蕁麻疹(6)治療

いままで述べてきましたように、蕁麻疹の治療はその経過や病型、さらに重症度に応じて対応、処置、薬剤が異なってきます。また長期化した慢性蕁麻疹の場合は、その予後に関する説明も必要になってきます。

まず、大きく原因を特定できる蕁麻疹と、原因の特定できない蕁麻疹について述べます。

【原因を特定できる蕁麻疹】

皆が知りたがるアレルギー性の蕁麻疹は、抗原特異的IgE検査(IgE RAST)や皮膚試験(プリックテスト、スクラッチテスト)などで原因検索を行います。スクラッチテスト、使用テストになるとアナフィラキシーの危険性もあるために、専門施設で点滴などの安全を確保して行う必要性があります。

また、やみくもに盲滅法に行うのではなく、問診などで見当をつけてから行います。また多くの食品に含まれる非アレルギー性の仮性アレルゲン―――鶏肉、サバ、マグロの古いもの、鶏肉、タケノコ、餅、香辛料、防腐剤―――、アスピリン蕁麻疹などの可能性も考慮の上検査を進める必要があります。

物理的蕁麻疹では擦過試験(ペンなどの鈍な先端で擦るとその部分にミミズバレ様の蕁麻疹ができること)を行います。

コリン性蕁麻疹では発汗試験、日光蕁麻疹では人工光線や太陽光などによる誘発試験を行います。

これらの試験によって、誘発因子が特定できた場合はそれを除去したり、回避することが治療の基本になります。また抗ヒスタミン剤の治療を行います。

なお、これらの蕁麻疹のうちで、血圧低下や呼吸困難などのアナフィラキシーを起こす緊急性の高いものはアドレナリン0.2~0.5mg筋注、必要に応じて5分ごとに追加投与、などを主体とした救急治療となり、一般の蕁麻疹治療とは別になります。

2相性の反応を呈することがありますので、急性期の症状が回復した後でも6時間は医療機関で経過をみるのが良いとされます。

ただ、最近問題になっている食物アレルギーの事故は日常生活の場で突然起こり得ます。

近年はアナフィラキシーの既往のある人にはアドレナリン自己注射キット(エピペン)が処方出来るようになりました。また学校、保育施設などでは教師、養護教諭などがそれを代理使用することができるようになりました。

成人用キット0.3mg、小児用キット0.15mgを服の上からでも大腿部の外45度の位置に皮膚に垂直に押し当てて自動的に注射液が注入できるキットです。インターネット動画サイトで模範手技が見ることができますのでいざという時のためにご覧になられると良いと思います。

エピペン注射は発作後、できるだけ早く行うことが重要ですが、まだ日本では現場での活用が遅れる傾向があるようです。

食物アルルギーに対して、近年は減感作療法が試みられ効果も上がっているようですが、確立された療法ではなく危険性も伴いますので、専門医療機関に相談の上、対処されることが必要かと思います。蜂アレルギーやスギ花粉症では確立された方法といえます。

食物アレルギーの場合、食べないことが基本ですが、症状は抗原量に依存するとされていますので、例えば小麦が原因でも含有量の少ないクッキーならば大丈夫な場合もあります。

食べ物では交叉過敏性がありますので、小麦が原因ならばライ麦にも反応することがありますし、エビが原因であればカニや貝類にも反応することがあります。

食物アレルギーではアスピリン内服や運動によって腸管上皮の透過性が亢進して、未消化蛋白質の吸収を促進させ症状が顕在化、悪化することがあるので注意が必要です。

 

【原因を特定できない蕁麻疹】

《急性蕁麻疹》

原因を特定できないことも多いのですが、原因となる直近の食物・薬剤摂取がないかどうか確認します。また特に小児では上気道感染症(ウイルス性、細菌性)に伴って発症することが多いですのでそれらの誘発因子の有無を確認します。それらの原因が疑われれば、その除去に努めながら、抗ヒスタミン剤内服治療を行います。食べ物・薬などでも1日以内のもの、特に数時間前のものが対象になります。

発症後1か月以内のものを急性蕁麻疹と呼びますが、原因は確定されなくても適切な抗ヒスタミン剤などの治療でほとんどのものが治癒します。

抗ヒスタミン剤には眠気の強い第1世代のものと眠気の少ない第2世代の抗ヒスタミン剤(日本では抗アレルギー剤とも呼ばれます)がありますが、第2世代のものがファーストチョイスになります。

