即時型アレルギーupdate

先日浦安皮膚科懇話会で即時型アレルギーの講演がありました。講師は島根大学の千貫祐子先生でした。
千貫先生の講演は面白いと千葉大の先生から聞き及んでいましたので期待していましたが、それ以上でした。
当日の話の内容は1)茶のしずく石鹸、小麦アレルギー 2)花粉・食物アレルギー 3)牛肉アレルギー などでした。
過去に当ブログでも書いていますので内容は大よそ知ってはいましたが、やはり茶のしずく石鹸、牛肉アレルギーの日本での第一人者、発見に携わってきた当人から直接聴いた話は説得力がありました。また卒業後一時休職しながらもまた研究を始めていった紆余曲折の話もなかなか面白いものでした。でも何せ1ヶ月も前の講演なので記憶もあやふやです。アバウトな記述になってすみません。
卒業後医療現場を離れ専業主婦となり東京に移り、子どもとディズニーランドにいきまくったそうです。そのことから千貫先生はディズニーランドで働いていたらしいとの間違ったうわさがたったことさえあったそうです。その後島根に戻り研究を始めたそうですが、中年の開業医の女医さんで、休診日を研究にあて、博士号をとった先生がいて励みになったとのことです。当初は博士号を取るという現実的な目的もあったそうですが、次第に仕事の面白さにはまっていったようです。最初は薬疹の研究に取り組み過去の病歴を調査し、丁度教室が厚生省の班会議のメンバーになったこともあり、期待したそうですが、班員の仕事の指示は若手の男性医師になり一寸がっかり。しかし切替の早いところも彼女の特徴なのか教室の研究テーマでもある食物アレルギーの研究につき進んだそうです。(大学院生と医局長と、時々、オカン(!?)臨床皮膚科 64巻5号pp133(2010年4月)も参照)
広島大学時代から小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis:WDEIA)の抗原解析に興味を持っていたという森田栄伸教授が島根大学転任後、それを主要研究テーマとしたことが「茶のしずく石鹸問題」の発見解明の糸口となったのでしょう。
旧茶のしずく石鹸は2004年3月から2010年9月まで」4650万個の売り上げがあり、466万人もの人が使用したそうです。そして2008年頃から顔面の腫脹を主訴とする患者が報告されるようになってきました。しかし原因が解明されたのは2010年になってからでした。その抗原は通常型のWDEIAがω―5グリアジンおよび高分子グルテニンであるのに対し、加水分解小麦型WDEIAでは旧「茶のしずく石鹸」中の加水分解小麦(グルパール19S)に含まれる幅広い分子でした。その詳細は以前に書きましたので割愛しますが、(「茶のしずく石鹸」小麦アレルギー 2012.10.7)幸いなことに製品の回収、使用中止後このタイプのアレルギー反応は徐々に低下していく傾向にあるということです。

花粉食物アレルギー(pollen-food allergy syndrome:PFAS)
口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)は口腔咽頭粘膜の局所症状に始まって全身症状に発展しうるIgE介在型食物アレルギーとされ、花粉感作が先行し、交叉抗原性によって野菜・果物などでOAS症状が出現するものをPFASと呼びます。
OASとPFASは大半はオーバーラップします。
食物アレルギーで乳児期または幼児期に発症し徐々に寛解していくものをクラス1食物アレルギーと呼び、学童期または成人になってから発症するPFASはクラス2食物アレルギーに分類されます。
多くのPFASの抗原は熱や消化酵素に不安定でクラス1型と比べるとアナフィラキシーなど重篤な例は少ないとされますが、ほとんど自然寛解は望めないとのことです。
OASについても過去のブログでふれましたので参照してみて下さい。(食物による口腔アレルギー症候群 2012.9.17)
日常診療の現場でも結構多くの患者さんをみますが、何がダメか知りたい人が多いです。
アレルギー診断の専門会社であるファディア株式会社のホームページで検索すると花粉と果物・野菜のアレルギー関連の表が季節・分布地域との関連も含めてみることができるそうです。これは花粉症があり、あるいはOASで花粉症との関連に気付いていない人が調べるのに非常に便利だと思いました。(ファディア OAS で検索すると表が出てきます。)
OASで当日特に注意を喚起されたのが豆乳アレルギーでした。大豆は日本人に欠かせない食材ですが、そのアレルギーにはそれを食べたことによって発症するクラス1のケースと主にカバノキ科(シラカンバ、ハンノキなど)の花粉症の患者が豆乳を食べて発症するクラス2型があります。近年花粉症の患者の増加によって特に成人女性のPFASの発症が増えているとのことです。豆乳はダメでも豆腐などの大豆加工食品や納豆、味噌、醤油などは大丈夫だそうです。加工の程度が低い豆乳のアレルゲン蛋白Gly m4や大豆の蛋白Gly m5,m6とカバノキに含まれるアレルゲン蛋白PR10が交叉反応をおこしアレルギーを起こします。Gly m4は発酵や加熱で活性を失うので加工程度の低い豆乳がアレルギーを起こしやすいそうです。
花粉のPR10に似た抗原は大豆以外にもリンゴ、モモ、サクランボ、ナシ、ビワなどのバラ科の果物にも含まれているのでこれらでも交叉アレルギーを発症する危険性があるとのことです。ただし大豆のIgEアレルギー検査では陰性になり易く、花粉の検査、プリックテストなどで陽性に出やすいとのことです。

