にきび2016

時々、”にきび”について書いていますが、最近のにきび治療はここ数年で大きく変わってきました。これまで、ずっとイオウ製剤か、抗生剤一本やりだったのが、長足の進歩です。というか、先生によってはやっと日本のニキビ治療も諸外国(アジア諸国も含めて)に追いついてきたというふうに表現する人もいます。
えー、日本は医療後進国なの、とびっくりする人もいるかもしれませんが、日本の独特な医療制度も背景にあるかもしれません。過酸化ベンゾイルは耐性菌を作らない抗菌剤として、欧米では数十年前から使用されているそうですし、OTC製剤としても市販薬として使用されているようです。日本ではずっと認可されなかったものが、昨年から使えるようになり、この関連の製剤の発売ラッシュとなりました。ちなみに2008年に認可されたアダパレン(ディフェリン)も欧米や東南アジアに遅れる事かなりの年月でした。ドラッグラグといわれるものです。
現在では、欧米で使用出来て本邦で使用出来ない製剤は、ビタミンA酸の内服薬であるイソトレチノインのみと言ってもよいかもしれません。これは重症のニキビに効きますが、催奇形性があり、また自殺企図の恐れの可能性もあるなど特殊な薬剤ですからまあ使われない方が無難でしょう。
華々しく出揃った感がある新規ニキビ製剤の登場によってニキビガイドラインも改正をかさねています。
現状でのニキビガイドライン、新薬の使用注意点などについて述べてみたいと思います。

2008年アダパレンの登場によってニキビ治療は面皰治療をを基本にする考え方が主流となりました。
2015年過酸化ベンゾイル(BPO)の登場を機に1剤で面皰治療とともに炎症性皮疹も治療可能になりました。
薬剤耐性菌の増加は最近の重要問題で、2016年には政府は「薬剤耐性対策アクションプラン」を策定して耐性菌の撲滅を目指しています。ニキビに使用される抗生剤の薬剤耐性の割合はヨーロッパでは非常に高く、クリンダマイシンに対する耐性率は、50〜90%と極めて高率です。日本での耐性率も年々増加傾向にあり、2007年には8%だったものが最近では50%もの高率になり、欧米に近づいてきています。
抗炎症剤であるはずの抗生剤が耐性菌のために効かなくなることは非常にまずく、耐性菌の対策は喫緊の課題となってきています。

2016年の尋常性痤瘡治療ガイドラインでは急性炎症期には瘢痕予防の為に積極的に抗生剤を使いますが、前述の耐性菌の出現を避けるためにできるだけ短期間とし、3ヶ月を目安にしています。痤瘡瘢痕(アクネスカー)は径2mm以下のmini scarをも含めると90%以上の患者さんに認められます。そしてこのニキビ痕が患者さんのQOLを最も低下させる要因となっているとの統計があります。
それで、この期間はアダパレン(ディフェリン)やBPOとともに、外用、内服抗生剤を使い積極的に瘢痕の元になりうる炎症性痤瘡を治療することが推奨されています。
3ヶ月を過ぎて、維持期になると耐性菌の出現を予防のためになるべく抗生剤を減らしてアダパレンとBPOによる治療に切り替えていきます。
尋常性痤瘡治療アルゴリズムの表をみると、各病期ごとに使用すべき薬剤が解り易く表記されていますので、引用しました。
またアダパレン、BPO製剤の写真を発売順に並べてみました。参考にして下さい。

ディフェリン(0.1% アダパレン)・・・薬価収載 2008年9月 販売開始 2008年10月 国際誕生 1992年7月

ベピオ(2.5% 過酸化ベンゾイル)・・・薬価収載 2015年2月 販売開始 2015年4月

デュアック(クリンダマイシン1%/過酸化ベンゾイル3%ゲル)・・・薬価収載 2015年5月 販売開始 2015年7月 国際誕生 1983年1月

エピデュオ(アダパレン0.1%/過酸化ベンゾイル2.5%ゲル)・・・薬価収載 2016年8月 販売開始 2016年11月 国際誕生 2007年11月

このように、ニキビ治療に有効な薬剤が勢ぞろいして、治療も随分と進化してきました。急性炎症期、維持期の治療、スキンケアなど治療の方向性が明確になってきました。
ただ、いくつかの問題点は残っているかと思われます。

1)必ずしも、3か月を過ぎれば炎症性の皮疹が消失するわけではなく、BPO製剤のみで炎症性皮疹が消失するわけでもない。
2)急性期から維持期への切り替えがスムーズにいかないこともある。
3)一部ではあるが、薬剤の刺激性のためにアダパレン、BPO製剤が使えない。
4)一部に接触皮膚炎がみられる。
5)アクネスカー(瘢痕)への著効な手立ては未だない。(レーザー、ピーリングなど有効との報告はありますが)

薬剤の刺激性、接触皮膚炎については、少量から使い始める、保湿を行う、擦らないなど具体的な使用方法を医師、看護師などから使用前、使用中に逐次説明することで随分とその頻度は減少することが報告されています。使用方法によっては可ともなり、不可ともなりえるということです。
一方で、アレルギー性接触皮膚炎の報告も散見されます。特に過酸化ベンゾイルはやや多い印象を受けます。
外国製のプロアクティブには同剤が含まれていますので、以前にそれで感作されている人は当然BPO製剤でかぶれます。
過酸化ベンゾイルは歯科技工士が扱う機会が多く、犬用のシャンプーにも含まれているそうです。動物看護士、トリマーなどの職業に従事している人に感作が成立すればアレルギー性接触皮膚炎となり、職業上も厄介なことにもなりかねません。
近着の雑誌にも接触皮膚炎の報告がありましたし、当院でも最近ステロイド外用剤が必要なほどの接触皮膚炎も経験しました。
にきび治療に重要な地位を占める製剤ですので、医師も患者さんもこれらを注意しながら使っていく必要性があると感じました。

参考文献

小松俊郎 過酸化ベンゾイルゲルによるアレルギー性接触皮膚炎が疑われた2例 臨床皮膚科 70:1031-1034,2016

日本皮膚科学会ガイドライン 尋常性痤瘡治療ガイドライン 2016 日本皮膚科学会雑誌 126:1045-1086,2016

 

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