SJS/TEN型重症薬疹

重症薬疹には、SJS/TEN型薬疹以外にDIHS, AGEP アナフィラキシー型の薬疹があげられますが、最も代表的で生命を脅かし、生命予後の悪いものがSJSなかんずくTEN型薬疹といえます。
【発生頻度】
頻度は薬疹の中では極めて少ないですが、一旦発症するとやっかいです。欧米の統計では発生頻度は100万人あたり毎年1~6人のSJSが、0.4~1.2人のTENが発症しています。日本でもそれぞれ1.6,0.5例と欧米とほぼ同様です。転帰はSJSでは軽快85.4%,後遺症12.6%,死亡率2.0%ですが、TENになると軽快48.5%,後遺症33.7%,死亡率33.7%と非常に予後が悪いことがわかります。(北見 周、飯島正文)
【臨床症状】
両者とも発熱を伴って皮膚の紅斑、表皮の壊死に伴う水疱・びらんを広範囲に生じます。また眼粘膜、口唇、外陰部などの皮膚粘膜部では出血・血性痂皮・びらんなど重篤な粘膜病変を伴います。またTENではさらに重症となり広範囲な紅斑と全身の10%以上の水疱・びらん・表皮剥離をきたします。
(詳細は後述)。
【原因】
原因の多くは医薬品、とりわけ解熱鎮痛消炎薬、抗てんかん薬、催眠鎮静薬、抗生剤(セフェム系、テトラサイクリン系)などが上位を占めています。ただ単純ヘルペスウイルス、マイコプラズマなどのウイルス感染症が原因となる場合や原因が特定できないケースもあります。

SJS/TENについて2016年に診療ガイドラインが作成されました。それに則って概略を書いてみます。
【Stevens-Johnson症候群】
主要所見
1.皮膚粘膜移行部(眼、口唇、外陰部)に広範囲で重篤な粘膜病変がみられます。これは出血や血性痂皮を伴ったびらんが広くみられ、眼では偽膜形成や表面上皮の欠損を伴う結膜炎で、多形紅斑の場合は粘膜症状は軽度とされます。
2.皮膚の紅斑、発赤は全身性で、表皮のびらん・水疱も認めます。紅斑は隆起せずに典型的な多形紅斑のターゲット型を示さずに、中央が暗紅色のflat atypical targetsを示し、融合傾向があります。
3.発熱があります。
4.病理組織学的に表皮に全層性の壊死性変化を認めます。顕微鏡の200倍視野で10個以上の表皮壊死を確認することが確定診断に重要とされます。特にこれは多形紅斑との鑑別に重要とされています。
5.EEMとSJSは別個の疾患で、上記の臨床、特に病理組織所見によって両者は鑑別されます。ただし、鑑別の難しいケースや当初多形紅斑様であっても後にSJSに進展するケースもあるとのことで、十分に経過をみて判断する必要があります。
【中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis;TEN)】
主要所見
1.全身にわたる広範囲な紅斑がみられますが、それに加え体表面積の10%以上の水疱・びらんがみられます。
10~30%の範囲ではSJS/TENオーバーラップと診断されることもあります。紅斑はatypical targetsもしくはびまん性紅斑の形をとります。
2.発熱があります。
3.感染症や自己免疫性水疱症も似たような臨床症状を呈することがあるので、それらを否定することも重要です。
4.病理組織学的所見では全層性の表皮の壊死性変化を認めます。SJSの場合と同様に200倍視野で10個以上の表皮壊死を確認することが確診には重要とされます。

典型例では診断は明確ですが、中には非典型例もあります。TEN without spotといい、SJSのターゲット型紅斑をとらず、いきなりびまん性の紅斑からシート状に表皮剥離するケース、粘膜症状を欠くケース、固定薬疹から発展するケースなどもあるようです。
TENとの鑑別で最も重要なものはブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded-skin syndrome:SSSS)とトキシックショック症候群(toxic shock syndrome:TSS)です。これらは細菌感染症なので、治療法が真逆と言っていいほど異なります。臨床症状に加えて、血液所見、病理組織所見が鑑別になります。

参考文献

重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群 中毒性表皮壊死症
診療ガイドライン 2016(簡易版) 重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会 編

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療のフロントライン 
総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 東京 中山書店  2011

薬疹の診断と治療 アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編 医薬ジャーナル社 2016