通常量で治らない場合は他剤を追加したり、補助薬を使ったりする方法もありますが、増量してみることが有効だということです。ただし、眠気などの副作用には注意を払う必要があります。

それでも効かない場合は短期間のステロイド剤の内服が効果的なことが多いですが、感染性の原因が疑われる場合はなるべく避けたほうがよさそうです。

《慢性蕁麻疹》

大部分の慢性蕁麻疹が誘発原因の特定できない特発性の蕁麻疹です。この場合には抗ヒスタミン剤の薬物治療が基本になります。効果不十分の場合は増量あるいは他の抗ヒスタミン剤に変更、ないし追加します。

それでも、効果がない、あるいは不十分な場合は以下の手順でステップアップしていきます。

1)抗ヒスタミン剤

2)補助的治療薬

3)ステロイド内服

4)試行的治療・・・シクロスポリン

 

個別にみていきます。

1)抗ヒスタミン剤

中枢組織移行性の少なく鎮静性の少ない第2世代の抗ヒスタミン剤を第1選択に使います。

構造式は大きく三環系の薬剤と、ピペリジン系・ピペラジン系の二通りに分けられます。効果がなくて変更する場合は他の構造式のものを選んだほうが良いともいわれますが個人差が大きいです。

第2世代間でもオロパタジン(アレロック)のような「効果重視型」とフェキソフェナジン(アレグラ)のような「眠気軽減型」の2種類に大別されます。

患者さんの症状を勘案しながら日常診療では使い分けています。

欧米などでは、効果が不十分な場合は抗ヒスタミン剤を4倍まで増量するというガイドラインがあるそうですが、日本では2倍までの増量は試みられているようです。

2)補助的治療

医師の経験と好みによるところが多いようです。

H2ブロッカー・・・胃潰瘍などに用いられる薬剤が時として有効です。

抗ロイコトリエン薬

ジアフェニルスルホン(DDS)・・・難治例に限り使用

グリチルリチン製剤

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液の注射

トラネキサム酸

漢方薬

抗不安薬

これらは有効性のエビデンスは少ないですが、効果的な場合もあり、併用は主治医の好みもあるようです。先の講演会当日も座長の高森先生の質問に対して、各先生方は様々な薬剤を使っておられました。シングレア、キプロス、オノン、ノイロトロピン、タチオン、アポプロン、ハイチオールなどなど。それぞれに使いなれた良いという薬剤は多々あれどこれが一番というものはないような印象でした。

3)ステロイド内服

上記でも改善しない場合はプレドニン換算で15mg/日までなら使用されます。ただ長期内服を漫然と続けるのは好ましくありません。特に小児ではセレスタミンなどの低用量のステロイドでも副腎機能抑制が起きますので原則使用は好ましくありません。

4)シクロスポリン

上記の薬剤でも抑えられない時、副作用などで使用できない時は免疫抑制剤のシクロスポリンが使われます。特にIgE自己抗体などの見られる特発性の蕁麻疹には有効とのことです。ただし、この薬剤も乾癬、アトピー性皮膚炎にも用いられますが腎障害、高血圧などの副作用のために1年以上の長期使用は注意が必要となります。

講演会の後、秀先生に直接伺った話では低用量のシクロスポリンでコントロールされている患者さんは結構ありますよ、ということでした。

結構効くのだ、という印象と共に、専門医でもここまで使わないとコントロールできない重症蕁麻疹もあるのだ、という思いもありました。なかなか開業レベルではここまでは使えません。

 

近年、外国では抗IgEモノクローナル抗体のオマリズマブが血清IgE濃度に関係なく有効との報告も出てきていますので、将来は特に自己IgE抗体を有する患者さんには良い治療手段になってくることが期待されます。

 

抗ヒスタミン剤の内服は単に症状を抑えるだけの薬剤と思われがちですが、継続的な内服治療を行うことで、蕁麻疹の病勢を沈静化する意義があることが解ってきています。

―――インバース・アゴニスト作用といって、抗ヒスタミン剤がマスト細胞上の不活性型受容体と結合し、平衡を逆方向の不活性型受容体優位へとシフトさせ、その結果不活性型受容体が多くなり、全体としてシグナルが抑制される―――

難しい理論でよく解りませんが、「抗ヒスタミン剤は単に抑えるだけの薬でしょう、」

という疑問に対するそうではないという回答になると思います。

 

参考文献

皮膚科臨床アセット 16 蕁麻疹・血管性浮腫 パーフェクトマスター

総編集◎古江増隆  専門編集◎秀 道広 中山書店 2011