眼皮膚白皮症

眼皮膚白皮症(oculocutaneous albinism:OCA)はごくまれな先天性の白斑を生じる疾患です。「1989年、富田 靖らのグループ(東北大学)が世界で初めてチロシナーゼ遺伝子変異を同定し、新しいゲノム医学の幕開けのさきがけとなったことは、日本における皮膚科研究の金字塔であるといってよい」と書いてあります。
(眼皮膚白皮症診療ガイドライン 日皮会誌:124(10),1897-1911,2014(平成26)より)

眼皮膚白皮症は近年その病因、病態が遺伝子レベルで解明されてきましたが、細かすぎてよく解りません。
ただ、大まかに捉えると以下のようになるのではないでしょうか。
*白皮症は生まれつき頭髪を含め、色が白いので診断は容易。
*ただ、軽症の場合は明確でない時もある、その際は眼底所見が診断の決め手になる。
*眼、皮膚症状のみのケースとその他の全身症状を伴うケースがある。
*全身症状を伴うケース(症候型)ではHPSなどのように出血傾向、血小板機能異常を伴うことがある。
*さらに一部の症候型では銀白色の頭髪(silver gray hair)を伴うことが特徴である。これは毛髪のメラニンがわずかに存在していて、疎に分布していることによる。このケースではCHS,GSを考える。

簡略にまとめたつもりが、やっぱりわかりにくいですが・・・。(専門家でない者がまとめるのは難しい。)

富田らの発見、その後の遺伝子解析の目覚ましい進歩により一見して眼皮膚白皮症とわかる病態の裏には、チロシナーゼ遺伝子だけではなくさまざまな分子遺伝学的な生理が関与していることがわかってきました。その分OCAの分類は年々複雑になってきており、一部の専門家でもない限りその詳細は把握することが難しいほどです。ここではガイドラインに沿って分類分けをざっとみていきたいと思います。
◆定義・概念
出生時より皮膚、毛髪、眼の メラニン合成が低下あるいは消失することによって、全身の皮膚が白っぽく なり、虹彩が青~灰色調をおび、頭髪が白、銀色または茶褐色 調を呈します。視力低下、斜視、眼振などの眼症状を伴うことが多いです。常染色体劣性遺伝です。全身症状を伴わない型(非症候型)と、全身症状を伴う型(症候型)に大別されます。
極めて稀な疾患で、2009 年の調査で、特定機能病院の新患患者の約2%、約40~160人が毎年受診すると報告されています。発症頻度は人種差が大きく、アフリカ系黒人に多いと報告されています。
◆非症候型眼皮膚白皮症
メラノソーム内部でのメラニン合成過程の酵素異常によってメラニン合成ができなくなってしまう、 またはメラノソームの膜表面たんぱく質の異常によってチロシンの輸送が阻害されたり、内部のpH環境を保つことが阻害されたりしてメラニン合成ができなくなってしまうといったことが病因となります。メラノソーム限定の異常ですので、基本的には症候型のような全身症状は認められません。
遺伝子異常の違いによって現在は7型(OCA1~7)に分類されます。日本人ではOCA1型が最も多く約34%を占めています。次いでOCA4(27%),HPS1(10%),OCA2(8%)の順になります。
OCA1型はメラニン色素合成で最も中心的な役割を持っている律速酵素であるチロシナーゼ 遺伝子の欠損によって発症し全くメラニン色素を作らない最重症型です。この原因遺伝子は日本人学者によって世界で初めて発見されたことは先に述べました。皮膚はピンク色を示し、白毛、羞明、視力障害を生じ、眼振を伴います。
遺伝子変異の 場所、種類によっては黄色変異型、温度感受性型など部分的に色素を有するバリアントもあります。
近年はチロシナーゼ遺伝子以外の遺伝子変異でOCAの症状を呈する症例が次々に発見されています。最近はゲノムワイドの遺伝子検索によってさらに多くの関連遺伝子の発見が予想されます。
◆症候型眼皮膚白皮症
症候型は細胞質内部の膜輸送経路にかかわる分子の異常によって白皮症を発症します。これらの遺伝子は直接メラニン色素合成に関わっているわけではなく、細胞質の膜輸送経路で機能しているたんぱく質をコードしています。
メラニン色素以外の細胞の重要な機能が同時に障害されます。すなわち血小板機能、ライソソーム機能障害などです。関わる異常によっていくつかのグループに分類されます。
❖このタイプでの代表的な疾患がヘルマンスキー・パドラック症候群(Hermansky-Pudlak syndrome;HPS)です。色素脱失以外の症状の他に出血傾向、間質性肺炎、肉芽腫性大腸炎などがあります。白皮症が明確でないケースもあるために、40歳以上の特発性肺線維症、クローン病などではHPSも考えておくことが必要です。HPSでは血小板機能を抑制するような薬剤(非ステロイド系抗炎症剤;NSAIDs)の使用には注意が必要です。現在まで9種類の原因遺伝子が特定されています。
❖チェディアック・東症候群(Chediak-Higashi syndrome;CHS)
ライソソームの膜融合の調節に関与するとされる遺伝子LYST遺伝子(1q42.1-2)の異常によって生じる稀な疾患です。白血球の機能異常によって感染症に罹りやすく、部分的な白皮症、白血球内巨大顆粒、色素細胞内巨大メラノソームを特徴とします。日焼けを起こしやすく露光部では逆に色素沈着を示します。骨髄移植などを行わなければほとんどの患者が呼吸器の再発性細菌感染症で亡くなるとされます。
❖グリセリ症候群(Griscelli syndrome; GC)
臨床症状はCHSと同様ですが、白血球内巨大顆粒や色素細胞内の巨大メラノソームは認めません。原因遺伝子によって3型に分けられます。筋力低下、運動神経発達障害、精神発達障害などを認めます。

❖Silver hair syndrome
CHSとGSは極めて稀な疾患ですが、両者ともにsilver (gray) hairが特徴的です。すなわち銀白色の光沢のある毛髪を有しています。これは毛髪のメラニンが疎に分布しているために光の回折効果によって生じるとされます。露光部では日焼けを起こし易いためにむしろ光線過敏症と疑われることもあります。

◆生活指導
(1)紫外線防御・・・メラニン色素が少なくなっているために、眼の保護、光線過敏、光老化、光発癌への対応が必要です。サンスクリーンは個人の日焼けの程度に応じて使用します。頻繁に日焼けを起こさなければサンスクリーン剤を使用しながら屋外活動も許可します。サンスクリーンだけではなく、服装や帽子によって遮光する、10時―2時は屋外活動を避けるなどの注意も有効です。
(2)定期的な皮膚科受診・・・長年の日光照射によって日光(光線)角化症を発症し易くなります。これは皮膚癌へと進行していくリスクがあるためにシミ、いぼ状腫瘤、カサカサした斑点があるときは皮膚科専門医の診断を受け、皮膚癌の有無をチェックすることは重要です。
◆眼科的側面
白皮症の症状が眼に限局している型もあり、眼白皮症といいます。視力低下、眼振、羞明などがみられます。OCAの型によって眼科的な症状やその程度は異なってきます。
対応及び治療も程度で異なりますが、矯正眼鏡の装着、斜視、眼振に対する外科的手術、遮光眼鏡の装着などがなされます。
羞明予防のためにカラーコンタクトレンズの装着もなされています。

眼皮膚白皮症