最近のニキビ治療

先日最近のニキビ治療についてのweb講演会がありました。講師は東北大学の山﨑研志先生でした。平日のお昼休みの時間でしたが、G社とS社の後援で勉強させて頂きました。
午前中の診療を終わってからすぐのあわただしい講演会でしたが、最近のトレンドを知る良い機会になりました。
一寸難しい基礎的な話と実用的な治療の話を取り上げてみたいと思います。

ニキビの治療については当ブログにやや詳しく書きました。(2013年1月から数回に亘って。)
その当時の記事を読み返してみますと、わずか数年の間にニキビ治療の環境が随分変わったことに驚かされます。書いた記事の内容はそれ程訂正することはないと思いますが(ニキビの専門の先生の記事を丸写ししたものなので当然かもしれませんが)当時は新薬といえばアダパレン(ディフェリン)だけだったと思います。将に日本はニキビ治療に関しては後進国でした(渡辺晋一先生の言によれば)。
その後立て続けに新薬が上市されました。BPOゲル(ベピオ)、デュアックなどで漢方薬でもニキビへの適用に力を入れています。また美容、レーザーなどの分野でも販促に力を入れています。いろいろな選択肢が一気に増えてきたようで嬉しい限りですが、じゃーなんで長いことニキビ治療後進国に甘んじてきたのだろう、と素朴な疑問を持ってしまいます。日本の技術力が遅れていたわけではなかろうに・・・。一介の開業医にはその辺の事情はわかりませんが。
それはさておき、山﨑先生の講演は自然免疫の専門家だけあってニキビの病態や治療薬の機序について基礎的かつ科学的な解説をされました。ただ、一寸難しくてついていくのが一杯一杯でしたが。
以下の部分は参考までに山﨑先生の論文から書き写したものでスルーして下さい。

アクネ桿菌は顔面の皮膚の常在菌でそれだけでは炎症反応は起こりません。表皮角化細胞は自然免疫受容体であるTLR2(トールライクレセプター2)を発現します。ニキビ発症初期にはTLR陽性細胞(主に組織球)が病変部に集まっています。TLR2はアクネ桿菌や脂肪酸を感知することで炎症性サイトカインTNF,IL-1などを誘導します。TLR2を欠損した細胞ではその誘導は起こしません。これら活性化した炎症性サイトカインは細胞内シグナル伝達分子のNF-κBとMAPK JNK/p38~Jun/Fos経路を活性化させます。炎症反応が進展すると更なる連鎖を起こし、Jun/Fos複合体のAP1の形成を促進させます。これによって遺伝子の転写が促進されMMP(matrix metalloproteinase,細胞外基質分解酵素)の発現を増強させます。MMPの増加はコラーゲンを含む真皮細胞外マトリックスの分解と変性をきたします。これによってニキビ瘢痕が形成されると考えられます。
このように分子レベルでニキビ形成、瘢痕形成の機序が説明できるようになったことでその各部位に効く薬剤の開発、選択肢も科学的に拡がってきました。新薬の作用機序も分子レベルで説明できるようになってきました。

上記の機序はさておいて、ニキビは青春のシンボルではないですが、思春期になって男性ホルモン(アンドロゲン)の作用によって(女性でもアンドロゲンの働きはあります。)皮脂腺に皮脂がたまって毛漏斗部に角化異常がおこり、閉鎖面皰(closed comedo,白ニキび)ができることから始まります。それが膨らむと先端が開いて開放面皰(open comedo,黒ニキビ)となります。アクネ桿菌(propionebacterium acnes)が増えると炎症をおこして紅色丘疹、膿胞ができます。さらに進展すると嚢腫、結節ができ、炎症が収束しても萎縮性瘢痕、肥厚性瘢痕を残しずっと消えないことにもなります。それでニキビ治療の要諦は初期に治して、いかにして瘢痕を作らないようにするかにつきます。
ニキビは見た目だけの事で、日常生活機能になんら差し支えないともいえますが、一方でいやな思いをしたり、いじめられたり、また不安、引きこもりがちになるなど若者の精神的に大きなマイナス要因となってQOL(quarity of life)を大きく損ねているとの統計結果もあります。

