虫による皮膚疾患(9)シラミ症

シラミ症にはアタマジラミ、コロモジラミ、ケジラミがあります。
前2者は形態的に区別がつかず、体長2~4mmの細長い形をしていますが、ケジラミは体長約1mmで幅広く蟹のような形態で主に陰毛にみられ性感染症(STI)としての側面があり、これらを混同しないようにする必要性があります。
【アタマジラミ】head louse (複数形はliceになり、rice 米と間違わないように)
被髪頭部特に後頭部や耳後部に卵を産み付け痒みを生じてきます。患者は幼小児、学童に多くみられます。但し感染から痒みなどの症状がでるまで1ヶ月以上と長くかかります。卵は乳白色で長さが0.5~1.0mm程度の楕円形をしていて、根元がセメント様物質で毛髪に固着しています。一見フケが付着しているかのようにみえますが、虫眼鏡等で仔細にみると卵形をしているのがわかります。抜け殻であっても固着していますので梳き櫛で取ったり、ハサミで取り除かないとずっと残っていることになり、治らないと勘違いすることにもなります。
卵と紛らわしいのがhair castで毛を取り巻くケラチンたんぱく質ですが、白く卵様にもみえます。ただ、これはざらざらして丸くなく、鞘状で指で挟んで引っ張ると容易に毛から抜けます。卵は固着して動きません。卵の多い部分の髪の毛を掻き分けると成虫がちょろちょろと動いてみえることもあります。
虫卵は7~10日で孵化し、約3週間で成虫になります。成虫の寿命は約3~4週間です。成虫は体色は灰色で体長は雌が3~4mm、雄が2mm背腹に扁平ですが、吸血すると赤褐色ないし暗褐色となります。翅はなく、脚は3対でよく発達しており先端に爪がありすばしこく動きます。頭髪に寄生します。
【コロモジラミ】body louse
形態的にはアタマジラミと区別できませんが、生態的に亜種に区別され、こちらは下着など衣類の縫い目に生息します。近年はあまりみられませんが、ときに不衛生な人、ホームレスなどの人にみられるとされます。生息部位近くから吸血するので頚、腰腹部などに痒みのある紅色丘疹、紅斑などを生じます。他の虫刺されと同様に最初はごく軽い症状で、刺咬が続くと1週間後に蕁麻疹、紅斑、丘疹を生じ激しい痒みがでてきます。しかし次第に症状は軽減していき、寄生数、期間が大だと瀰慢性の色素沈着主体の変化に移行していきます(melanodermia phthiriatica pediculis)、浮浪者病。
【ケジラミ】pubic louse, crab louse
英語でcrab louseと呼ばれるように蟹に似た形をしています。体長は0.8~1.2mm頭部は小さく体は幅広く、前脚は細いが、中脚と後脚は発達しています。卵は約7日間で孵化し、13~18日で成虫になります。成虫の寿命は約22日でヒトジラミより短いとされます。虫体は陰毛を両側の爪でつかみ皮膚に頭をつけほとんど動かないので一見褐色の痂皮のようにみえます。口器を皮膚に差し込んだまま間歇的に吸血します。まれに下腹部や大腿部に0.5~1.5cmの青灰色の斑(maculae caeruleae)を生じたり、吸血時の出血やシラミの排泄物で下着に赤さび色の点状のシミがみられます。
多くは性感染症として生じるので陰毛部に寄生しますが、ときには腋窩や体の短毛、睫毛、眉毛にも寄生します。幼小児や女性では頭髪に寄生することもあります。このような場合では家族内感染の可能性が大であり、両親の受診も勧めます。
【疫学】
戦後は衛生状態も改善し、有効な殺虫剤が開発されたこともあって、本邦のシラミ症は激減しました。しかし、1970年代にケジラミ症が、1980年代にアタマジラミ症が増え始めました。
1971年にDDT,BHCが毒性のために禁止されたこと、海外から持ち込まれたことなどによるとされます。近年ホームレスの間でのコロモジラミの流行がみられるということです。コロモジラミは発疹チフス、塹壕熱などの感染症を媒介するとされますが、アタマジラミ、ケジラミが媒介する疾患はありません。
【治療】
成虫と虫卵の除去が必須です。
ピレスロイド系殺虫剤である0.4%スミスリンパウダーやシャンプーが市販されています。これは虫卵には効果がありませんので、1週間で卵が孵化することを考慮して2~3日おきに3~4回繰り返して使用します。1回の使用時間はパウダーが1時間、シャンプーは5分間十分外用した後で洗い流します。用法どおりに使用しても治癒しない場合には殺虫剤に対する耐性も考慮する必要があります。近年はピレスロイド系殺虫剤に耐性を有するシラミが数%みられ、年々増加してきているとのことです。いずれはより高濃度の殺虫剤や他系統の薬剤が必要になることも危惧されます。
シラミの成虫、虫卵は55度以上10分間の処置で死滅するので、アタマジラミには頭周りのタオルやシーツなどの熱湯消毒やアイロン掛けが有効です。コロモジラミでは下着などの衣服類を殺菌、熱湯消毒します。
散髪や剃毛も有効ですが、実際問題では無理がありますし、完璧とはいえません。
【生活指導】
アタマジラミは幼稚園や小学校などで集団発生が起きやすいので、感染拡大防止に努めることが必要です。その際に顕在化した罹患者だけを登校停止にするのは適切ではありません。まだ顕在化していない罹患者を見逃していることもあり得ます。出席停止はむしろある個人のみの不当な差別に繋がることもあります。アタマジラミは「学校伝染病第三種(その他)」であるために出席停止は不必要です。それよりも感染集団で一斉に検診、一斉に治療することが肝要です。
また感染防止のために頭をくっつけたりして遊ばない、櫛、帽子、タオルなどの共用を避ける、などの注意が必要です。
落ちた毛は電気掃除機で丹念に掃除することも必要です。

参考文献

皮膚疾患をおこす虫と海生動物の図鑑 第22巻・増刊号・2000
大滝 倫子: 虫による皮膚疾患ー治療のポイント pp26-33
大滝 倫子、篠永 哲: 皮膚疾患をおこす寄生虫 pp50-111