリアクリーム、油性ローションの使用比較をしたところ後者のほうがよかった。この結果は高度機能の保湿クリームよりもより安価で簡便にしっかり規則的に使用することの重要性を示唆している。
付け方は1FTU(finger tip unit)の原則、人差し指の末端の関節部までクリームを出して、その量で掌2枚分を塗る。
1日数回付けること。2週間で30g程度。塗擦しない(擦りこまない)、塗布すること。
❖紫外線療法
接触皮膚炎ガイドラインではファーストラインではありませんが、慢性の刺激性接触皮膚炎には有効との報告が多くあります。
PUVA(内服、外用)NBUVB、エキシマ療法は有効である。角化型は異汗性湿疹のこじれたものと考えられるが、これにも効果がみられる。爪病変への効果は不明。(これは機種にもよりますが掌蹠膿疱症にもあてはまります。・・・光線療法セミナーの項 参照)
❖保湿、傷へのグッズ
亀裂・・・傷パワーパット 指用、デュオアクティブ、ヒビスコールSジェル 医療用
洗浄剤・・・キュキュット泡スプレー、チャーミー、がんこ本舗 吹き付け型 界面活性剤フリーなど

【付記】
ジャパニーズスタンダードアレルゲン(文献2)より)(これは2008年版ですので、現在のシリーズと若干の違いはありますが、おおむね同じです。)
アレルゲンは7種類に分けられます。パッチテストパネルは水銀(Hg)と漆オールを加えるとジャパニーズスタンダードアレルゲン全てを網羅できますので便利です。

*金属関連アレルゲン   コバルト、ニッケル、水銀、クロム、金
*化粧品関連アレルゲン  フレグランスミックス、バルサムオブペルー、ラノリンアルコール、パラフェニレンジアミン
*植物関連アレルゲン   ウルシオール、セスキテルペルテンラクトンミックス、プリミン
*ゴム関連アレルゲン   チウラムミックス、ジチオカーバメートミックス、メルカプトミックス、PPDブラックラバーミックス
*樹脂関連アレルゲン   ロジン、エポキシレジン、PTBPホルムアルデヒドレジン(p-teritiary-Butylphenol formaldehyde resin)
*外用剤関連アレルゲン  カインミックス、硫酸フラジオマイシン
*防腐剤関連アレルゲン  パラベンミックス、ホルムアルデヒド、ケーソンCG、チメロサール

参考文献

1)マルホ皮膚科セミナー 2010.12.9
西岡 和恵(ジョイ皮ふ科クリニック) 第109回 日皮総会 教育講演 21 「職業環境と皮膚障害(化学物質過敏症を含む)」 より
「美容師・理容師の皮膚疾患とその予防対策」

2)マルホ皮膚科セミナー 2011.2.10
関東裕美(東邦大学) 第22回 日本アレルギー学会春季臨床大会➁ ワークショップ
「職業性アレルギー」

3)マルホ皮膚科セミナー 2014.7.3
伊藤明子(新潟大学) 第64回日皮会中部支部学術大会 ➂
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