ニキビの治療は近年アダパレン(ディフェリン)、BPO製剤が登場してきたことにより耐性菌を意識しながら、急性炎症期、維持期に対し異なるアプローチをとる方式が提唱されるようになってきました。
◆急性炎症期
ニキビの炎症性皮疹である紅色丘疹、膿疱などが長期に続くと不可逆的な瘢痕を残しやすくなります。急性期の治療ではいかに早く炎症を抑えて瘢痕を作らないように持っていくかということが重要です。
それで
アダパレンとBPO,BPO/CLDM(DUAC:デュアック 3%過酸化ベンゾイルと1%クリンダマイシン配合ゲル)、さらに抗生剤の組み合わせを重症度に応じて併用するアルゴリズムが提唱されています。
重症例ではファロペネム(ファロム)などの抗生剤の短期間併用投与の有効性も示されています。
耐性菌を作らないためには外用、内服抗生剤を極力減らすことが大切で、その危険性が少ないBPO製剤が良いのでしょうが、早く炎症を抑えるには抗生剤が有効なわけで、この兼ね合いをどのようにするかは明確な基準はまだないようです。専門家によっても、若干の考えの違いはあるようです。(炎症を早く抑える意味でDUACを推奨する人と、耐性菌のことを考えてBPO単独製剤を推奨する人と)患者さん個々人の重症度、反応性、薬剤耐用性によっても異なってくるかもしれません。ただ、大筋では急性期は4~12週で、その間はアダパレンをベースにBPO製剤を併用し、重症度に応じて抗生剤も加えていくという道筋は決まっているようです。
◆維持期
長期になると、耐性菌の問題がでてきます。欧米などは薬剤耐性アクネ桿菌の比率が年々高くなり、報告によっては5割を超すほどになってきたそうです。日本は欧米ほどではないものの近年は20%を超すとの報告もみられます。
そこで治療の原則はアダパレンとBPO製剤となってきます。
ただ、両方の薬剤ともに、刺激感の強い薬剤でもあります。特に薬剤導入時の2週間から1か月の間に副作用が出やすいようです。ひりひり感、かゆみ、乾燥、紅斑、かぶれなどがあります。それで専門家によってはBPO製剤は炎症部分にのみポイントでつけて、徐々に馴らしていくやり方を推奨している人もあります。

最近、日常診療をしながらニキビ治療で気づいたことをアトランダムに述べてみたいと思います。
・デイフェリンの効果は実感していますが、やはり時々刺激が強くて使えないという人があります。保湿を十分にして、週2,3回位でも試してみて、といってもダメな人もあります。必ずしもアトピー性皮膚炎というのでもなさそうですが、これらの人にいかに安全に使ってもらえるか、今後の課題です。
・ディフェリンの最初の処方の際は、パンフレットを渡し、女性では妊娠時の禁忌のことは告げていますが、さすがに毎回は確認しません。女性の皆さん、妊娠、授乳時はダメなことを覚えておいて下さい。
・BPO処方の際にも、注意事項は告げていますが、衣服が白くなった、脱色したという人がありました。ブログなどでもそういった記事を目にすることがあります。過酸化ベンゾイルは酸化剤で脱色作用があることに注意が必要です。
・ベピオは2.5%の製剤です。海外のものではより高濃度の製剤もあります。やはり5%のベンザダームのほうが効いたという人もありました。
・ファロムは重症のニキビによく効く印象があります。但し、胃腸障害は強いようでダメな人はほんの2,3日で下痢してしまいます。
・K社はこのところニキビの漢方薬に力を入れているようです。十味敗毒湯は桜皮のエストロゲン様作用で特に女性に効くとのふれこみです。真偽のほどはわかりませんが、確かに良い人もあるようで抗生剤からの切り替えにも良さそうです。T社の十味敗毒湯の方が好きな人もいます。実のところ、医師によって色々な漢方薬がニキビに使われていてどれが最適かはわかりません。
・日常生活でのスキンケアの大切さも感じます。マスクの刺激で悪くなっている人も結構あります。スキンケアは重要ですが、しっかりするというより、間違ったことをしないことも必要かと思います。日臨皮三ブロック合同学術大会の村田先生の講演でもありましたが、強くマッサージしたり、洗顔したりして赤ら顔を余計悪化させているケースは時々見かけます。
・ニキビ痕をなんとかしてくれ、という要望は多いです。それが一番難しく、悩ましいニキビ治療の問題点かもしれません。ケミカルピーリング、フラクショナルレーザーなどの有効性が報告されていますが、より良い治療は今後の課題なのでしょう。

山﨑研志: 痤瘡治療のゴールを目指して.~痤瘡瘢痕のメカニズムと対策を考える~ 日臨皮会誌:31(4).500-501,2014

林 伸和: 痤瘡治療の今後の方向性.日臨皮会誌:32(4).461-463,2015

谷岡未樹: 痤瘡治療の最前線.日臨皮会誌:32(4).464-465,2015

黒川一朗: 効果が実感できる痤瘡治療.日臨皮会誌:32(5).586-588,2015