痒疹(4)慢性痒疹

慢性痒疹は充実性の痒疹丘疹からなり、個疹の持続期間が長く、数週間から数ヶ月に及ぶもの、と定義されています。慢性痒疹診療ガイドラインでは結節性痒疹と多形慢性痒疹に分けられています。この2疾患について述べてみます。

◆結節性痒疹(prurigo nodularis)
下肢伸側など四肢に生じるものが多く、エンドウ大から1cm大の褐色調をした硬い疣状のドーム状のしこり(結節)が散在します。強い痒みを伴い、引っ掻くことで、頂点にびらんを生じることがありますが、孤立性の小結節が集中して多発する場合でも、湿疹のように皮疹は癒合しませんし、湿疹様の多様性のある様々な皮疹は認めません。
この結節の成り立ち、原因ですが、貨幣状湿疹や金属アレルギーの一部から生じたと思われるものもあり、当初から痒疹結節の形をとるもの、虫刺症などから移行したものもあり、その病変が完成して疣状の結節が完成するまでの経過や病態を分けて考えようとすると収集がつかなくなります。痒疹反応とは様々な異なる原因、病態が混ざった寄せ集めの炎症反応の可能性もあります。
このような観点から日本皮膚科学会の慢性痒疹診療ガイドラインでも痒疹丘疹を「強い痒みを伴う孤立性の丘疹」と表現するにとどめその出自は問うていません。
病理組織額的には、早期は真皮上層の浮腫、血管周囲性のリンパ球、組織球、好酸球、好塩基球などの細胞浸潤がありますが、表皮肥厚と角質増殖が著明になり疣状となってきます。また真皮では縦走する膠原線維の増生もみられます。

◆多形慢性痒疹(prurigo chronica multiformis)
この疾患、病態の位置づけ、名称がまた痒疹の分類に混乱をきたしている一因となっている面もあります。
典型的な発疹は中高年者の腹部、腰部、ときに側胸部にみられる蕁麻疹様紅斑、丘疹でははじまりやがて褐色の充実性丘疹となり時に湿疹ように融合するものをいいます。
このような発疹は実は日常診療で実に多くみられるものでなかなか治りにくく、はっきりとした病名も付けられず、原因も定かでないために医者泣かせ、患者泣かせの病変なのです。
なぜ、混乱の一因かというと、
1.この病気は慢性痒疹に含まれていますが、「本疾患に認められる個疹は亜急性の病変であるが、慢性の臨床経過をたどることから慢性痒疹として扱う」とあり、???です。
2.またPrurigo chronica multiformis Lutz 1957と同一のものではない、との注記があります。すなわち海外から出された原著論文と同じ名称ながら別物なのだそうです。??? だから日本でしか通用しない病名なようです。Lutzの記載したものは、「Lutzが最初にいったときは、nodularisのことを示しているらしいのです。亜急性から慢性痒疹に移行するようなものをいっている。だからわれわれがみているものとはだいぶ違うのではないでしょうか。」(西山先生)
3.痒疹とは痒疹丘疹からなる反応で、皮疹は融合しない、とういう定義でしたが、これは湿疹様で融合し、苔癬化します。しかし湿疹と異なり皮野に拘束されずに丘疹が集ぞくして形成される、そうです。
4.医師によっては尋常性痒疹(prurigo vulgaris)に近い病変を考えて、そうよぶ人もあるそうです。
5.丘疹紅皮症(太藤)と多形慢性痒疹との異同・・・皮疹が高度になれば後者はほぼ全者に近づくという考えもあります。

上記のように、孤立性の痒疹丘疹が痒疹の定義とすると、かなり異なったイメージがあり、蕁麻疹様の紅斑の大きさ、形、丘疹の集まり具合、苔癬化、融合、湿疹化など医師によってイメージするところが微妙に異なっているようにも見受けられます。
これを理解しようとしても、なかなかスーと頭の中に入ってきません。
しかし、このような病態はよくみられますし、しかも近年増えてきているとのことです。多形慢性痒疹は”いわゆる”という括弧つきで一つの病態と捕らえたほうが良いという考えもあります。(西山先生)
佐藤貴浩先生のオーバービュー ~痒疹とは何か~ (皮膚アレルギー フロンティア)の中で、難解な痒疹の反応について、なるほどという記述があります。
「痒疹反応は接触皮膚炎が主に表皮の反応であるのに対して、真皮での炎症反応である。初期の反応は蕁麻疹様紅斑が現れるが、それのみで留まる症例もある。その際に、蕁麻疹反応の強いものと考えるか、痒疹反応の不全型ないしは前駆状態と考えるか、である。このような例は米国でいうurticarial dermatitis にかなり近いものと筆者は考えている。そしてその病理学的反応はdermal hypersennsitivity reaction patternとも呼ばれる。経過の中で、蕁麻疹様丘疹から、やがて持続性の痒疹丘疹をみるようになる例は、しばしば観察される。」
この記述にあるように、あるいは多形慢性痒疹もこのようなものの範疇にはいるのかな、とも思われました。但し、その名称を提唱したKossard先生自身が、これは痒疹とは違うと述べているそうで、これまたやっかい、難解ですが、概念としてはかなり近いものだと佐藤先生は認識されているようです。
国際的な名称、位置づけは今後の課題なのでしょう。

◆痒疹の原因
慢性痒疹は上に述べたように様々な病因、誘因ででてくる多原因のものの寄せ集めといっても良いでしょうが、ではどのようがものが原因、誘因になっているかというと明らかな統計的なデータはないようです。
教科書的には、以下の様々な要因が挙げられています。しかし、いろいろ調べてもはっきりした原因がつかめないケースも結構あり、医者泣かせな疾患です。
「痒疹反応には少なからずheterogeneityが存在する可能性がある。病態の解明が進めば”痒疹反応”の再分類が可能になるかもしれない。」と締めくくりに佐藤先生は述べています。

虫刺症
アトピー性皮膚炎
貨幣状湿疹
金属アレルギー
内臓悪性腫瘍・・・ホジキン病、白血病、癌
内臓疾患・・・肝胆疾患、腎臓病、透析、糖尿病、内分泌疾患、血液疾患、脈管疾患
精神的疾患、ストレス

参考文献

皮膚病診療 特集 痒疹反応 Vol.33,No.12(2011)

皮膚科臨床アセット 18 紅斑と痒疹 病態・治療の新たな展開
総編集◎古江増隆 専門編集◎横関博雄 中山書店 2013

Derma(デルマ) 痒疹の粘り強い治療 ◆編集企画◆ 片山一朗 2014年2月号 No.214

皮膚アレルギーフロンティア 特集 痒疹をめぐる最近の進歩 2015.7 Vol.13 No2