今年のノーベル賞

今年もまた 日本人がノーベル賞を受賞しました。毎年のようにとってすごいなと思いつつ、また必ずしも下馬評通りにはならないのだと思いました。ノーベル賞なんか雲の上の世界の話ですが、今年のノーベル賞は皮膚科にも関係があって、興味をひかれました。大村博士のイベルメクチンはアフリカの風土病ともいわれるオンコセルカ症(河川盲目症)の特効薬で多くの人を失明から救ったとありました。実は国内でこの薬の一番のお世話になっているのが皮膚科医です。勿論国内でオンコセルカ症などいません。一寸前にブログにも書いた疥癬の特効薬でもあるのです。この薬が使える以前はγBHC(リンデン)などを使っていましたが、人体には有毒です。効果はあったものの仕方なく使っていたものでした。イベルメクチンも当初は疥癬に適用が なく、糞線虫の薬だったと記憶しています。疥癬に保険が適応になったのはつい十数年前のことです。イベルメクチン(ストロメクトール)たった1,2回で虫を死滅させることができ、本当に皮膚科医も患者さんも楽になり恩恵を被っています。これが日本人の発見による薬とは恥ずかしながら知らずに使っていました(でもよくある事ですが、日本人が発明しても開発の段階でなぜか外国に持って行かれる)。
ここのところ、虫による皮膚疾患をアップしています。国内でもいろんな疾患がありますが、世界に目をむけるとまた見た事もないような疾患が熱帯地方を中心にいっぱいあるそうです。このなかで患者数が多くて、人体にも重篤な影響を与える虫の病気といえば、マラリア、リーシュマニア、デング、オンコセルカなどではないでしょうか。今年はこの中で、マラリア、オンコセルカ治療薬に賞が与えられました。これらの病気など日本人にはあまり縁はなさそうですが、かつて中東帰りの男性のリーシュマニア症を経験したことがあります。デング熱はいまや誰でも(すくなくとも名前は)知っています。
海外渡航が普通になって日本人が世界中何処でもいく時代になっています。ということはこれらの病気とも無関係ではないということでもあります。
ノーベル化学賞は、DNA修復に関するものでした。こちらも皮膚科と関係があります。今回の受賞の詳細は知らずにいうのもおこがましい事かも知れませんが、人のDNA修復機構や紫外線発癌の分子機構研究が進んだのは1968年にCleaverが色素性乾皮症の患者さんで紫外線によるDNAの除去修復が欠損しているのを発見してからかと思います。それ以前にも大腸菌によるDNA修復機構の研究の下地がありました。
人は紫外線や放射線や様々な化学物質などによって、DNAにダメージを受けていますが、それを修復する能力があります。しかしその能力を超えたダメージが細胞に働いたり、その能力を欠いていると細胞死に至ったり、発癌に至ったりします。色素性乾皮症の患者さんは 自ら紫外線発癌をきたすことで、ヒトのDNA発癌、修復機構の解明に大きく寄与してきました。
色素性乾皮症は本邦では数万人に1人の割合でみられます。乳児期から激しい日焼けを起こし、顔にそばかす様の色素斑を生じます。皮膚は乾燥、粗造化し、色素斑、脱色素斑、毛細血管拡張が混じりあった皮膚になります。そこに通常よりも30~50年も早くさまざまな皮膚癌が発症してきます。結膜充血、角膜炎などの眼症状を呈します。30%の人に進行性の中枢性、末梢性の神経症状を起こしてきます。
不定期DNA合成(unscheduled DNA synthesis: UDS)の能力によってA~G群、Variant群に分けられます。近年はその責任遺伝子も同定されています。
この他に、DNA修復異常を示す皮膚症状を呈する疾患はいくつかあります。
色素性乾皮症の類縁のCockayne 症候群、Bloom 症候群、Rothmund-Thomson 症候群、毛細血管拡張性失調症、Werner症候群などがあり、これらの疾患はDNAの不安定を示します。
臨床皮膚科医としては、今回ノーベル賞を受賞した3氏のDNA修復機序の詳細な内容や上記の疾患のDNA異常を正確には知りもしませんが、このような基礎的な発見が皮膚疾患の病態の解明にも役立っているきたのだなーと興味をひかれました。