乾癬治療薬オテズラ発売

新規乾癬治療薬PDE4阻害剤オテズラ(Apremilast; Otezla)については、以前当ブログでも紹介しました(2016.9.22)。それがいよいよ3月1日発売されます。
それに先立って発売直前の乾癬のフォーラムが開催されました。その時の情報をお伝えしたいと思います。
まず国内臨床試験結果を自治医科大学の大槻マミ太郎先生が、海外の乾癬治療をTufts大学のMichael Sobell先生が解説されました。最後にエキスパートの先生方によるパネルディスカッションがありました。
内容は繰り返しになるところも多いですが、かいつまんでそのさわりを。
◆国内臨床試験結果
❖実は経口PDE阻害剤は1,3,4,5、非選択的とあり、すでに発売され使用されています。PDE3;シロスタゾール、PDE5; ED、非選択的;テオフィリン、 しかしながらPDE4阻害剤はオテズラが国内初めてです。
❖オテズラの作用機序は、以下のように考えられています。
PDE4はcAMPを不活性型のAMPに分解する酵素で、免疫細胞内のシグナル伝達を調節しています。
乾癬では病巣でPDE4が過剰に発現しており、細胞内CAMPの低下によって各種炎症性サイトカインの産生が亢進しています(TNF-α、IL-23、IL-17、IFN-γなどの炎症性サイトカインの発現増加、IL-10などの抗炎症性サイトカインの減少)。
オテズラによって、PDE4は阻害され、細胞内のcAMP濃度を上昇させます。その結果として上記の炎症性サイトカインの産生を抑制し、逆にIL-10などは上昇させ、乾癬の炎症反応を抑制し、乾癬の症状を軽減するとされています。
❖試験結果
254例の中等度~重症の乾癬患者の治験が行われました。16週後の時点ではプラシーボ群には改善はなく、オテズラ20㎎、30㎎群ではPASI75を達成した率はそれぞれ23.5%、28.2%(海外では33.1%)でした。近年の目覚ましい改善率を有する生物学的製剤には及びませんが、従来の内服製剤を考えるとなかなかの改善率です。
興味深いのはPASI20以上の重症例でも有効な例があることです。爪乾癬への効果も見られましたが、統計学的な有意差はでていません。またこの薬剤の特徴は早期から痒みが改善することです。
❖有害事象
下痢や腹部不快感が容量依存性に10%以上でみられました(20㎎<30㎎ 14.7%)。それを軽減するためにスターターパックという薬剤の包装キットが準備されており、2週間かけて徐々に増量し慣らしていくようにされています。
また上気道炎などの感染症もみられましたが、重篤なものはみられませんでした。
また軽度の体重減少がみられますが、その原因、機序は明らかではありません。
❖オテズラ薬価
 10㎎/日  324.20円
 20㎎/日  648.40
 30㎎/日  972.60
 30㎎/月  17506.8円(3割負担)・・・シクロスポリン250㎎とほぼ同等の値段
国内の薬価は海外と比較して、最低値に設定されたそうです。
◆海外の乾癬治療
ESTEEM 1,2 study という臨床試験があり、10週でPASI75達成率が28.8%、33.1%でした。またPASI50達成率は58.8%ありました。
痒みに対しては2週後には、効果が現れ、その効果は32週まで持続していました。爪乾癬に対しては16週でも効果は現れましたが、32週では爪の伸長に伴ってもっと明らかになりました。統計的には鬱の発生は高くありませんが、元々その傾向のある人では注意が必要です。もし現れるとすれば、早期です。この薬剤は使用を中止すれば、徐々に皮疹は悪化しますが、リバウンドはなく、再開すればまた以前の効果は期待できます。
オテズラの良い適応は以下のような人です。・痒みの強い人 ・注射より内服を好む人 ・頭部、爪、手に皮疹のある人 ・バイオ(生物学的製剤)の効かない人 ・関節症状が中等度にある人 などです。
副作用では下痢が問題になりますが、これは小腸でのクロライドチャンネルが活性化され、水和が生じ脱水に至ると考えられています。これを避けるには少量、頻回の食事、カフェイン、人工甘味料を避けるなどの食生活を励行することが有用です。
◆パネルディスカッション
❖今後の乾癬治療の変化
・中等症の乾癬にはオテズラが第1選択になっていくのではないか。
・爪、頭部の乾癬、針恐怖症の人、チガソンが効かない人、癌の既往などでシクロスポリン、バイオの使えない人などは良い適応となりそう。但し、癌の既往のある人への使用は慎重にすべき。
・爪にはそこそこ効くが、それ程効かない印象。
・この薬剤が炎症性性サイトカインやIL-10(抗炎症性サイトカイン)などに作用する点は気になる。
・効果、安全性を総合的にみるとかなり有用性の高い薬剤。
・効果に差があり重症例でも効く例があるが、それをあらかじめ予想することは困難、指標はない。
・シクロスポリンは最長2年のしばりがある。CyAからオテズラへの変更、切替は世界の流れである。
・どのように切り替えていくかの、ガイドラインはないがオーバーラップしながら徐々に切替ていく方向。
・併用療法については、外用、ナローバンドUVBとの併用は問題ないが、MTX,免疫抑制剤との併用は問題があるかもしれず、これからの課題。
・オテズラは診療所レベルでも使えるが、乾癬自体が全身性の疾患で、腎機能、感染症などを考慮すると、病診連携、あるいは内科クリニックなどとの診診連携が必要となってくるかもしれない。
・関節症性乾癬に対しては3関節より少ないもの、早期、軽症のものは同剤が第一選択肢となっていくであろう。但し、体軸関節炎、進行性のものはバイオの適応。
・一番問題になりそうな消化器症状についても、事前に良く説明して、スターターキットを用い、上記のSobell先生のいわれた注意点を励行すれば、薬剤の助けなしでも使用は続行できるのではないか。
・定期的な検査は必須とはされていないが、腎機能などのチェックは必要であろう。また事前にB型肝炎などがないかの、抗体価検査も必要ではなかろうか。

以上のような講演内容で、久しぶりにクリニックレベルで使用可能な乾癬の薬剤が登場し、多くの乾癬患者さんにとって朗報となるような予感のしたことでした。
オテズラは中等度からバイオを使わない(使えない)重症の乾癬患者さんにとって期待できる薬剤と感じました。重篤な副作用がなく、広く使えそうですが、注意事項は、あえて付け足すとすれば。
妊娠している人は禁忌。腎機能の低下している人はクレアチニンクレアランス値によって、投与間隔を開け、量を減らす必要があること。鬱の発生率は高くはないが、その傾向のある人は十分観察し注意して使うこと。免疫抑制剤ではないが、抗炎症サイトカインにも作用するので感染症にも注意を払うこと。オテズラはCYP3A4で代謝されるために誘導剤(リファンピシン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、フェニトインなど)と併用するとオテズラの血中濃度が下がり、効果も減ずること。などです。