日常のフットケア

先日、市川市医師会の学術講演会で、フットケアの講演がありました。講師は埼玉県済生会川口総合病院の高山かおる先生でした。一寸前は高山先生の接触皮膚炎の講演がありました。また違った方面の話が聴けました。
日常の外来診療をしていると、足のトラブルを抱えた患者さんは結構多いです。特に中高年の女性に多い印象を受けます。長年ハイヒールなどで足を酷使してそのツケが徐々に現れてきたのでしょうか。近年、糖尿病などにおいてもフットケアの重要性が指摘され、多くの記事、パンフレットなども目にするようになりました。しかしながら、一般にはまだフットケアの重要性、具体的な対処法などは敷衍してはいないようです。
当日の講演は一般の人にも対処できる具体的なお話でした。
足のトラブルには、いろいろありますが、多くみられるのがタコ、ウオノメ、外反母趾、陥入爪などです。これらの人では単に局所の変化のみではなく、膝や股関節の病気にも悩んで場合が多いそうです。
また、日本は欧米などと比べて靴を履く文化が浅く、機能や足の保護を考えるよりもおしゃれや簡便さを重視して、きつい靴をはいたり、逆に靴ひもをゆるめたり、かかとを踏んだりしているケースがみられます。
足には3つのアーチがあり、足を衝撃から守っています。踵、足の第1趾(親指)のつけ根、第5趾(小指)のつけ根の3か所を基点とした三角形のアーチがバネのように働きクッションの役目をします。これらの崩れがさまざまな足の障害を引き起こしてきます。
これらの足トラブルに適切に対処、是正して、セルフケアすることで足のトラブルはかなり軽減できます、という様なお話でした。先生の当日の講演、著書を基に主なトラブル、その対処法を述べていきます。
◆開張足
足の変形の初期症状は開張足です。足の前方の横アーチが崩れて足が広がってしまう状態です。一番の原因は姿勢や歩き方です。正しい歩き方は踵(ヒール)で着地して、重心を足の第5趾の付け根(ボール)に移し、次第に第1趾方へ重心を移しながら、最後は第1趾(トウ)で地面を蹴って前に進みます。しかし、ペタペタ歩きのように体重が上からドンとかかる歩き方をしていると次第に横アーチが崩れてきます。またハイヒールもコツコツ歩きになり、足が前に滑りやすくなり、バランスもとりにくく開張足の原因になります。
開張足が持続すると、外反母趾(足の第1趾のつけ根の骨が外側に突き出た状態)になり、ひいてはタコ、ウオノメ、巻き爪、陥入爪、肥厚爪などになっていきます。
◆浮き指
足趾が地面にきちんをつかずに、浮き上がった状態です。開張足でみられます。開張足は自分で見分けられなくても浮き指は自覚できます。正しく足趾を使えていないので姿勢や歩き方が崩れています。そのためにさまざまな足のトラブルが生じてきます。
◆扁平足
内側の縦アーチが崩れて、足裏が扁平になった状態です。大人になってからのものは、運動不足や加齢による筋力、腱のゆるみ、肥満による負荷の増大などの原因が考えられます。ただ、運動選手などでは筋肉の発達のために一見扁平足にみえることもあります。
扁平足では、かかとの骨が内側に傾斜しているのでバランスが悪く、長く歩くと疲れやすかったり、腰痛や膝痛を引き起こしたりします。
◆外反母趾
第1趾のつけ根の関節(MP関節)が外側に飛び出し、第1趾が小指側に曲がってしまう状態です。開張足に伴います。その曲がりの角度が15度未満なら正常ですが、15~25度なら軽度、25~40度なら中等度、40度以上ならば重度の外反母趾と診断されます。重度になると、第1趾が第2趾の上に乗ったり、逆に下に潜り込んだりします。原因は主に歩き方、立ち方のくせ、X脚などで足が内側に傾くことなどによります。ハイヒールなどによる圧迫もこれを助長します。使わないことで足の筋力が次第に落ちて靭帯がゆるみ靴に押される方向に変形が進んでいきます。中等度までならばある程度の矯正はききますが、重度で固まってしまうともう元には戻りません。
◆内反小趾
第5趾の関節が第1趾側に向かって変形した状態です。女性では外反母趾に伴い易く、男性ではガニ股(O脚)の人に見られます。ガニ股歩きでは外側の縦アーチがつぶれて内反少趾になり易くなります。内反の角度が10度未満なら正常、10~20度なら軽度、20~30度なら中等度、30度以上なら重度と診断されます。第5趾の外側にタコ、ウオノメができやすくなります。
◆ハンマートウ
第2足趾以下が「くの字」に屈曲して拘縮してつま先がハンマーのように曲がった状態をいいます。第2関節(PIP)が曲がったものですが、第1関節(DIP)で曲がったものをクロートウ(鉤爪)といいます。第2、第3趾におきやすく屈曲したまま動かなくなるので、関節の背面や足先にタコやウオノメができます。これも歩き方や立ち方の悪い癖、ハイヒールなどで足が前にすべるので余計な力が入り指が曲がることなどが原因となります。
◆鶏眼(ウオノメ)
足底の先端部分、時には趾間(とくに第4趾間)に生じる圧痛の著明な角質塊。小豆大、ないしは大豆大で表面はやや隆起して、中心部には丸い半透明な芯(core)があります。芯の先端は円錐状に尖り真皮に刺入しているので激しく痛みます。一般的に皮膚科ではサリチル酸(スピール膏)を数日貼付し、角質を浸軟させてから削りとります。
イボも同様な外観を呈することがあります。特にミルメシアといってHPV-1の感染症では蟻塚様になりますが、中央の芯の部分がギザギザにみえ、削ると点状の出血を伴うなどが鑑別点です。
◆胼胝(ベンチ、タコ)
反復する機械的な刺激によって限局性の角質増殖をきたしたもの。ウオノメとは芯がなく圧痛がない点で鑑別できます。
【骨の変形のフットケア】
*ゆるゆる屈伸・・・開張足、浮き指、扁平足、外反母趾、内反小趾に
・足を肩幅に開き、つま先と膝を同じ方向に向けて立つ。
・肩の力を抜き、脚の筋肉をゆるめて、膝をつま先の方向に向けたままフーと息を吐きながら腰を落とす。膝がつま先より前に出ないように注意。
・息を吸いながら、膝を伸ばす。
これを1日1回、2~3分行う。O脚、X脚の矯正にもなります。
*足指ストレッチ・・・開張足、浮き指、外反母趾、内反小趾、ハンマートウに
腱が緊張すると、周りの筋肉も動かなくなり、筋力が低下します。足指を揉んで足の緊張をとり、リラックスさせます。(下図参照)
*浮き指エクササイズ・・・開張足、浮き指に
・両足を揃えて立ち、かかとに重心をかけて、体を少し後ろに傾ける。
・次に指先に重心をかけて、体を前のほうに倒し、元の姿勢に戻る。
*ゴルフボール握り・・・開張足、浮き指、扁平足、外販拇趾、内反小趾に
・ゴルフボールを足裏の前足部に当て、ころころと転がす。1~3分ほど行う。
・ゴルフボールを足の指でつかみ、ギュッと握って持ち上げ、放すことを5回ほど繰り返す。
*コンフォートサポートソックス・・・足首周りや横アーチをサポートする機能があり、履いているだけで足の変形を緩和する効果があります。
*テーピング法・・・開張足、浮き指、外反母趾、内反小趾、ハンマートウに
落ちた横アーチを補正する効果があります。足の第1趾と第5趾のつけ根を引き締めるように3~4回巻きます。整形外科医の指導の基に行うのがよいでしょう。

