日臨皮三ブロック合同学術大会

先週日本臨床皮膚科医会三ブロック学術大会がありました。
その時の講演の中でのさわりを一寸。
◆成人の顔の赤い皮疹の鑑別と治療  自治医科大学 村田 哲 先生
顔の赤い皮疹は湿疹から皮膚ガンに至るまで多岐に亘っていて枚挙にいとまありません。特に成人の女性では化粧を始め特異な習慣や外用が原因になることも多いと実例を呈示して説明して下さいました。原則として1)化粧をせずに受診 2)全ての治療を一旦中止する ことで修飾のない本来の皮膚の状態を確認することの重要性を述べられました。実際いろいろなマッサージ器具や化粧品、ひいては医師からの薬をやめることで赤ら顔がきれいになった例をいくつも例示されました。擦るなど何もしないことが結構重要な治療になるのです。勿論、皮膚科医としての十分な診断力がベースに必要なのは自明の理ですが。
◆下肢静脈瘤、静脈性下腿潰瘍の新しい治療戦略  自治医科大学 前川 武雄 先生
下肢静脈瘤の歴史は意外と古く、紀元前から記載があり、500年代にはすでに結紮術がなされていました。19世紀末には近代的な高位結紮術、1921年にはストリッピング術、20世紀後半の硬化療法を経て、近年はレーザー療法がなされるようになってきました。下肢静脈瘤には浅在性の静脈の弁不全による一次性のものと、深部静脈の閉塞に伴って起こる二次性のものがあります。静脈には弁があって、立位であっても重力によっても血が下に下がらないようになっていて心臓に還流します。静脈圧は80~100mmHgあって運動すると30mmHgまで下がりますが、弁不全があると60mmHg程度までしか下がりません。深部静脈血栓があるとむしろ圧は上昇します。立位のドップラー聴診器を静脈上に当てて音を聴く場合、ミルキングでふくらはぎを揉み押さえると上行する血流音がシューと聞こえます。健常人ではこれだけですが、静脈瘤があるとその後にシューという下行音が聴かれます。
手術で静脈を引っこ抜いたり、硬化療法で閉塞させたりして大丈夫なのですか、との質問がよくあるそうですが、血流量は深部:浅在が9:1 静脈瘤だと13:-3程度になるので浅い血管を潰しても血流の問題はないそうです。(勿論深部静脈の血流が健在であるとの前提が必要ですが)
現在の治療はレーザー療法が主流となり米国では95%がレーザー療法だということです。本邦でも徐々に増えてきています。レーザーも980nmから1470nmさらにラジオ波へと進歩、改良を遂げているそうです。
しかし、ほとんど全ての静脈瘤に必要なのは圧迫療法です。弾力ストッキングを用います。実際に装着してみるとわかりますが、きつくて結構はき難いです。例えば40mmHgのものはきつくて穿けなくても20mmHgのものを2枚重ねて穿くという裏技もあるそうです。それと穿いたままでじっと安静はダメだそうです。飛行機の中で足の屈伸運動をするように動かしてポンプ作用で血液を送り出すことが重要とのことだそうです。
◆皮膚科医がみるSjögren症候群  獨協医科大学 濱崎 洋一郎 先生
涙腺や唾液腺などの外分泌線障害を特徴とする自己免疫疾患で推定有病率は人口10万人あたり55人と膠原病の中では比較的多い疾患です。膠原病の代表ともいえるエリテマトーデスにも匹敵する数です。しかし症状が多彩で不定なために診断がつきにくい疾患でもあります。
男女比は1:17と圧倒的に女性に多いです。皮疹を有する割合は30~40%程度です。皮膚病変は多彩でしもやけ様皮疹、光線過敏症、レイノー症状、薬疹、環状紅斑、高ガンマグロブリン性紫斑、眼瞼炎、虫刺様紅斑、口角炎、乾癬などです。
検査値では抗核抗体、SSA,SSB,RA陽性、γ-gl高値などです。これらで疑ったら眼科でのシルマーテスト、ローズベンガルテストなど低侵襲検査から唾液腺造影、口唇唾液腺生検などへと進みます。
シェーグレン症候群の患者さんから子どもが生まれると新生児LEを生じることがあります。顔面を中心に環状紅斑がみられます。IgG抗体が母体から胎盤を通して移行したもので半年程度で治癒しますが、中に心ブロックを来すことがあり注意を要するとのことでした。
