新しい爪白癬外用薬

先日、新しい爪白癬の外用薬が発売されました。それに併せて製薬会社の発売記念の講演会が開催されました。興味を惹かれて、参加してみました。薬剤はルコナック(ルリコナゾール)爪外用液5%です。昨年のクレナフィンに続く製剤です。佐藤製薬と(株)ポーラファルマとの併売なので、両方の説明会にでてみました。それぞれ、その道の専門の先生方の爪白癬に対するお話しをきくことができました。その内容の概略を。
日本での白癬患者はどれほどか。足白癬が1300万人程度、足白癬と爪白癬を併せ持つ人が900万人程度、爪白癬のひとが300万人強との報告があります。驚くべき多さですし、日本では旅館のスリッパ、銭湯やジムでのマットなど水虫のうつりやすい環境が多いです。
爪真菌症には下記の分類があります。
遠位側縁爪甲下爪真菌症 distal and lateral subungual onychomycosis: DLSO
表在性白色爪真菌症   superficial white onychomycosis: SWO
近位爪甲下爪真菌症   proximal subungual onychomycosis: PSO
カンジダ性爪真菌症   candidial onychomycosis
全異栄養性爪真菌症   total dystrophic onychomycosis: TDO
DLSOの頻度が最も多いです。 95%
SWOは少ないですが、老人ホーム入居者などに多くみられます。爪は脆く、表面を削り鏡検することで、多数の真菌がみられます。
PSOは0.7%程度と稀ですが、HIV,DMの患者さんでは多くみられます。
カンジダ性の爪真菌症ではほとんどが手の爪です。
診断は顕微鏡検査、真菌培養によりますが、爪の先端部や爪の表面では陰性のことが多く、爪甲の下層や、爪切りで爪の基部に近いところ、深部(爪床に近い部位)を採取する必要があります。また培養陽性率は37%とのことです。
これも爪が伸長と共に下層から上層、先端に押し上げられてきますが、それらの真菌は栄養状態が悪く、変性して陰性となりやすくなります。
各先生方が述べられたことは、発売後クレナフィンが多く使われましたが、皮膚科医でないドクターで、中には鏡検、培養を行わず、明らかに真菌症ではないケースにも用いられていることがあるとの指摘でした。やはりきちんと診断を行ってから使用すべきでしょう。
検査室に試料を提出すれば皮膚科医でなくても、真菌症の治療ができるような動きもあるようですが、真菌要素との鑑別を要するものもあります。菌様モザイク、衣類・ガーゼなどの繊維、角質細胞の辺縁、真皮の弾力線維、KOHの結晶、油滴など。また臨床症状と併せて診断することも大切です。
鑑別すべき疾患としては、爪乾癬、爪扁平苔癬、爪異栄養症、肥厚爪などです。
爪白癬の原因菌はTrichophyton rubrumが最も多く、次いでTr. mentagrophytesがみられます。

爪白癬の治療薬には内服テルビナフィン(ラミシール)とイトラコナゾール(イトリゾール)があります。
ではどのように使いわければ良いのか? 大まかに以下のように仕分けができます。
*爪真菌外用剤・・・TDOには適応にならない、DLSOでも厚みが強く、全ての爪に及ぶような高度なものは内服治療が原則
*内服テルビナフィン・・・爪白癬症には50-60%と最も奏効率が高い。但し、250㎎/日 使用した場合。なぜか日本だけが125mg/日となっています。治験中に死亡例があったこともあるが、これはもともと肝機能の悪い人に投与されたものでした。またテルビナフィンは爪カンジダ症および他の真菌によるものには効果がありません。
*内服イトラコナゾール・・・400mg/日を7日間投与、3週間の休薬を1クールとして、これを3クール施行します。
30-40%以上の奏効率とされます。最も短期間の治療期間です。テルビナフィンと異なって、爪カンジダ症など白癬菌以外の真菌症にも効果があります。但し、併用禁忌薬が多くあり、注意を要します。

いずれのケースでも爪の楔形混濁(dermatophytoma)を示す場合は抗真菌薬に対して抵抗性です。グラインダーやドリルのような器具を用いて混濁部を削ります。100均など簡易ドリルなどで穴を開けるのも手軽です。
ドクターによっては工作用のニッパーで爪を切って混濁部を開くことを推奨しています。

ルコナックの特徴はどのようなものか?
ルリコナゾールはMIC(minimum inhibitory concentration)最小発育阻止濃度、MCC(minimum cidal concentration)最小殺菌濃度共にT.rubrum, T.mentagrophytesに対しても最も低値を示しています。すなわち最も低い濃度でも強力な抗真菌活性を示しています。(in vitro)
高濃度(5%)に配合し、爪深部への浸透性を高めています。
ルリコナゾールはケラチン親和性が高く、浸透した後の徐放性にも優れています。

クレナフィンとの効き具合は?
2剤を比較検討した統計はないそうですが、治験での効果はいずれも同程度に効くそうです。ルコナックが発売されたばかりなのでこれからの比較、評価になってくるかと思います。
クレナフィンはケラチンとの親和性が低く、その分爪深部へ浸透し易い傾向があります。これに対してルコナックはケラチン親和性が高いそうです。これらの違いがどのように効果の違いに現れるか、要チェックです。

お値段は?
1本3.5g(4ml)あたり、3492.30円(1g 1000円程度)なので結構高いですが、クレナフィンの6割程度です。

つけ具合は?
クレナフィンは刷毛がついていて、慣れるとつけ易いかも、ルコナックはつけ始めは内圧が高い関係でプッシュして減圧しないとドボッと出てしまいます。刷毛がないのでつけにくいか?これも慣れかもしれません。

いずれにしても爪白癬の治療選択肢が増えてきたのはうれしいことです。