爪のお話再び

先日、浦安で東先生の爪のお話の講演会がありました。
爪のお話といえば、昨年の7月にも千葉市で一度講演をしていただいたことがあります。そのお話をきっかけとして、昨年は延々と爪シリーズのブログのアップを続けました。またEADVでBaranという爪の大家を目の当たりにして、その著書を購入し、一寸にわか爪マニアになりました。
しかし、およそ半世紀にもわたる爪の達人の話はつきることがありません。今回も時間がきたのでここまで、と用意されたスライドは全部見せていただくことはできませんでした。
講演の中で前回書ききれなかった部分、追加部分などを再び。
◆爪の各部分の役割
爪床(nail bed)・・・爪甲下面で、爪半月から先をいいます。水分の補給をしています。
爪下皮(hyponychium)・・・爪の先端と皮膚の接点部分です。異物が入らないようにしている。甘皮(クチクラ)の部分も同様の役目を果たします。
爪母(nail matrix)・・・一生爪を作り続ける部分で、爪半月より後方部分に相当します。
側爪郭(lateral mnail fold)・・・爪を固定する役目があります。この部分を欠くと(ラケット爪や陥入爪の手術で側爪郭を切ったり、咬んだり、むしったりすると)支えがなくなり、スプーンネイルになります。
◆爪咬みくせ・・・普通3歳以降に発症し、中高生では増加し、それ以降は減少します。知能発育、精神病などは関係しないとされます。兄弟の誕生、転居、転入学などの社会的な環境の変化が契機となる例があります。本人がその気になって治療する意志があれば治癒するとのことです。逆に咬み癖を治さないと治癒しません。バイターストップという苦味成分(安息香酸デナトニウム)を含んだトップコートを使用することで咬み癖が治ることもあるそうです。指先の荒れがなかなか治らない人は結構深爪をしていることがあります。爪甲は指先を保護する役目を担っているのです。また指腹を保護、支えるだけではなく、触覚が鋭敏になることによって、細かい仕事、細かいものを摘みあげる役目も果たしています。
◆爪甲層状分裂症(二枚爪)・・・爪甲の水分量の低下によります。ただ、単なる水分量だけではなく脂肪成分量も関係するようです。爪が脆く脆弱になる原因、要因は種々あります。低色素性貧血では高頻度に生じ、それに外圧が加わるとスプーンネイルとなります。糖尿病、内分泌異常、HIVでの報告もあります。ビタミンA酸(エトレチナート)、抗ガン剤など薬剤性のものもあります。またテトラサイクリンなどの薬剤は光線性爪甲剥離を起こすことがあります。
男女比は女性に多く、マニキュアの除光液の使用過多、洗剤の長時間使用、過度の水仕事なども要因となります。また外界の湿度の影響も受けやすく、冬場は悪化傾向にあります。
治療は原因疾患の治療や外的な原因を取り除いたうえで、尿素軟膏やワセリンなどの保湿剤を使用します。流動パラフィンやリン脂質も良いとされます。時にステロイド外用剤が奏功する場合もあります。
◆黄色爪・・・爪甲が分厚くなると爪は黄色調を帯びてきます。それで原因には様々なものがあります。先天性、疾患(腎、肝、肺、心、血液、内分泌、感染症、腫瘍、皮膚疾患など)、薬剤性、職業性、外傷性など。
爪甲の厚みと爪甲の発育速度は表裏一体の関係にあります。成長速度が半分になると厚みは凡そ2倍になります。黄色になる理由は明確ではありません。成長速度が遅くなって、爪が分厚くなれば爪の透明度は落ちますが、それだけではなく黄色物質が沈着するという説もあります。メラニンやリポフスチンなどが考えられています。
黄色爪症候群(yellow nail syndrome)・・・黄色爪、リンパ浮腫、肺病変(慢性気管支炎、気管支拡張、胸膜癒着、肺炎など)の3徴候を伴った疾患を呼びます。これら全てそろったものが完全型ですが(27%)むしろすべてが揃うケースは少なく2つのみの不全型もあります。リンパ浮腫は下腿、足首近辺のものが多いものの、顔面、上肢の報告もあります。爪の変化の原因の詳細は不明ですが、リンパ流の不全がベースになっていると考えられています。この変化は器質的なものではなく機能的なものなので、リンパ流の改善によって軽快するとされます。中には副鼻腔炎から後鼻漏、痰から肺病変を起こすケースもあります。
治療は原疾患の治療によりますが、中には自然治癒例もあるそうです。大量のビタミンE、抗生剤、DMSO、ビタミンA酸が有効であったとの報告もあります。
◆Retronychia・・・1999年にde Berker, Renallによって初めて報告されました。外傷などが原因で不完全に脱落した爪甲が 後爪郭部に埋め込まれた状態です。本邦では2011年東が後爪郭部爪刺しと邦訳し3例を報告しました。本症例の報告例は少ないですが、正確な診断がつかないだけで実際の発症数は意外と多いのかもしれません。
外傷、ランニング、ダンス、ハイヒールなど爪先立ちをすることがきっかけで発症するようです。症状は近位側の爪甲の肥厚、黄白色化、爪甲伸張の停止、抗生剤、抗真菌剤で改善しない後爪部の慢性炎症、紅斑、腫れなどです。
剥がれかかった爪の下から新しい爪が2枚、3枚と出来上がり、下から古い爪を押し上げる格好になります。
治療は伝達麻酔下に爪甲除去術を行います。爪が除去された後は趾尖の変形に伴って爪の伸展が阻害されないように同部を下方に引っ張るテーピングを行います。
◆陥入爪・・・前回も話されましたが、東式とも呼べるアクリル人工爪による矯正法を提示されました。フェノール法などの側爪郭を除去する手術法は、短期的には良くても10年以上経過すると厚硬爪や鈎彎爪となって痛みを生じるようになるので不適切な治療法とのことでした。爪の左右の支えが無くなると爪は下からの圧力に抗しきれなくなります。
海外ではフェノール法が盛んに施行されているようですし、大きな肉芽腫ができた重症例は国内でもフェノール法がなされています。また形成外科では陥入爪の手術が行われています。このような点も踏まえて、しつこいようですが重症例でのフェノール法や手術法の可否を質問しましたが、やはり東先生の信念は不変でした。
海外の先生や外科系の先生方とのディベートを期待したいところです。

これら以外にも多くの爪病変について解説されましたが、それでも東 禹彦 著 「爪 基礎から臨床まで」の本の内容の一部にすぎませんでした。

爪甲図 「爪基礎から臨床まで」東 禹彦 原図 より

黄色爪 黄色爪 爪甲が厚くなると黄色を呈します.