セツキシマブと牛肉アレルギー
これも以前に当ブログで取り上げました。(セツキシマブと牛肉アレルギー 2015.4.6)
牛肉アレルギーは時にみられますが、牛肉、豚肉にアレルギーのある患者さんで、子持ちカレーの煮つけを食べた後アナフィラキシーショックをおこしたケースの紹介がありました。鶏肉、数の子、子を持たないカレーでは症状はでませんでした。カレーのIgE検査では陰性、プリックテスト、ウエスタンブロット法では陽性でした。種の違う生物間で交叉反応をおこしたり、血液検査では陰性だったり、なかなか難しいことだと思いました。
セツキシマブのアナフィラキシーが米国東南部で多いことは、2008年に報告され、その原因がセツキシマブのFab部分のα-galに対する抗糖鎖IgE抗体によることがわかり、さらに牛肉アレルギーの抗原もα-galであること、両者のアレルギーが発生する地域が重なっていることなどがわかってきました。また2011年には糖鎖α-galに対するIgE抗体産生の誘因はマダニ咬傷と関連すると報告されました。これらの情報より島根大学ではセツキシマブでショックをおこした患者さんについて調査を行い、α-gal特異的IgE、セツキシマブ特異的IgE(ウエスタンブロット法)が全例陽性であることを確認しました。これらのことよりセツキシマブ投与前の患者さんに検査を行い、陽性例では使用を禁止としたところショックの事例が有意に減少して効果があることがわかりました。また、島根県において日本紅斑熱を媒介するフタトゲマダニの生息域と牛肉、セツキシマブアレルギー患者さんの居住域が重なっていることも確認、マダニを検査したところマダニ唾液腺中にα-galを検出したそうです。
これらの結果からセツキシマブ使用の際は事前の検査チェックをするように厚労省に働きかけたそうですが、やっと認可されたのが、アナフィラキシーショック死亡例がでてからだったそうです。
このタイプのアレルギーは糖鎖抗原に関係するので血液型も関係するとのことでした。B型抗原を持つ人は起こしにくいのでB型、AB型の人は起こしにくいとか。

当日は最初にFDEIA(food-dependent exercise-induced anaphylaxis)食物依存性運動誘発アナフィラキシーの顔面の腫れた女性のスライドから始まりました。その答えは最後にありました。何とゴボウによるもので、そのきっかけは秋の花粉症の原因となるヨモギでした。ゴボウはキク科の多年草でヨモギもまたキク科ヨモギ属に属する植物だそうです。思いがけない交差反応もあるものだと思いました。

食物アレルギーの交差反応は思いもかけないものがあります。ダイバーやサーファーに納豆アレルギーの人が多いとの報告もあります。嘘だろうと思いましたが、クラゲの成分と交差する抗原が納豆にあるそうです(ネバネバ成分のポリガンマグルタミン酸)。
牛肉と魚卵なども思いもつきません。食物アレルギーの難しさ、奥深さをかいまみたような1日でした。
丁度日本皮膚アレルギー接触皮膚炎学会も島根大学主催で出雲であり、そのアナウンスもされていましたが、出席出来ず残念でした。プログラムだけみましたが結構いろんな珍しいアレルギーの報告がありました。