メラノーマの薬物療法(1)

先日、といってもしばらく前にメラノーマの免疫チェックポイント阻害薬の話、講習会がありました。
ここのところ、免疫だの、阻害薬だの一般にはなじみの薄い話題ばかり取り上げてきましたが、またしてもこ難しそうな話題で恐縮です。
ただ、ここ最近、オプジーボ(ニボルマブ)のことはメディアにも取り上げられて話題になっています。「メラノーマの新薬だが、その後肺がん(非小細胞肺癌)にも適用された。画期的な薬だがものすごく高価な薬で、肺がんの患者1人につき、1年で3500万円かかる。日本人の適用肺がん患者全体に使えば、1年で2兆円近くかかる。」「ニボルマブ(抗PD-1抗体)の先がけとなったPD-1を発見した本庶祐京都大学教授は本年度のノーベル医学賞候補に挙げられている。」などなどこの薬剤を取り巻く話題はメラノーマそのものの話題よりもホットな様相を示しています。
ここでは、それはさておいて、講習会の内容を元にしたレポートです。講師は信州大学の宇原久先生でした。

メラノーマの治療については、数年前に米国の学会を覗いて、門外漢ながら分子標的薬などの進歩に驚いたものでした。実際に日本の皮膚癌の専門の先生も内外のドラッグラグがあり、日本の現状をトラックを周回遅れで走っていると表現されていました。それが、オプジーボの登場で一躍トップランナーの一群に加わったような状況となってきました。
ここ数年で、大きく変わってきたメラノーマの薬物療法ですが、驚くべきことにその前の数十年間は、ほとんどみるべき進歩が(延命率の改善が)無かったということです。

【歴史的な流れ】
◇1970年代から術後補助療法として、DTIC(ダカルバジン)を中心とする数多くの多剤併用化学療法が考案され、試みられてきましたが、DTIC単剤と比較してsurvival benefitの認められた方法は一つもないままに21世紀を迎えました。本邦ではDAV Feron療法が多く試みられ、一部では良好な成績も見られたようです。
ダカルバジン 80-140mg/m2 点滴 5日連続、
ニムスチン塩酸塩(ニドラン) 50-80mg/m2 点滴 初日のみ
ビンクリスチン(オンコビン) 0.5-0.8mg/m2 点滴 初日のみ
インターフェロンβ(フェロン) 300万単位 局注 連日10日 1か月に1回維持注射
ただ、DTICの奏功率は20%程度で、完全奏功率は5%未満という低いものでした。
◇2011年・・・とうとうやってきた新時代
米国FDAで新しい免疫療法薬ipilimumabと分子標的治療薬vemurafenibがメラノーマの新規治療薬として承認されました。
◇2014年・・・日本におけるメラノーマ治療のブレークスルー
nivolumab(オプジーボ)、抗PD-1モノクローナル抗体が世界に先駆けて日本においてメラノーマ新規治療薬として承認されました。また同年vemurafenibも承認され、日本におけるブレークスルーの年となりました。
これらの新規薬剤の登場によって、メラノーマの生存期間の延長が明確となり、メラノーマ治療の新たな時代の幕開けとなりました。

メラノーマは腫瘍抗原を発現し免疫原性が高いことから以前から免疫療法は試みられてきました。BCGなどの免疫賦活療法、癌ワクチン療法、サイトカイン療法、樹状細胞療法などです。古くは癌免疫療法は1890年代の米国の外科医William Coleyの実験的な免疫療法に遡るそうです。その詳細は宇原先生自らのブログ――うはら皮膚科(仮想クリニック)――に続き物の物語として連載されています。専門医によって解り易く興味深く書いてありますので、一読をお勧めします。
しかしながら、これまでは幾多の癌免疫療法も癌細胞自身が免疫の攻撃を弱め回避する能力を持っていて、免疫療法を無力化し、なかなか目立った成果をもたらすところまではいきませんでした。しかし最近その無力化する仕組みも次第にわかってきました。このことが、従来と異なる「新しい癌免疫療法」として登場してきたわけです。

次回から新規療法について少しずつ、纏めてみます。

参考文献

宇原 久   メラノーマに対する免疫チェックポイント阻害薬 
第46回日本皮膚科学会生涯教育シンポジウム 新規に登場した薬剤の使い方 より 2016.8.21

山﨑直也  特集 メラノーマの薬物療法 オーバービュー 皮膚科の臨床 57(11);1639~1644,2015

為政 大幾 特集 メラノーマの薬物療法 ニボルマブ――効果と安全性について―― 皮膚科の臨床 57(11);1647~1653,2015