シェーグレン症候群は皮膚病変が多彩なだけに、乾燥症状などをチェックして同症を念頭に置かないと見過ごしてしまい易い疾患と感じました。
◆皮膚科医でも実践できる帯状疱疹関連痛の薬物療法  獨協医科大学 山口 重樹 先生
帯状疱疹は日常診療で毎日のように遭遇するありふれた疾患です。若年者から高齢者までみられます。若い人の帯状疱疹は大体が軽くてすみ、ほとんど痛み止めも要らないくらいの人が多いように感じます。ところが中年以降になるとこれが同じ病気かと疑うくらいに様相が異なってきます。皮疹もひどく、水疱からびらん、潰瘍となってなかなか治らなかったり、皮膚症状は治っても激しい痛みがちっともとれずに、変な感じの痛みに変わってずっと長期間続いたりします。
本講演は後者の痛みの強い患者さんへの対応の仕方についてのものでした。
帯状疱疹で強い痛みの続く傾向のあるケースは、
60歳以上、三叉神経部位、皮疹がひどい時、当初から激しい痛みのある時、アロディニアといって痛みの性質が変化してきた時、免疫不全、抗ウイルス剤等の治療の遅れ、鎮痛治療の遅れなどです。
帯状疱疹関連痛には2種類あって最初は侵害受容性疼痛で、もう一つは神経障害性疼痛でこれが長期に続いてやっかいなものです。心因性、ストレス性疼痛、帯状疱疹後神経痛とも呼ばれるものです。
一般的に痛み治療には1)神経ブロック 2)運動療法 3)薬物療法 などがあります。
先生は麻酔科の医師としてずっと神経ブロックを帯状疱疹の患者に対して行ってきたそうです。注射をすると楽になりました、と患者さんは返っていきます。ところが、2,3日もするとまたブロックに通ってきます。ある患者さんの通院カレンダーを見せて頂きました。きっちり週3回数ヶ月に亘って通ってきていました。そのつど息子さんが車で送り迎えしていました。これでは患者及びその家族のQOLをかなり低くしていることを思い知らされたといいます。
外国で知り合ったドクターのある言葉が身に沁みたといいます。to cure sometimes, to relieve often, to comfort always.これを帯状疱疹の治療になぞらえれば時々神経ブロックで痛みを治し、薬物療法で痛みを軽減させ、常に患者に対し傾聴し、共感することだと思い至ったとのことです。そこから薬物療法の重要性をことに認識されたそうです。
カナダでは帯状疱疹の痛みに対してオピオイド(麻薬)、抗うつ剤、抗痙攣剤が用いられるといいます。消炎鎮痛剤が主流の日本とかなり様相が異なっています。
薬物療法ではアセトアミノフェン(カロナール)、消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)、リリカ、トリプタノール、トラムセット、フェンタニル(デュロテップ)MTパッチなどがあります。
急性期の痛みを経てどのような時に神経障害性疼痛を考えるか、のサインは痛みの質が変わってきて衣服が擦れただけで痛い、冷風だけで痛いというような時(アロディニア)、しびれるような痛み、針でつついたような痛み、火で炙ったような痛み、電気が走るような痛みを訴える時などです。このような際には痛み治療の対策をギアチェンジして考慮する必要があるといいます。
いろいろな疾患や合併症をかかえた高齢者が該当することが多いことを考えると漫然と消炎鎮痛剤を投与し続けるのはまずいそうです。高齢者にはアセトアミノフェン(ちなみにこれは抗炎症作用はないので鎮痛解熱剤といった分類になるそうです。)かトラマドールが良いそうです。トラマドールは末梢から中枢のいろいろな機序の痛みに効くそうです。
ただし、吐き気、便秘などの副作用があります。これも最初の1,2週間なので十分に説明して制吐剤や下剤などを併用し少量から増量していけばほぼ問題なく増量ができるそうです。
高齢者の帯状疱疹後神経痛では痛みが長引き苦労している患者さんもいます。最近使い始めたトラマドールは良さそうな感触です。
これらの薬で長引く痛みがうまくコントロールできれば幸いなことと思いました。