虫による皮膚疾患(13)毛虫・毒蛾皮膚炎

いわゆる毛虫、毒蛾などによる皮膚炎は以下の種々のものがありますが、一般によくみられるものは、チャドクガの幼虫による毛虫皮膚炎、イラガによる皮膚炎などがあります。これを中心にして述べてみたいと思います。
【主な有毒鱗翅類】
羽に鱗粉を持つ昆虫(鱗翅類)にはチョウとガがあります。日本ではチョウは約300種類、ガは5000種類があるそうです。幼虫には毛を持つもの(毛虫)と毛のないもの(芋虫)があります。これらの中で毒をもつものはごく一部で約50種類といわれています。有毒毛には毒針毛と毒棘があり、有毒毛はドクガ類、カレハガ類が、毒棘はイラガ類、カレハガ類がもっています。
本邦でのその概要を下記に記します。
<毒針毛>・・・・・・種名・・・・・・・・・・・・・・・・・毒毛を有する時期
ドクガ、チャドクガ、モンシロドクガ…………..成虫、卵、幼虫、繭
マツカレハ、ヤマダカレハ…………………..成虫、繭
アオイラガ、ヒロヘリアオイラガ………………終齢幼虫、繭
<毒棘>
イラガ、アオイラガ、ヒロヘリアオイラガ……….幼虫
タケノホソクロバ、ウメスカシクロバ…………..幼虫
【チャドクガ】
チャドクガは茶の害虫として有名で本州以南に分布し、幼虫は椿、山茶花、茶などのツバキ科の植物の葉を食べます。
チャドクガは卵で越冬し、4,5月に孵化した幼虫は5,6月に椿や山茶花の葉を食べて成長します。若齢幼虫は群生しますが、終齢幼虫は分散します。約25mmになります。若虫は毒針毛を持っていませんが、齢を重ねるごとに増え終齢幼虫では約50万本もの多さになります。肉眼でみられる長い毛には毒はありません。幼虫の黒い隆起部に毒針毛が群生しています。それは長さ約0.1~0.2mmの釘状の毛で表面には微小な棘があります。幼虫は木を揺するだけでも落ちてきます。また枝や葉に残っている脱皮殻の毒針毛は風によっても飛ばされてきます。幼虫自ら毒針毛を飛ばすかどうか、夏秋先生の実験ではその証拠はなかったとのことです。卵塊にも毒針毛を被せ持っているのでそれに触れても被害を蒙ります。
終齢幼虫は木の根や落葉の下などで繭を作り、蛹になります。第1回目の成虫は毒蛾となって6~7月頃に出現します。そして葉の裏などに産卵します。雌の成虫の尾端部分には毒針毛があるのでこれによって被害を蒙ることもあります。
8~9月には第2回目の幼虫が現れます。繭を作って10月頃に第2回目の成虫が現れます。交尾して
生まれた卵は越冬します。このサイクルは気温などの気候の変動によって年毎に時期が若干ずれます。
<臨床症状>
毒液中にはエステラーゼやホスポリパーゼなどの酵素類が含まれており、そのアレルギー反応によって皮膚炎が生じるものと思われます。症状の現れ方には個人差があり、また感作状況によっても大きく変わってきます。すなわち、触れるとすぐに(15分後に)膨疹・蕁麻疹のでる人(即時型反応)、24~48時間後に紅斑、紅色丘疹のでる人(遅延型反応)、両方の出る人、全く反応のない人に分かれるそうです。(夏秋先生のボランティアを使った実験による。)毒液の成分に対する感作が成立しているかどうかによって反応が分かれるということです。
実地医療の現場で毛虫に触れてもすぐには気づかず、翌日以降になって発疹がでるケースが多いのは毒液成分に対して遅延型反応が成立している人が多いためと考えられています。
通常、庭仕事や公園の植え込みなどの仕事の際に毛虫に触れて被害を蒙るケースが多いですが、風にのって粉が飛んできたり、成虫の蛾の粉に触れて発症するケースもあります。
主に露出部の頚、上肢などに痒みを伴う紅色丘疹が多発しますが、引っ掻くことで更に毒針毛が撒き散らされ範囲が拡大します。
<治療>
強いランクのステロイド外用剤を塗布します。また痒みに対しては抗ヒスタミン剤を内服します。おおむね1~2週間で軽快します。
<予防>
