播種状紅斑丘疹型・多形紅斑型薬疹

◆播種状紅斑丘疹型薬疹
播種状紅斑丘疹(maculopapular:MP)型薬疹は薬疹の中で最も多い臨床型です。比較的均一で小型の紅斑や小紅色丘疹が左右対称性に全身に播種状に多発してきます。ペニシリン系やセフェム系、テトラサイクリン系、マクロライド系の抗生剤や解熱鎮痛消炎剤などによるものが多いですが、抗てんかん薬、造影剤など多彩な薬剤が原因になっています。
通常は痒みは伴いませんが、痒み、灼熱感を伴うこともあります。比較的軽症が多いですが、重症型薬疹のDIHS(薬剤性過敏症症候群)の初期も播種状紅斑丘疹型、あるいは多形紅斑型の形態を取るとされるので、注意深い経過観察が必要です。
発熱、倦怠感、関節痛、リンパ節腫脹、造血器障害は種々の程度に認められます。
比較的軽症のことが多く、薬剤を中止するだけで次第に消退することも多いです。しかし一般的に抗アレルギー剤の内服やステロイド外用剤での治療が行われます。またそれでも軽快傾向がない場合はステロイド薬の全身投与(プレドニン換算で20~40mg程度)を追加します。
ここで注意すべきことは、先に述べたようにDIHSの初期にもMP型に類似した臨床症状をとることもあるということです。そのような場合に、不十分な量のステロイド薬の内服を続けていると、炎症を抑えきれないばかりか、遷延化・重症化せてしまうといわれています。従って軽快傾向が無ければ早期に専門病院での加療が必須となります。
◆MP型薬疹とウイルス感染症
MP型薬疹と麻疹の鑑別はときに非常に困難です。むしろある場合は皮疹の性状だけでは全く区別できません。一過性に薬剤のDLST(薬剤誘発性リンパ球刺激試験)が陽性になったり、口腔内びらんや眼のカタル症状をとらえてSJS/TEN型薬疹の疑いで杏林大学皮膚科に搬送された麻疹患者は少なくない、と述べられています(塩原)。
熱型、患者周辺の流行状況、投薬歴などが参考になりますが、最終的にはウイルスの抗体価測定、DNA測定で診断しますが、多様なウイルスが原因だったりと同定できないことも多いです。
またEBウイルス感染による伝染性単核球症においてペニシリン系抗生剤を使用すると、100%近くに皮疹が出現します。その後DIHSにおいて6型ヘルペスウイルス(HHV-6)の再活性化が生じていることが明らかにされました。
このようにウイルス性発疹症と薬疹の関連、類似性を示唆する事実は多くみられており、今後これらの免疫アレルギー反応機序の異同が解明されていくと思われます。
臨床的には風邪などのウイルス感染症の際の発疹については薬疹との鑑別が重要で、時に困難であるということを認識することが肝要です。
◆多形紅斑(erythema multiforme: EM)型薬疹
躯幹四肢に数cmの浮腫性の円形や楕円形の紅斑が多発してきます。多形紅斑の皮疹の特徴は四肢に多く、標的様の3層構造を呈します(EM minor)。3層とは中央部が暗紅色の紅斑あるいは紫斑で、中間部分は蒼白の浮腫を認め、最外層は境界明瞭な紅斑が取り囲みます。しかしながらEM型薬疹では典型的な3層構造をとらず、非定型的な紅斑をとり、中心部では浮腫、水疱、びらんの形をとることもあるとされます。
通常粘膜疹は伴いませんが、重症型のEM majorでは口唇、口腔粘膜に軽度の発赤、びらんを伴うこともあります。粘膜疹が高度になり、発熱、肝障害などの全身症状を伴ってくると重症型薬疹のStevens-Johnson症候群を考慮することになります。
治療は、発熱などの全身症状がなければ、ステロイド外用薬、抗アレルギー剤の内服などで治療します。皮疹が広範囲で発熱などの全身症状を伴う場合はプレドニン換算で20-40mg程度のステロイド全身投与を検討しますが、それに反応せず急速に悪化するようならば、速やかに専門病院にて重症型薬疹(DIHS, SJS, TEN)を念頭に治療をおこないます。

参考文献

薬疹の診断と治療 アップデート 重症薬疹を中心に 塩原哲夫 編 医療ジャーナル社 2016

皮膚科臨床アセット 2 薬疹診療のフロントライン 総編集◎古江増隆 専門編集◎相原道子 東京:中山書店;2011