IPL講習会

先日L社のIPL(Intense Pulsed Light)の講習会がありました。IPLは広帯域波長を発振するフラッシュランプでレーザーが単一波長の光源であるのに対して、キセノンランプを光源とした多波長で連続性、散乱性の性質をもつパルス光です。
本邦では1994年に発売され、色素病変、血管性病変、多毛など様々な皮膚疾患に使用されました。しかし、使用パラメーターが複雑で満足な結果が一部でしか得られず、過剰な期待が逆に期待はずれの評価となっていったそうです。頭文字をとってインチキパルスレーザーと陰口をたたかれたこともあったそうです。しかし10年を経ても生き残り、現在では抗加齢目的のnon-abrative skin rejuvenationの機器として一定の位置を占めるようになったとのことです。(golden standardという人もあります。)
当日は「Photo Facial IPLの基礎と活用のヒント」と銘打ったワークショップでした。
2人の講師の先生のいろいろなタイプの”シミ”を中心にした治療例を示していただきました。数年後の顔のほうがむしろ若々しい印象の写真もありました。確かに真皮性のしみ(ADMや太田母斑)には効かないし、しわ、たるみなどにも効きませんが、顔の全体的なトーンが明るくなり、赤みにも良いようで、ダウンタイムがなく、日本人向きなのかなという印象をもちました。IPLの一番の適応は光老化(皮膚の粗ぞう、色素異常、毛孔開大、血管拡張)を改善させることといいます。それに、なかなかいい治療法のない酒さや、足底疣贅にも著効を示していたのが印象的でした。
講師の先生によるハンズオンもあり、実用に即したなかなか興味深いワークショップでした。
当日のワークショップでみせていただいた、素晴らしいシミやクスミの治療の経過写真に感動した一方でまた、シミの治療の難しさ、奥深さも考えさせられました。
美容皮膚科の治療で最も中心になるのが”シミ”の治療だといいます。当日帰ってからシミの治療で本邦では第一人者の一人である葛西健一郎先生の「シミの治療 第2版」を読みました。(ちなみに第1版よりも第2版はかなりパワーアップしています。)
葛西先生の著書などを種本に、個人的な感想を述べてみます。

シミといっても、実にさまざまな疾患、状態があります。大きく先天性、後天性に分け、またメラニン色素の存在の部位によって表皮性、真皮性に分けると比較的わかり易く分類できます。日常でシミの鑑別になる疾患は以下のものが挙げられます。
老人性色素斑、太田母斑、脂漏性角化症、炎症後色素沈着、雀卵斑(そばかす)、肝斑、後天性真皮メラノサイトーシス(aquired dermal melanocytosis: ADM)など。
これらの疾患の鑑別は時として難しいことがあります。IPLはその特性から太田母斑やADMなどの真皮病変には効果がありません。
では表皮性のシミならばすべてIPLで良いかというとそうでもありません。肝斑は原則レーザーは禁忌ですし、炎症後色素沈着にもむしろ何もしないでそっと炎症が収まるのを待つのが最善の方法だといいます。そばかすや日光性色素斑が良い適応のようです。葛西先生の考えでは老人性色素斑、脂漏性角化症(本質的には同一疾患)のような良性腫瘍に対しては完全に除去できるレーザー治療が第一義で 部分的に取れるだけのフラッシュライトを使うまでもないというスタンスです。然しながら一方で若返り(rejuvenation)という目的ならば完全除去を目指さなくても肌質の改善、シミの緩和という合目的な治療方法であろうと述べています。
肝斑については当日の講師の先生も数回のIPL照射で肝斑が顕在化してきても メラニン吸収を抑えた640nmなどの長波長を設定して低出力、長いパルス時間でマイルドな照射を行えば肝斑の治療が可能ということでした。
肝斑の治療については、葛西先生はIPLもレーザートーニングも良くないという考えです。ここら辺りは専門家の間でも考えの異なる部分です。

IPLのワークショップに参加してみて、専門参考書を見てみて、改めてシミの診断と治療の難しさが思い起こされたことでした。