虫による皮膚疾患(7)ダニ

ダニ類は節足動物部門のクモ網ダニ目に属し、その種類、数は極めて多いです。その同定は医動物、虫の専門家でないと難しいですが概略を述べてみます。 
節足動物は、昆虫類、クモ類、甲殻類、多足類(ムカデ、ヤスデ、団子虫など)に分けられます。
クモ類は体が頭胸部、腹部の2つに分かれ、8本の足が頭胸部から出ます。
ダニ類は卵から幼虫、若虫、成虫へと脱皮を繰り返し、幼虫は3対、若虫、成虫は4対の脚(歩脚)を持ちます。
ダニは世界中に生存しその種類は膨大な数にのぼりますが、人に害を及ぼすものの代表的なものには下記のものがあります。
分類は専門書を参照して下さい。
ダニ目は主に気管系の状態によって7つの亜目に分類されますが人体に害を及ぼすものは以下のものなどです。
【ダニ分類】
無気門亜目
コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニ、ヒゼンダニ
ほとんどのものが雑食性で室内塵や食品中などに生息しアレルギーなどの問題となります。ヒゼンダニは人に寄生し人から人へ伝播するので問題になります。
前気門亜目
ミナミツメダニ、シラミダニ、ホコリダニ、ツツガムシ
捕食性のものが多いです。動物寄生性のものは多くはありませんが、ツツガムシは脊椎動物から刺咬します。
中気門亜目
森林中で自由生活するものもありますが、各種の小動物に寄生するものもあります。
イエダニ、トリサシダニ
後気門亜目
マダニ類

上記のうち、ダニ刺症の原因となるツメダニ、イエダニ、トリサシダニ、シラミダニなどを中心に述べてみます。
チリダニはアトピー性皮膚炎などでアレルギーの問題になりますし、コナダニはお好み焼きの粉などで繁殖し食品アレルギーの原因として重要ですが、ここでは簡単にしか触れません。これらは普通は人を刺しませんのでダニ刺症の原因と誤解しないようにして下さい。
マダニ、ツツガムシも既に述べましたので割愛します。ヒゼンダニは別項で述べたいと思います。
主なダニ                                  構成比
(チリダニ科)コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ               80~90%
(イエササラダニ科)イエササラダニ                      10~15%
(ツメダニ科)ミナミツメダニ、クワガタツメダニ                4~5%
(コナダニ科)ケナガコナダニ                         1~2%
(ニクダニ科)イエニクダニ                          0.5~2%
(ホコリダニ科)ナミホコリダニ                        1.5%

