新たな乾癬外用薬(1)

乾癬はいまや生物学的製剤の全盛時代です。どこの皮膚科学会に行ってもその話題がないことのほうが稀といったところです。確かにその治療効果は目覚ましいものですし、中には重症の皮疹が全て消失して(PASIクリアー)健康な肌そのものといった写真も見ることさえあります。
しかしながら、生物学的製剤の適応になる患者さんは全体の10%以下の重症の人々で実際に使用している患者さんはもっと少ない割合(1%程度)です。またいろいろな事情で使用できない人もあります。残りの患者さんは他の治療法を選択していますし、外用剤はほとんど全ての患者さんの適応になりまし、多くの軽症の患者さんはそれだけで治療できています。いわば外用療法は乾癬治療の基本といっても過言ではありません。
乾癬の外用療法も近年新規の薬剤(ステロイド外用剤とビタミンD3外用剤の配合剤:ドボベット軟膏)が発売されて、選択肢が拡がってきました。先日、たまたま乾癬の外用療法に詳しい先生の乾癬外用療法についての講演会が続きました。カリフォルニア大学サンフランシスコ校皮膚科のJohn Koo先生と、自治医科大学皮膚科の大槻マミ太郎先生の講演(千葉県皮膚科医会総会)でした。また各地で新規薬剤についての講演会や座談会が開かれてきました。
それで、それらを元に乾癬の外用療法のトレンドをまとめてみました。
【外用剤の歴史】
乾癬の外用療法はかつては、コールタール(2-5%)を塗布した後で、日光浴または紫外線照射を行うという、Goeckerman療法が行われていました。名人の手にかかると6週間の入院治療で80%の改善率があったとのことで、これは現在でも優れた成績です。ただ、タールは匂いはきつく、黒い色がつくという欠点がありました。またときに接触皮膚炎もみられました。何よりもタールには発癌作用が危惧されるため日本では発売中止となりました。次第にPUVA療法に取って代わられました。アンソラリンも欧米では用いられました。かつて、上司のカバン持ちでハイデルベルグ大学を訪問した際に多くの患者さんにシグノリンという名前で用いられているのを知りました。帰国後調剤薬局で調合してもらい、使ってみたことがありました。一定の効果はありましたが、皮膚の刺激が強く、衣類への着色作用があり使いにくい外用剤でした。
ステロイド外用剤は乾癬治療薬として、1954年から使用されました。60、70年代により強力で効果の強いステロイド剤が続々と開発されていきました。現在でも乾癬外用剤の中で中心的な存在です。しかし、最強のデルモベートを長期に使用すると膿疱性乾癬を誘発したり、皮膚の萎縮による内出血、皮膚線条、毛嚢炎などを生じるなどの副作用もみられる欠点もあります。1990年にはビタミンD3外用薬が登場し、新たな外用剤の選択肢が増えました。
ステロイド剤は、抗炎症作用は強く、効果発現は速いという長所はありますが、先に挙げたような副作用、寛解維持が短い、というような短所もあります。それに比べてビタミンD3剤は効果発現は遅く、抗炎症作用は弱い傾向にあるものの寛解維持の期間は長いという長所もあります。
両者の長所を生かして、欧州では2001年から配合薬が用いられていましたが、本邦でもやっと2014年にドボベット軟膏が発売されました。
また海外ではタザロテン外用剤(ステロイド剤との併用が好ましい)というビタミンA製剤も使用されていますが、本邦では未承認です。
【外用治療の実態】
現在の日本でどの程度の患者さんがいて、どの程度の外用剤を使用しているかというと、健康保険組合のレセプト情報から推定できるそうです。乾癬と診断された患者さんは約56万人。その中で尋常性乾癬は98%、薬物療法を受けている人が約50万人、そのうち約44万人(89.3%)がステロイド剤、31万人(62.6%)がビタミンD3剤を使用しています。このうち約半数では両剤の併用が行われています。その中で半数近くは2剤の混合調製が行われています。
【外用治療の問題点】
◎シークエンシャル・セラピー・・・ステロイド外用剤の有効性と安全性を勘案して、Koo先生が提唱した治療方法です。
1.導入期(clearance phase)(2~4週間) 最強のステロイド剤(デルモベート)を1日2回塗布、紅斑は残るが肥厚が消失するまで
2.移行期(transition phase)(1~6カ月、あるいはそれ以上) 週日はビタミンD3剤(カルシポトリオール:ドボネックス)を1日2回、週末のみ最強のステロイド剤塗布、紅斑がピンク色になる
3.維持期(maintenance phase)(再発の予防)ビタミンD3剤を1日2回、再発したら移行期の治療に戻る
導入期は早期に症状を改善するために有効性を重視した治療を行い、次第に安全性を重視した治療へと移行していくといった方法です。患者さんに治療効果を実感させ治療意欲を持たせる理にかなった治療レジメで米国の標準的な外用療法として広く採用されています。しかしながら実診療では1,2期で繰り返しなかなか維持期までは持っていけないというケースも多いようです。 
◎塗ることのストレス・・・外用剤を塗るのは手間がかかります。治療に要する時間が長くなるほど、ストレスに感じ、1日30分以上だと7割以上の人がストレスを感じると報告されています。これが朝晩2回になると余計にストレスとなり治療意欲も薄れてきます。患者さんが医師の説明を受けて納得のうえで主体的に外用治療を継続しているかどうかを表すのにアドヒアランスという言葉があります。(これに対して医師の指示通りに受動的に遵守するのをコンプライアンスといいます。)
海外での実験ですが、患者さんに乾癬治療薬を1日2回つけてもらうことにしたのですが、薬剤の蓋に容器の開閉を自動記録する電子機器が埋め込まれてありました。8週間に亘って外用してもらった結果では日数とともに外用の回数が徐々に低下していました。しかも、自動記録と自己申告のデータには大きな開きがありました。実際には塗布していないのに塗布したとの申告をしていたということです。このように外用療法は長期になれば、それ自身がストレスとなり治療意欲を失わせ、結果として治療成績も低下させるという実態があります。
したがって、いかに簡便に、治療効果を高めながらアドヒアランスを保ちつつ治療を続けてもらう方策を考える必要性が生じてきます。

これらの問題点を解決していくために新たに登場してきたのがストロイド外用剤とビタミンD3外用剤の配合剤であるドボベット軟膏といえます。
これについては次回書いてみます。