乾癬の治療薬ーJAK阻害薬、PDE4阻害薬

今回の乾癬学会では生物学的製剤の他に、新たな乾癬治療薬も紹介されていました。その中で注目すべき2剤についてレポートしてみたいと思います。
◆JAK(Janus kinase)阻害薬
JAKは造血系細胞を中心に発現するチロシンキナーゼの一種です。Jak1, Jak2, Jak3, Tyk2があります。細胞増殖、生存、発達、分化などに関与します。STATを介してシグナル伝達を行い、上記の調節を行っています。JAK-STAT系のシグナル伝達は約40種類のサイトカイン受容体と関連しているとされます。
それでこの経路は関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、クローン病などの自己免疫性疾患の創薬のターゲットとなっています。乾癬も近年はTIP-DC, Th17系細胞を中心とした全身性炎症性疾患、あるいは免疫性疾患ととらえられるようになってきています。また乾癬病巣でSTAT3が高発現しているとの報告もみられます。
JAKはサイトカイン受容体の細胞内に130kDaのチロシンキナーゼ型の2つのドメインを持ちます。Janusという名称はギリシャ神話の双頭神ヤヌスにちなんだものとされます。但し、片方は不活性型です。JAKによってリン酸化され、活性化される主な基質がSTAT(signal transducer and activator of transcription)です。これが活性化され、サイトカインの増産をもたらします。
JAK阻害薬はJAKのATP結合部位に先回りして結合し、JAKがリン酸化して次のシグナル伝達物質である転写因子のSTATがリン酸化して活性化することを妨げます。各JAK阻害薬は標的とするJAK分子が異なりますが、主にJAk1,JAK3を阻害するtofacitinib(ゼルヤンツ 5mg 1日2回内服)はリンパ球機能や免疫反応を抑制します。2013年にはトファシチニブクエン酸塩として関節リウマチに対して適応承認されています。ファイザー(株)製造、武田薬品から販売されています。
国内外の臨床治験で、乾癬、関節性乾癬炎に対しても高用量でエンブレム以上の効果が認められています。
但し、発癌リスク、敗血症、結核などの重篤な感染症、消化管穿孔、血球減少、間質性肺炎、肝機能障害、帯状疱疹などの副作用、死亡例もみられるために、現在は関節リウマチに対してはこれらの副作用に対応可能な医療機関、及び医師のみが使用するように制限されています。
このように内服薬については乾癬に使用するには敷居が高いように思われますが、JAK阻害薬の外用薬の開発も進行中とのことで、こちらの方は期待がもてそうです。
◆PDE4阻害薬
PDE-4阻害薬であるapremmilastは中等症及び重症の局面型乾癬、関節症性乾癬に有効であることが臨床試験により実証され、2014年に米国および欧州で適応承認されて、実臨床の場でも使用されています。
セルジーン・コーポレーション OTEZLA
Phosphodiestarase(PDE)は細胞内のcAMPやcGMPを分解する酵素ですが、11種類のサブファミリーに分かれています。PDE-4は特異的にcAMPに作用するとされます。PDE-4阻害薬は細胞内のcAMPの濃度を上昇させNF-κBやNFATの活性化を抑制し、T細胞や単球系細胞からのIL-23,IL-17,TNF-αなどの炎症性サイトカインの産生を減少させ、一方でIL-10などの抗炎症性サイトカイン産生は増加させます。これらの機序によって乾癬に対しても抗炎症効果を発揮すると考えられています。
海外の臨床試験ではアプレミラスト30mgを1日2回経口投与し、16週目でPASI75達成率は33.1%で、この効果は32週目まで持続、関節症性乾癬に対しても一定の改善効果がみられ52週まで持続したそうです。
このように、その効果は生物学的製剤に比べるとやや劣るようですが、重篤な副作用はみられていません。また経口薬であるためにクリニックでの使用も可能なようで簡便性に優れているようです。
主だった副作用は胃腸障害であるために、1週間かけて、10,20,30mgと徐々に増量していくのがコツだそうです。また下痢、吐き気、咽頭炎、頭痛などの副作用も報告されています。また原因は不明ながら1-2Kgの体重減少もみられています。さらに、この薬剤ではうつ病や抑うつ気分の報告があり、発症、悪化については本人のみならず、医師、家族ともに注意して使用することが注記されています。
アプレミラストは内服薬であり、生物学的製剤のような重篤な副作用報告もないので、本邦で治療可能になれば、開業医などでも使用可能な薬剤となることが期待できます。あとは薬剤費がどの程度に設定されるか、という点が気がかりではあります。

乾癬の生物学的製剤については、主要なターゲットはかなり出尽くしてきた感がありますが、低分子の分子標的薬は細胞内シグナル伝達の解明、乾癬の病態やGWASなどによる遺伝子解析の蓄積に伴って、よりターゲットをしぼったピンポイントの薬剤の創薬の中心となってきそうな感があります。

参考資料
第31回日本乾癬学会学術大会 プログラム・抄録集より
会長 大槻マミ太郎 2016年9月2日・3日 宇都宮

シンポジウム3-7   朝比奈明彦 JAK(Janus kinase)阻害薬

シンポジウム3-6 大久保ゆかり PDE4阻害薬~クリニックから使うpre-bioとしての位置づけ~