メラノーマの手術療法(3)

メラノーマの手術範囲についていくつか。
【生検について】
一般的に部分生検(incisional biopsy)は禁忌とされます。腫瘍の一部を切除、検査することの問題点はいくつか指摘されています。まず第一に部分生検をすることによって、メラノーマの腫瘍細胞が深部に押し込まれてリンパ流、血流に乗りリンパ節転移や遠隔転移の危険性が高まることがあげられます。
次に腫瘍一部の組織診断によって腫瘍厚が低く見積もられる可能性があります。それによって切除マージンが不足する危険性があります。腫瘍が大きい場合は、根治的な拡大切除を想定して、部分切除が行うことが推奨されています。
【水平方向の切除範囲】
前に腫瘍厚による切除範囲は書きましたので 詳しい重複は避けます。現在は以前のマージンよりも縮小切除する傾向にあります。
19世紀より主に英国の解剖学的研究より腫瘍マージンから5cm切除が行われ、足の症例では膝下切断が行われてきました。広く切除してきた理由として、腫瘍細胞がリンパ流や血流に乗り、あるいはリンパ管の微小塞栓を起こし転移していくという解剖学的な見解が主流であったことによります。しかし1980年代頃より、腫瘍の厚さと転移の研究によって必ずしも全症例に伝統的な広範囲切除が必要でないことが明らかになってきて切除マージンは縮小傾向となってきました。現在では腫瘍厚4㎜超でも2㎝の切除マージンが推奨されています。
注意すべきは末端黒子型メラノーマは対象外ということです。このタイプはそもそも腫瘍マージンが同定しにくいことも一因です。
マージンが縮小してきたのは、早期のものは小さな切除マージンでも完治に導けること、逆にリンパ節転移など進行した例ではいくら局所を大きく切除しても完治が難しく、むしろ大きく切除することで予後を悪化させることもあることが分かってきたことによります。
【垂直方向の切除範囲】
腫瘍細胞が存在していると思われる深さから1層深部までを切除することが原則です。ただし、内外のガイドラインでも水平方向のようには明確な基準はありません。それは部位によって皮膚の解剖学的な構造が異なっているために画一的にガイドラインで推奨することが難しいからです。筋膜の切除を行うか否かの明確な指針はありません。しかし欠損部の再建に支障をがなく、整容・機能面に問題がなければ筋膜の切除が推奨されています。
【爪部悪性黒色腫】
爪部では水平方向では他の部位と同様に対応されます。垂直方向についてはin situ病変の場合は骨膜までの切除に留めますが、さらに真皮内への微小浸潤がある場合の対応は明確な指針はなく、従来は多くは指趾の切断が行われていました。しかし、結節がなく、厚さも2㎜以内ならば指趾切断まで行う必要もない、過度な切除は行わないという方向にあるようです。ただ、浸潤病変に対しては、一旦骨上で切除し、全摘標本の病理組織をしっかり判断した上で追加の手術を行う、などの慎重な対応が求められています。

参考文献

緒方 大 悪性黒色腫 15.原発巣、手術範囲:爪の手術法を含めて 皮膚科臨床アセット 17 皮膚の悪性腫瘍 
総編集◎古江増隆 専門編集◎山﨑直也 中山書店 東京 2014 pp 93-101

村田洋三 第6章 悪性黒色腫 皮膚外科学 日本皮膚外科学会【監修】 秀潤社 東京 2010 pp 412-433