痒疹(9)色素性痒疹

色素性痒疹は1971年に長島先生が初めて報告した疾患概念で、強い痒みを伴う紅色丘疹が発作性、再発性に出現して、それが消退した後に粗大な網目状の色素沈着を残すことを特徴としています。上半身、とくに衣服と擦れやすい、あるいは外的な刺激がかかり易い上背部、胸部、項部に多く認められます。
「色素性痒疹」という、病名については、西山先生はあれは痒疹ではない、との意見で確かに皮疹の形状、融合した皮疹をみると典型的な痒疹の概念からは一寸外れているようです。ただ、痒みが初めにあり、孤立性の小丘疹から発症するのは痒疹の特徴のようです。
当初は上半身の衣服が擦れる部位に好発すること、汗、発熱などの外的な刺激が誘因になっているケースが多いことから、それらが原因と考えられていましたが、後年長島らは外的要因の全くみられない症例の存在のあることより、外的要因は悪化要因の一つにすぎないと指摘しました。1994年に寺木、木花らは飢餓状態、ダイエット、インスリン依存性糖尿病、ペットボトル症候群などにによるケトーシスに伴って発症することを指摘しました。それを皮切りに同様な症例報告が多数みられるようになりました。
ただ、それだけではなく、他の誘因として精神的ストレス、汗腺、脂腺の機能亢進、マラセチアなどの好脂性毛包常在菌の関与も推定されています。
臨床的な特徴とともに、治療ではミノマイシンが特効的に効くというのも特徴です。ミノマイシンは抗菌剤ですが、好中球の機能を抑制して、炎症を抑えるという特殊な作用機序があり、そのために奏功すると考えられています。ただ、初期病変は毛包一致性の紅色丘疹であり、春から夏にかけて発症し易いことなど細菌性の毛包炎による機序も考えられ、抗菌作用によっても奏功するとの考えもあります。DDS(ジアフェニルスルフォン)も有効ですが、再発率はミノマイシンより高く、メトヘモグロビン血症、DDS症候群(DIHS)などの副作用もあることから第一選択薬とはなっていません。
病名について、西山先生はドイツ学派らしく、痒疹丘疹、結節(Prurigo Knötchen)ありきという考えのようですし、長島先生はフランス学派(?)の通り初めに痒みありきで、その後痒疹丘疹が出現するという考えなのではないかと思います。(私見) そう考えるといずれも納得がいきます。これは痒疹とはなんぞや、という根本的な考え、論争にも発展するのかもしれません。
いろいろ調べてきて、痒疹の原因が一筋縄ではいかないことは、すなわち起痒物質は幾多もあり、外的には虫の唾液物質、内的には肝臓、腎臓、糖尿、癌などに起因する物質もあります。
場合によっては精神的ストレスさえも起痒原因となります。
これらをもとに痒疹が形成されるのでしょう。ただ、いくら痒くても原発性胆汁性肝硬変などのように発疹の全くないものもあり、痒みと皮疹の関係の複雑さに思いをいたすところです。

自験例を示します。1か月食事制限(炭水化物制限)し、5Kg減量したあとに発症した例です。
上半身に網目状の特徴的な丘疹、紅斑を呈しました。1週間ミノマイシンを内服してもらったところ、ほぼ色素沈着となりました。
つい先週も胸に網目状の丘疹、紅斑を呈した女性が来院しました。皮膚科でステロイド剤をもらったものの全く効かないとのことです。本人は医療関係の方でマラセチア毛包炎を疑い、真菌検査を希望されていました。マラセチアの検出は実は難しいのですが、(ズーム液などで長時間染色)菌糸型も、胞子型もみられませんでした。色素性痒疹について簡単に説明し、まず1週間ミノマイシンを飲んでみましょう、といって飲んでもらいました。1週間後の再来では薄い色素沈着のみで略治状態でした。そしたら実は数カ月前からダイエットをしているのだ、と打ち明けられました。自己流のものでカロリーも1000Kcal以下だったといいます。
やはり、無理なダイエットは禁物です。専門家の指導のもとに行うべきだと思いました。
それとやはり、病態を知ってそれなりに説明しないと、皮疹とダイエットなど患者さんは思いもよらないでしょう。やはり病気のことをしっかり知っておくことは重要だな、と改めて思いました。

参考文献

沼田茂樹 他.夏に再燃した色素性痒疹.皮膚病診療:33(12);1243~1246,2011

篠塚直子 他.I型糖尿病を合併し膿疱形成のみられた色素性痒疹.皮膚病診療:33(12); 1247~1250,2011

色素性痒疹1

色素性痒疹2 ミノマイシン投与1週間後