上記のエクササイズも症状が軽度、中等度ならば行って良いですが、重度になったり、痛みがある場合などは自己流ではなく、専門医に相談の上施行することが必要です。

【フットケア6つのポイント】
足をいたわり、顔と同様に毎日の足の手入れをすることが足病変を予防し、症状を改善させる第一歩になります。
1)きれいに足を洗うこと。歯ブラシを使って、爪の周りもきれいに洗浄します。
硬い歯ブラシは皮膚を傷めるので、柔らかいものを使います。直接足に石鹸はつけず、泡でやさしく洗います。洗いすぎやごしごし擦るのは逆効果です。
2)しっかり水分を拭き取ること。水虫菌が付着してもしっかり乾燥していればそうそう全てうつるものでもありません。
3)足を保湿すること。爪も皮膚と同様に保湿して下さい。保湿の際はマッサージしながら軽く擦り込んでいきます。
4)爪を正しく切ること。四角に切る(スクエアカット)のがポイントです。
5)正しい歩き方や姿勢を身につけること。体幹部を使って足の負担を蹴らすことが大事です。
6)自分に合った靴を選ぶこと。インソールやコンフォートシューズをもっと活用して下さい。

参考書

高山かおる 巻き爪、陥入爪、外反母趾の(特効)セルフケア (株)マキノ出版 2014

アーチ

外反母趾

ストレッチ