膿胞性乾癬(2)病因

1991年Marrakchiらはチュニジア人血族家系にみられた家族性汎発性膿胞性乾癬(familial generalized pustular psoriasis:FGPP) 患者の遺伝子解析からその原因遺伝子を解明しました。
9家系16人の患者さんの解析から染色体2q13-q14.1に存在するIL-1ファミリーの一つであるIL-36RN(IL-36受容体阻害因子遺伝子)に変異があることが発見されました。IL-36RNはIL-36と拮抗して表皮角化細胞、真皮樹状細胞などの上のIL-36受容体(IL-36R)と結合してその下流のシグナル伝達を抑制します。FGPPではIL-36RNの機能が欠損しているためにその抑制機能が正常に働きません。IL-1ファミリーは炎症惹起性のサイトカインです。その結果この経路の炎症を惹起するシグナルが持続して伝達され病像が形成されると考えられています。
それで彼らはこのFGPPをDITRA(deficiency of interleukin 36(thirty six) receptor antagonist)と呼ぶことを提唱しました。
日本人の患者さんについては名古屋大学の杉浦らが31例の遺伝子の変異解析を行いました。その結果、乾癬の症状が先行していない7例はすべてDITRAであることが解かりました。一方乾癬の症状を有したGPPでは20例中わずか2例のみにDITRAを認め、なおかつこの症例は乾癬感受性の遺伝子も有していました。
すなわち杉浦らの解析によればGPPのみで乾癬を伴わないものがDITRAであり、乾癬を伴うものは遺伝学的に異なる範疇に分類されることになります。
また海外の報告では、掌蹠膿胞症やHallopeau型稽留性肢端皮膚炎やAGEP(急性汎発性発疹性膿胞症)の一部でIL36RN遺伝子の変異が報告されているとのことです。
この遺伝子とは別に、表皮細胞特異的NFκB促進因子CARD14遺伝子の変異による幼児発症のGPPも報告されているそうです。
GPPの分類は今後もこの遺伝子変異を糸口として変わっていくかもしれません。
また治療に関しても、DITRAの類症ともいえるDIRA(deficiency of interleukin-1 receptor antagonist)がreconbinant IL-1 RN:kineret(anakinra)によって著効を呈することなどが解かり、DITRAについても希望をもてる新規治療と考えられます。
IL36RN遺伝子の変異箇所は人種によっても異なり、日本人ではc.28C>T(p.Arg10X)とc.115+6T>C(pArg10ArgfsX1)の2つの創始者変異にほぼ集約されているそうです。

一寸前までは、乾癬の中での膿胞性乾癬の位置づけや病因などはほとんど不明であったことを思うとまさにパラダイムシフトといえる感があります。
IL36RN遺伝子の検討はこれらの周辺疾患も含めてさらに重要になっていくだろうとのことです。

参考文献

Marrakchi S, et al.:Interleukin-36-receptor antagonist deficiency and generalized pustular psoriasis. N Engl J Med.2011;365:620-628.

杉浦一充:膿胞性乾癬の遺伝と多様な病型.臨床皮膚科 68(5増):15-19,2014.

照井 正 ほか:膿胞性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版.日皮会誌 125:2211-2257,2015.

GPP 臨床皮膚科 68(5増):15-19,2014.より

シグナル 臨床皮膚科 68(5増):15-19,2014.より

IL36RN 日皮会誌 125:2211-2257,2015.より