卵塊や毛虫をみつけたら、ビニール袋などを被せて枝ごと取り除くのがよいです。毛虫に噴霧するとアクリル樹脂が表面に固着して、毒針毛を散乱させない固着剤もあるそうです。ただ、駆除の際に被害にあうことも多いので専門家に頼むのも良い方法です。自分でやる際にはしっかりした雨具などを使用します。服に粉がついた場合は1回の選択だけでは落ちないこともあるので注意が必要です。皮膚付着直後はテロテープ、ガムテープなどで粉をある程度除去することは可能です。そして石鹸をよく泡立てて、シャワーで洗い流します。
【その他の毒蛾】
《ドクガ》
日本全国に広く分布しています。成虫は年1回6~8月頃に出現します。終齢幼虫は30~40mmにもなります。黒と橙色の縦じま模様で背面に毒針毛の束を密生しています。毒針毛は終齢幼虫では500~600万本にも達するといいます。雌の成虫は毒針毛を持っていて夜間に灯火に飛来するので、これで被害にあうこともあります。チャドクガと異なり、雑食性でバラ科、ブナ科など種々の植物の葉を食べます。サクラ、カキノキや野外ではイタドリ、ハマナスの葉も良く食べます。
《モンシロドクガ》
日本全国に広く分布します。成虫は年2,3回6~10月頃に出現します。幼虫は25~30mmになりますが、寒地では黒色型(黒色に橙色の帯を持つ)に、暖地では黄色型をしています。サクラ、リンゴ、ウメ、クリ、クヌギなどの葉を食べますが、黄色型はクワノキンケムシとも呼ばれ、クワを食べます。成虫は白色で前翅に黒点があります。
《マツカレハ》
日本全国に広く分布します。但し、奄美、沖縄に生息するものは別種とされています。成虫は年1回6,7月に出現します。幼虫はクロマツ、アカマツ、ヒマラヤスギの葉を食べます。それで別名マツケムシとも呼ばれています。幼虫は幹を降りて根元の落葉の下などで越冬しますが、翌年幹を登って70mmにも成長します。6月頃には繭を作ります。繭の表面にも毒針毛が付着していて被害にあいます。有毒毛は幼虫の頭部に近い胸部の黒い部分に付着しています。長さ0.5~1mm程の黒い針状のもので肉眼でも確認できます。成虫には有毒毛はありません。
【イラガ】
日本では17種類があり、全ての幼虫に鋭い毒棘があります。刺されると瞬間的にヒスタミンや発痛物質を含んだ毒液が皮膚に注入されて、激しい痛みを生じます。なおアオイラガ類の幼虫や繭には毒針毛も同時に有しているので、ドクガ型の皮膚炎も生じます。これに対しイラガ類の成虫は無害です。
イラガはほぼ全国に分布しており、幼虫は7~10月にみられ、カキノキ、サクラ、ナシ、クリ、カエデなどの葉を食べます。終齢幼虫は25mm程です。体は幅広く、黄緑色で、背面に褐色の斑紋を有します。柱状に突出している肉質突起には鋭い毒棘があり、葉の裏などにいて、気づかずに触ると電撃痛が走ります。膨疹、紅斑を生じますが多くは1時間以内に消失します。人によっては翌日から痒みを伴う紅斑を生じます。2~3日後にピークを迎えますが、毒液に対する遅延型アレルギー反応と考えられています。
イラガは近年は減少して、西日本では外来種であるヒロヘリアオイラガの方が多いそうです。これは市街地の公園、団地の庭、学校の校庭、街路樹などで大発生することがあるそうです。体長は約25mmで体は幅広く、鮮やかな黄色で背面に青色の縦線とその側面に黒点が並んでいるのが特徴です。サボテンのような多数の毒棘を有しています。
ヒロヘリアオイラガの成虫の前翅には褐色の幅広い縁取りがあります。それで「ヒロヘリ・・・」と呼称されるそうです。
刺されたあと、痛みが強ければ保冷剤などで冷やします。もし、翌日以降に紅斑、腫脹があれば強めのステロイド外用剤を塗布します。その際イラガの存在に気が付かないと蜂窩織炎などと間違いやすいですが、発熱、自発痛、圧痛はありません。

参考文献

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎  皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策  夏秋 優 著  秀潤社 2013

ケムシ2 チャドクガ幼虫による毛虫皮膚炎

ケムシ3

ケムシ4

イラガ1 イラガ毒棘による皮膚炎

イラガ2

イラガ 下記イラガによる皮膚炎

イラガ2 ヒロヘリアオイラガ