痒疹(8)透析とレミッチ

慢性腎不全、さらに血液透析を行う人の多くに(70-90%)に慢性の耐えがたい痒みを生じます。そして、その多くに慢性痒疹ないしそれに似た結節を生じてきます。
この痒みは通常の抗ヒスタミン剤ではほとんど効きません。
その際に前項で書いたようにレミッチが奏功する場合もあります。これは日本独自の薬剤です。海外(欧米)での状況を高森先生にお聞きしたところ、痒みの専門家は非常に興味を示すもののまだ市場には出ていないとのことでした。オピオイドということで、麻薬など依存症を心配する向きもあるそうですが、依存にかかわるμ受容体とは直接結合しないので、依存症や耐性の心配はほとんどないそうです。
痒みの成因、オピオイド系のかゆみ機序などについては前に書きましたので、省略します。
レミッチはその後、慢性肝疾患患者への痒みに対しても効能、効果が追加されました。ノピコールという製品名で最近発売されました。薬理的には選択的オピオイドκ受容体作動薬といいます。
慢性肝疾患、とくに原発性胆汁性肝硬変(軽症では肝硬変にならない)での痒みは強いとされています。ノピコールは肝疾患の痒みを劇的に改善するケースもあります。
糖尿病性腎症などからの血液透析患者では痒みの強い結節が生じた場合には、慢性痒疹と後天性反応性穿孔性膠原線維症(acquired reactive perforating collagenosis: ARPC)との鑑別が必要になってきます。
ARPCとは変性した膠原線維が経表皮的に排出される病理像を特徴とした病態を表しますが、糖尿病の合併が多いことから糖尿病による真皮の微小血管障害から膠原線維の変性を生じるとの説、高血糖に伴う膠原線維のグリケーション(非酵素的糖負荷反応)、フリーラジカルからの膠原線維の損傷などの機序が考えられています。ただ、それ以外に肝疾患、悪性腫瘍、内分泌疾患、リウマチ、SLEなどの例もあり原因の詳細は不明です。
臨床的には固い丘疹、結節の中心部に固着した角栓、臍窩を有するのが特徴です。
ただ、臨床的には慢性痒疹との区別がつきにくいものもあり、実際この両者が混在していることもあるようで、一連の病態を示しているとする考えかたもあります。
自験例でも糖尿病性腎症から透析に至り、慢性痒疹の像を呈しましたが、また中心部に角栓、痂皮を伴う結節も混在していました。それらに対してレミッチが奏功しました。(下記写真)

参考文献

浅井俊弥.透析に伴う痒疹.皮膚病診療:33(12);1259~1262,2011.

岸田功典 ほか.aquired reactive perforating collagenosis.皮膚病診療:33(12);1263~1266.2011.

ARPC1 糖尿病性腎症から透析となった例

ARPC2 孤立性丘疹、結節

ARPC3 結節の中央に痂皮、固着した角質物質を認める

レミッチ内服にて、色素沈着となった