虫による皮膚疾患(4)ツツガムシ病

ツツガムシ病はリケッチャの一種であるOrientia tsutsugamushi がダニの一種であるツツガムシに媒介されて起こる感染症です。
【ツツガムシとは】
ダニ目ケダニ上科に属する非常に小さなダニでケダニともよばれます。卵からかえった幼虫は体長0.2~0.3mmで多くは野ねずみなどに吸着します。幼虫は一生に一度だけ温血動物から栄養を吸い取らないとその後成長を続けることができません。人が吸着されるのは、たまたま野ねずみなどに吸着できなかった幼虫による場合のみです。人がツツガムシ病に罹るのは吸着した幼虫が親譲りの病原体を持っていた場合ですが、その頻度は全体の0.1~2%程度とされます。一度吸着した幼虫は二度と温血動物に吸着することはなく、また成虫(体長約1.5mm)も吸着することはありません。
日本には多くの種類のツツガムシがいますが、病原体となるものはアカツツガムシ、フトゲツツガムシ、タテツツガムシの3種です。アカツツガムシは秋田県雄物川、山形県最上川、新潟県信濃川、阿賀野川などの流域の河川敷に生息し、昔から有名で夏に多く、古典的ツツガムシ病を媒介します。
1948年に富士山麓で演習中の米軍兵士が熱病で倒れ、検査の結果タテツツガムシ媒介によるツツガムシ病とわかり、アカツツガムシ以外でも発症することがわかり新型ツツガムシ病と呼ばれるようになりました。フトゲツツガムシは北海道の南半分以南沖縄を除く全国に生息し、春と秋に発生します。タテツツガムシは東北中部から西南日本を中心に伊豆諸島にも生息しており、秋の発生が多いです。後者では草原、耕作地、日当たりの良い果樹園、潅木地帯などでもみられます。ツツガムシの幼虫は気温が10度以下になると活動できなくなるため土の中で越冬し春になると活動し始めます。
ツツガムシ病は日本の風土病のように思われがちですが、韓国、東南アジア、南太平洋、オーストラリアなどでも発症があります。
特に韓国での報告は多く、2006年には6420人の患者が報告されました。日本では未報告例を含めれば毎年1000人以上の発症があると考えられています。
近年はアカツツガムシによる古典型の報告はみられなくなりましたが、秋田などで残存している可能性はありなお注意は必要です。
【伝染経路】
幼虫は温血動物が発する炭酸ガスを頼りに地面に出て、人が地面に腰を下ろしたり、寝そべったりすると偶発的に人に取り付きます。衣服の間から1分間に3~4cmの速さで移動して皮膚の柔らかいところに吸着します。虫の好む部位は陰部、内股、脇の下、胸の下、下腹部などの湿って柔らかい部位ですが、幼児では被髪頭部などにも取り付きます。
【吸着から発症まで】
吸着したツツガムシはクチバシから唾液を出し入れしながら数時間かけて人の体液を吸います。蚊やマダニと違って吸血はしません。病原体が人の体内に入るためには6時間以上かかります。アカツツガムシでは吸着部を逆撫でしたり衣服で擦れるとチカッとした痛みを感じることがありますが、それ以外では自覚症状はほとんどなく、0.2mmと非常に小さいために、気づくことはまずありません。幼虫は吸着後3日程度で脱落します。病原体がない場合は吸着後1~3日後痛痒を伴う紅色丘疹を生じ次第に軽快します。伊豆諸島や南西諸島のナンヨウツツガムシでは激しい痒みを伴う皮疹を残します。
病原体があれば、吸着2,3日後に水疱ができ、その後膿胞となります。10日目頃には周りが赤く腫れた10~15mm程度のカサブタ(痂皮)となり、いわゆる「刺し口」となります。刺し口は8割以上の症例でみられます。この頃から発熱などの症状が出始めます。
【臨床症状】
発熱時の症状はインフルエンザ様、腎盂炎様で、38~40度の高熱が持続します。また全身倦怠感、食欲不振、強い頭痛、筋肉痛を伴います。2日目頃より体幹部を中心に2~5mm程度の紅斑、丘疹が多発してきます。辺縁が不明瞭で淡い暗赤色を呈します。全身に出現しますが、躯幹、四肢中枢部に多いのが特徴で、日本紅斑熱との違いになります。紫斑を生じることもあります。5日目頃には消退していきます。刺し口近くのリンパ節は腫脹します。眼球結膜充血、咽頭発赤、リンパ節腫脹もみられます。
診断がつかず重症化した例では、髄膜脳炎、感質性肺炎、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全などで死亡することもあります。
【診断】
発熱、発疹、刺し口が3主徴ですが、確定診断は血清抗体の測定によります。
間接蛍光抗体法(IFA)や間接免疫ペルオキシダーゼ法(IPA)という方法を用いてIgMの上昇やペア血清によるIgGの上昇で検査します。
1~2週間間隔をおいて、抗体価の上昇を確認します。Kato,Karp,Gilliam型は標準型で保険適応ですが、これだけでは診断できないケースもあります。その際はKuroki,Kawasaki,Shimokoshiなどの新しい型の検査が必要となります。
Kato型・・・アカツツガムシ
Karp,Gilliam型・・・フトゲツツガムシ
Kuroki,Kawasaki型・・・タテツツガムシ
但し、血清学的診断に使われている精製抗原には、56kDa蛋白以外の株間共通の抗原蛋白も存在しているので、複数の株に対して抗体価が上昇することが多いです。それで近年は刺し口などの組織からのPCR法による遺伝子診断もなされています。

【治療】
テトラサイクリン系の抗生剤が第一選択薬です。ミノマイシン200mgの点滴静注などを十分期間(2週間程度)行います。クロラムフェニコールも有効です。アジスロマイシンも有効です。
但し上記抗生剤を3日続けても解熱など軽快傾向がない時は、ツツガムシ病以外の疾患も考える必要があります。
ペニシリンをはじめとするβーラクタム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系の抗生剤は無効です。
【予防】
最大の予防は虫の生息地に近づかないことですが、
・特に生息地の野山、河川敷では素肌を出さない、
・帰宅したら衣類は室内に持ち込まず、すぐ洗濯する、
・帰宅したら速やかに入浴し、吸着しやすい部位を特に念入りに洗い流す
ことが重要です。虫除けスプレーは一定の効果はあるものの過信することはできません。

参考文献

ツツガムシ病ーWikipedia

つつが虫病に注意しましょう! 秋田県公式Webサイト 美の国あきたネット

笠井達也: ツツガムシ病 皮膚病診療 :19(5); 457~460,1997

田中 厚 山藤栄一郎: ツツガムシ病、日本紅斑熱、ライム病. 日本皮膚科学会会誌:119(12),2329-2337,2009

高垣謙二: 見逃してはならない皮膚感染症(2)日本紅斑熱とつつが虫病. 日本皮膚科学会会誌:124(9),1739-1744,2014

Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎 皮膚炎を起こす虫とその生態/臨床像・治療・対策 夏秋 優 著 秀潤社 2013