【ダニによる人体被害】
◆ダニによるアナフィラキシー
近年、お好み焼き粉やたこ焼き粉などの小麦含有食品内で増殖したダニによるアレルギー、アナフィラキシーが問題になっています。海外では1993年以降”pan-cake syndrome”の名で報告されています。小麦粉単体でのダニ増殖の報告はありません。お好み焼き、たこ焼きなどでは風味付けに鰹節主体の動物アミノ酸を含んでいて、ダニの繁殖に好条件であるためと考えられます。いったん開封したものを保存する際には室温に置かない、密封するなどの細心の注意が必要といえます。特に気管支喘息、鼻炎などのアレルギー歴を持つ人に多く発症しているようです。報告例ではコナヒョウヒダにが最も多く、ケナガコナダニもあります。
◆ダニアレルギーとアトピー性皮膚炎
室内塵中に生息するチリダニ科のヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニに対する特異的アレルギー反応が注目されています。WHO/IUISによるとダニアレルゲンは合計23種登録されていますが、重要なものは Der p1/Der f1と Der p2/Der f2の2種類です。前者は分子量25000でシステインプロテアーゼ活性をもちダニの、後者は分子量14000でダニの中体に多く含まれ、ライソゾームに属しています。 ダニアレルギーとアトピー性皮膚炎との関連については肯定的な意見と否定的な意見があります。
肯定的とする根拠として、ダニ特異的IgEが高い、パッチテストで湿疹がでる、皮疹部のTリンパ球がダニアレルゲンを認識する。 否定的根拠として、ダニ除去でも皮疹の改善がみられない、パッチテストで陰性の患者もみられ、コントロール群と有意差がみられない、ダニの少ない地域でもアトピー性皮膚炎が多くみられる、などがあります。
◆イエダニ刺症
人体から吸血して被害を及ぼすダニとしてはイエダニ属のイエダニ、トリサシダニ、ワクモ属のワクモ、スズメサシダニが問題になります。皮疹は個人差、ダニの数などによって大きさ、数などが異なってきますので、皮疹の形状だけではダニを特定することはできません。
【住処】
イエダニは体長約0.7mmで主にドブネズミに寄生しています。ネズミが移動あるいは死亡していなくなると、餌を求めて床下や天井裏などのネズミの巣から出てきて人を襲います。一戸建ての古い家や長屋などが多いですが、倉庫や食堂、学校などでもネズミがいれば被害にあうこともあります。被害は6~9月が多いですが、冬場でも発生します。冬のダニ刺症はイエダニが多いといいます。近年は商業地域の飲食店の残飯を餌として、ビルなど暖かいことによってネズミが増え、排水管などを通って室内にも侵入することが問題となっています。
【皮膚症状】
夜間就寝中に室内に侵入して、寝具の中にもぐりこんで衣服に覆われた皮膚の柔らかい部分を刺します。下腹部や腋の下、腰部、大腿内側などが好発部位です。それで俗に「エロダニ」とも呼ばれるそうです。多くの場合はダニ由来の唾液腺物質に対する遅延型アレルギーの形で出現しますので、指されて1,2日後に皮疹がでます。激しい痒みを伴う個々の大きさが揃った小豆大から大豆大の紅色丘疹が散在します。皮疹の中央に小出血点をみます。個人差が大きく1mm~数cmの紅斑、丘疹、小水疱を形成するなど多様です。幼少児は一般的に成人より反応が強くでます。同時に多発しますが、原因となるダニが根絶できないと新旧入り混じった様々な皮疹となります。
同じ部屋に寝ていても、皮疹に多寡があるのは、体質の違いと、寝ている場所がイエダニの侵入経路に近いか、遠いかなども関係するとされます。
【治療】
皮疹の形態、分布状況より推定されます。何よりも重要な点はネズミの巣を除去することです。皮疹はステロイド外用剤、抗ヒスタミン剤などで対応します。イエダニの発生源は室外であるために室内の燻煙型殺虫剤は効果を発揮しません。
もし、使用するときはゴキブリ用エアゾールを床、壁、天井の隙間などに撒く必要があります。
◆鳥ダニ刺症
トリサシダニ、ワクモ、スズメサシダニ
野鳥に寄生し吸血しますが、人からも吸血します。鳥が屋根裏、軒先、戸袋などに巣を作り、雛が飛び立つ5,6月頃に被害が集中します。ワクモはニワトリの他飼い鳥、人家に巣を作る野鳥などにもみられます。野鳥のなかでもムクドリは日本中に繁殖し、わずか数時間で戸袋に巣を作るなど迷惑鳥で、鳥ダニの原因にもなります。
皮膚症状はイエダニとほぼ同様ですので、季節、鳥の巣の有無などで診断します。治療、対応もイエダニとほぼ同様です。
◆ツメダニ刺症
ツメダニは吸血はしませんが人を刺します。7~9月に多く発生します。新築5年未満の家屋の畳やウール絨毯に生息し、コナダニ、チリダニなどを餌にしています。積極的には人は襲いませんが、時に人を襲い、紅色丘疹を生じます。遅延型アレルギー反応で生じますので、刺されてから1,2日後に皮疹を生じます。
人に被害を与えるのはフトツメダニ(クワガタツメダニ)、ミナミツメダニなどです。体長は0.5~0.8mm。夏の高温、多湿環境の室内でコナダニ類が大発生するとツメダニ類も増加し、人を刺します。予防としては、部屋を乾燥させ、コナダニ類を増やさないように十分な清掃を行う、絨毯など敷物を除去するなどが重要です。燻煙剤は一定の効果はありますが、畳の内部、部屋の隅々までは行き渡らないことも多く、効果は明確ではありません。
◆シラミダニ刺症
シラミダニは雌が0.22mm,雄が0.16mmで6~9月に繁殖して害を及ぼします。もみ米などに発生します。貯蔵食物や貯蔵穀物類に発生する昆虫類に寄生します。これらの上に衣類などを置かない事です。バクガ、コクゾウ、カマキリなどが宿主となるそうです。本邦では蚕の害虫として有名です。刺されて数時間で痒みを生じ、毒蛾皮膚炎や毛虫皮膚炎と同様の紅斑、蕁麻疹で始まり、紅色丘疹、膿胞へと変化していきます。刺されたぶうbんが多いと発熱、嘔吐、頭痛、リンパ節腫脹などを来すこともあります。治療ではステロイド外用剤を塗布しますが、発生源の徐去が重要です。シラミダニは天日干し2時間で死ぬのでそれが最も実用的です。
◆ニキビダニ症
前気門亜目、ニキビダニ科のダニで体長は0.3っm体幅は0..5mm程です。ヒト固有種で、顔面の毛包脂腺開口部より浅い部分に寄生しています。胴長で棍棒状で、脚は短いです。これは皮膚毛包虫症ともよびます。ニキビダニは常在性寄生ダニですが、皮脂腺の発達した部位などでは過剰に増えて症状を呈し、悪さをします。症状は多彩で、ざ瘡型、酒さ型、混合型、湿疹型、眼瞼炎型、疥癬型、毛瘡型、水疱型、膿痂疹型に分けられます。ただし9割以上をざ瘡型が占めています。毛包一致性の小紅斑、丘疹のなかに膿点を見るのが特徴とされます。中高年の女性に多くみられます。治療は疥癬の治療薬と同様に、殺ダニ作用のある薬剤を使用します。硫黄カンフルローションなどの硫黄剤、クロタミトン(オイラックス)、自家製剤の安息香酸ベンジルなどを塗布します。欧米などではイベルメクチンローションなども使用されているようです。いずれも使用に際しては皮膚の刺激症状に注意が必要です。

参考文献

夏秋 優 Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎をおこす虫とその生態/臨床像・治療・対策 秀潤社 2013

特集 虫と皮膚病 皮膚病診療  Vol.19 No5 1997

皮膚疾患をおこす虫と海生動物の図鑑 皮膚病診療 第22巻・増刊号 2000

皮膚科診療カラーアトラス体系 編集/鈴木啓之・神埼 保 
5 性感染症(STD) スピロヘータ感染症など 動物性疾患 膠原病と類症 結合組織・脂肪組織疾患 講談社 2010

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伊勢美咲 ほか. 小麦粉含有製品内で増殖したダニによるアナフィラキシーの3例.臨床皮膚科 69:19-24,2015