アトピー性皮膚炎の眼症

先日のアトピー性皮膚炎治療研究会ではアトピー眼症の講演がありました。眼科専門医の話を聴く機会は滅多になく、貴重な経験でした。眼科の細かいことは解かりませんが、講演の概要を書いてみました。

「アトピー性眼瞼・角結膜炎の病態と治療」 順天堂大学医学部附属浦安病院眼科   海老原 伸行 先生

・アトピー性皮膚炎に伴う眼合併症をアトピー眼症とよびます。
・アトピー眼症には白内障、網膜剥離、円錐角膜、眼瞼・角結膜炎(atopic blepharo keratosis: ABKC)などがあります。
・アトピー眼症の明確な発症メカニズムは明らかではありませんが、大きな原因の一つに患者自身の眼掻破・叩打行動があります。
・従って、アトピー眼症の発症予防にはABKCの炎症や痒みを抑える治療が重要となります。
・また眼瞼炎が重症になると、睫毛内反や開瞼不全による角結膜炎や両眼角膜ヘルペスを合併することもあります。
以下に個別の事象について書きます。
◆アトピー白内障
若年者に多く、水晶体の混濁が前嚢下、または後嚢下に多く、それは外傷性白内障の発生部位に類似しています。
その原因としては長年眼を掻破すること、叩打することなどの外力が最も考えられています。その他に虹彩毛様体炎に伴って前房・血液関門の破壊によって血中の好酸球由来細胞障害性蛋白が前房中に流入して白内障を発症すると考えられています。
ステロイド剤内服によっても白内障が発生することから、ステロイド外用剤が原因と考えられていた一時期がありましたが、ステロイド外用剤を中止したことで、痒み、炎症が悪化し却って発生頻度が増加したとされます。またステロイド開発前の1936年にアトピー性皮膚炎の10%に若年性白内障の報告があることなどから、一定の頻度でアトピー性白内障は発生することがわかっています。通常のステロイド剤外用では白内障を惹起することはまずありません。
◆網膜剥離
その原因は白内障と同様に叩打などの外力によると考えられます。網膜裂孔の好発部位は鋸状縁付近に多く見られます。
網膜輪状締結術+冷凍凝固術、内視鏡手術などが行われます。
◆円錐角膜
患者の約半数で花粉症、15%に喘息、8%にアトピー性皮膚炎がみられ、また半数では眼を強く擦る習慣がみられたとされます。すなわち円錐角膜の原因はアトピーそのものというより眼を擦ることにあるようです。
◆アトピー眼瞼炎
炎症の段階は皮膚のそれと類似しています。当初は乾燥が主で、次第に紅斑、丘疹、鱗屑などを生じ、高度になると苔癬化、線維化、痒疹結節などを生じ、瘢痕形成に至ります。
掻破などでびらんなどの傷ができ、ブドウ球菌などによる細菌感染症、ヘルペスなどのウイルス感染症を生じることもあります。
治療はこまめな洗顔によって抗原を除去すること、プロペトなど保湿剤によるスキンケアによって皮膚バリア機能の維持、改善に努めること、抗炎症剤として短期間のステロイド外用剤、タクロリムス軟膏、痒み止めとして第二世代の抗ヒスタミン剤などが使用されます。
◆アトピー性角結膜炎
上眼瞼結膜の線維性増殖性変化を認めます。以前では抗アレルギー剤点眼、ステロイド薬点眼などが用いられましたが、最近では0.1%シクロスポリン点眼液(パピロックミニ)、0.1%タクロリムス点眼(タリムス)などが使用されています。またアレルギー薬の点眼(肥満細部膜安定化薬、抗ヒスタミン薬など)が使用されています。
慢性化し結膜の繊維化や杯細胞の消失の消失を認めるときには眼表面のムチンが減少するために、外来抗原と結膜上皮細胞が直接接触し自然型アレルギー反応が起こり慢性化します。それを防ぐために抗炎症剤だけではなくバリアとしてのムチン層の保護も必要となってきます。

ステロイド点眼薬の副作用・・・眼圧上昇、感染症誘発、創傷治癒の遅延などがあります。
特にステロイドによる緑内障の誘発、眼圧上昇には注意が必要です。ステロイドレスポンダーといって、ステロイド剤に敏感なグループがあり、特に小児では注意が必要です。これは使用前には予想できず、つけてみないと解かりません。従って眼囲へのステロイド外用剤、点眼などが長期に及ぶ際には1ヶ月以内に緑内障のチェックのため眼科での検診が重要となります。このような際には免疫抑制剤点眼はステロイド点眼より離脱でき、眼圧も下降するので有用です。
急性期にはタリムス、寛解維持期にはパピロックミニが適応となります。

参考文献

海老原伸行 アトピー眼症の予防と治療. 皮膚科臨床アセット1 アトピー性皮膚炎.湿疹・皮膚炎パーフェクトマスター
総編集◎古江増隆 専門編集◎中村晃一郎 東京:中山書店;2011.pp112-119.

中村吏江 ほか.ステロイドレスポンダー.
皮膚病診療:34(1)【 特集】アトピー性皮膚炎―2012;95~99,2012