痒疹(3)急性痒疹

急性痒疹とは何か? 一言でいうと、虫さされの後の痒い赤いぶつぶつのような発疹のことです。これを学術的な皮膚科学の用語を用いると、「痒疹丘疹」ということなります。
ですから、急性痒疹とは、痒疹丘疹を生じる疾患、あるいは皮膚反応ということになります。
一見、明確な定義ですが、では痒疹丘疹とは何か?というとこれが、釈然としません。
  西岡先生は対談の中で「痒疹丘疹、あるいは痒疹結節という言葉についていろいろな先生方のお話を伺いますと、漿液性水疱seropapuleであるという表現になっています。そもそも急性の湿疹反応がseropapuleになりますね。言葉の上で痒疹の場合のseropapuleと湿疹のseropapuleとは違うのですが、同じ言葉が使われているために両者が一緒になってしまうのかなという気もして仕方がないのです。」と述べています。
  西山先生はこれに対し、「漿液性丘疹については湿疹丘疹と同じと考えていいのではないでしょうか。痒疹丘疹というのは最初は蕁麻疹様丘疹で始まるんですね。滲出の程度と場所が違うと思います。」と述べています。
 すなわち、痒疹は真皮上層部でのリンパ球、好中球、抗酸球などの浸潤を伴う滲出性炎症といえます。
 その原因は虫刺されが大きな要因とはなりますが、その他に機械的な刺激、食べ物、ヒスタミンなどの化学的な刺激も原因となりえます。また白血病、ホジキン病などさまざまな病気が誘因、原因となりえますが、不明なことも多いです。

虫刺されの場合の原因虫の推定には皮疹の分布、患者さんの行動の問診、皮疹の形態などが参考になります。刺されてすぐ(直後~15分以内位)のアレルギー性炎症反応(即時型反応)、膨疹、紅斑と1~2日後の遅延型反応、紅斑、丘疹、水疱などがあります。
しかし、これらは虫の種類によっても異なりますが、むしろ個人差が大きいです。
同じく蚊に刺されても、一寸痒いくらいで治まる人もいれば、大きく腫れて水疱、あるいは表面がくずれて熱を出す人まで様々です。
(虫刺症についてはそのうち千葉県皮膚科医会で夏秋 優先生の講演が予定されていますので、またいろいろな話を聴けるかと思っています。)

夏秋先生は急性痒疹と虫刺症との関係を以下のように述べています。
「急性痒疹の本態は主に虫刺症であり、原因虫が不明の小児の虫刺症を古くから小児ストロフルス、あるいは小児蕁麻疹様苔癬などと呼んでいたものと考えられる。実際には病歴や臨床像から原因虫を推定し、虫刺症と診断できる場合が多いので、これらの病名をつけることは望ましくないと考えている。しかし、原因がまったく不明の場合は急性痒疹という病名を用いざるをえない。」

以上のことを、踏まえて臨床、病理的な特徴をまとめると、以下のように要約できるかと思います。
急性痒疹とは「痒疹丘疹」を生じる皮膚の反応状態である。痒疹丘疹とは強い痒みを伴う孤立性にみられる丘疹で、蕁麻疹様の紅斑、丘疹ではじまる。原則として真皮上層の炎症反応であり、血管周囲性に滲出性変化がみられ、中央が水っぽくなり、時には表皮上層に小水疱を形成して漿液性丘疹になる。引っ掻くことで丘疹の頂点に小さなびらんを生じる。普通数週間で治癒するが、反復して硬く充実性となり、また一部は慢性化して硬い疣状結節となる。
虫刺症の中ではブユ刺症の場合に慢性痒疹になることが多い。
しかし、一般的に急性⇒ 亜急性⇒ 慢性と進行するわけではない。
元々真皮主体の発疹なので、触診でしこりがあるのが特徴である。また湿疹丘疹と比べると大きい傾向がある。

学派によって、あるいは皮膚科医個人によって異なる意見、考え方があるようですが、大方の専門家の記述をまとめてみました。

参考文献

皮膚病診療 痒疹反応 Vol.33 No.12(2011)

皮膚科臨床アセット 18 紅斑と痒疹 病態・治療の新たな展開