関節症性乾癬

先日、生物学的製剤の研究会がありました。そこで関節症性乾癬の講演がありました。講師は福島県立医科大学の山本俊幸先生でした。乾癬の講演会はよくありますが、関節症に特化したものは少ないのでその内容を紹介してみます。

乾癬には関節症状を伴うことがあり、それを関節症性乾癬(psoriasis arthropathica:PsA)、あるいは乾癬性関節炎(psoriatic arthritis)などとよびます。国際的には後者の呼び方を使うそうです。海外では乾癬の5~42%に、日本では5~10%の人にみられます。最近は診断の向上、早期治療の必要性などが注目されることなどによって割合は増加傾向にあります。
患者さんの60~70%は皮膚症状が先行し、20~30%は関節症状が先行、10%は同時期に発症します。皮膚症状がでてから10年以上のたってから関節症状がでることもあります。皮膚症状の強さと一致しないこともあり中には乾癬の皮疹がごく軽微のこともあります。(PsA sine Psoriasis) 男女差はないとされます。
乾癬の臨床症状のなかでPsAの危険度の高いものには、頭部、殿部、肛門周囲の病変、爪病変といわれています。これらの部位に症状がある人はより注意深く関節の症状を見ていく必要があります。

【臨床症状】
以前からMoll&Wrightの分類がありました。(Semin Arthritis Rheum 1973;3:55)
1.非対称性関節炎型(Oligoarthritis)
2.関節リウマチ類似の対称性関節炎型(polyarthritis)
3.定型的関節炎型(DIP type)
4.ムチランス型
5.強直性脊椎炎型
上記のように分類されます。ただし、実際にはいくつかのタイプが混在することも多いそうです。
ちなみにDIP(distal interphalangeal joint)というのは爪のすぐ近くの関節のことをいい、爪乾癬を伴うことが多いです。
ムチランス型というのは手指の関節変形が高度でばらばらに変形し、あたかもオペラグラスを持った手のようになって固まったものを指します。関節リウマチはむしろPIP(proximal interphalangeal joint)関節(DIP関節より後(中枢側)の関節)が侵され易いです。
乾癬に関節症状があっても、その他の原因の場合もあります。
・乾癬に関節リウマチが合併
・チガソン(ビタミンA酸製剤)内服の影響
・乾癬に変形性関節症が合併
・乾癬に血清リウマチ因子が陰性の、その他の関節炎が合併
このようなケースを除外するためにCASPARの分類が使われます。
CLASsification criteria for Psoriatic Arthritis: CASPAR
炎症性関節症状(inflammatory articular disease)があり、さらに下記の3項目(点)以上あればPsAと診断する。(但し現在乾癬の皮疹があれば2点にカウント。
1.乾癬が存在する、または過去にあった。家族に乾癬の人がいる。
2.典型的な爪乾癬がある。(爪甲剥離、点状陥凹、角質増殖)
3.血清リウマチ因子が陰性(ラテックス凝集法を除く)
4.指趾炎(指圧痕を伴わないソーセージ様の腫脹)がある、または過去にあった。(リウマチ専門医による診断)
5.X線で手足末梢の傍関節部の骨形成がある。(骨棘は除く)
但しこの分類では早期例、非典型例はもれることもあり得ます。そのためにこの分類は特異度は98.7%と高いですが、感度は91.4%とやや落ちます。それに診断の参考にはなりますが、個々人の重症度、病型などは反映されません。

【関節リウマチとの比較】
PsAは基本的には付着部炎Enthesitis(Enthesopathy)といわれ、骨と腱、靭帯、関節包、筋膜の付着部の炎症を主体とします。それでアキレス腱や足底腱膜の腫脹がみられます。
それに対し関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis: RA)は滑膜炎(Synovitis)が主体です。PsAでは皮膚と同様に血管の増生と好中球浸潤がみられます。対してRAでは滑膜の増生(パンヌス)がみられます。
またPsAはリウマトイド因子(RF)陰性、抗CCP抗体陰性であり、血清反応陰性脊椎関節症(seronegative spondyloarthropathy)に含まれる病態です。RAと異なり左右非対称性で手指などの小関節に少数現れることが多いとされます。但し、一部はRF陽性となり、対称性となるなどRA様となることもあるそうです。

【骨X線像】
・関節裂隙の狭小化
・上記とともに骨びらん形成
・末端骨の先端が、鉛筆の先端にキャップを被せたようにみえる像 (pencil-in-cup像)
 骨のびらんで細くなった部分と骨新生のためにキャップを被ったようにみえる部分が同時にみられるためにみられる像
 時にはハツカネズミの耳のような外観を呈する(mouse ear sign)
・ムチランス関節炎・・・骨破壊、萎縮、変形像がみられる
・骨棘形成
・強直性脊椎炎型の竹の節様脊椎( bamboo spine)像。 椎体間癒合をみる
・仙腸関節炎(骨びらんと骨硬化)

【診断】
臨床症状(皮膚、関節)からなされます。正式にはCASPAR基準に準じますが、これはリウマチ科、整形外科による診断が必要です。また初期症状では基準を満たさないこともあります。皮膚症状が先行するケースが多いことを考えると簡便なPsAの問診票の導入が必要でしょう。海外にはPASE, PEST, EARPなどの問診票がありますが、日本ではまだ普及したものはないようです。腰、関節の痛み、こわばりが無いか、手指、アキレス腱、足底の腫れが無いかなどの問診がスクリーニングとなります。確定診断には血液検査とともに、骨X線、MRI、エコーが重要です。

【病態】
乾癬病巣での組織の特徴は、表皮細胞の増生、不全角化、好中球、リンパ球などの炎症細胞の浸潤です。トリチウムサイミジンなどによる研究によって、表皮細胞のターンオーバー時間が正常細胞に比べて、短くなっていることがわかりました。普通、表皮基底細胞が分裂して表皮内を上昇し、角化細胞となって脱落していくのに各2週間ずつかかり、約1ヶ月で垢となり脱落していくとされます。乾癬ではこれが速くなっており、そのために赤く炎症を起こした皮膚に不完全にできた角質がボロボロと剥がれ落ちる状態が生じています。その原因、病態は近年の免疫学の進歩とともに次第に理解が進んできました。当初は表皮角化細胞からの成長因子やサイトカインの発現からTh1細胞、樹状細胞の関与する病態が考えられていましたが、その後Th17細胞が発見され、乾癬ではTIP-DCからTh17に流れる系統の関与が明らかになってきました。TIP-DCというのはTNF-iNOS産生樹状細胞(TNF and iNOS-producing dendritic cell)のことで、この炎症性樹状細胞はTNF(Tumor Necrosis Factor)を介してTh17細胞に作用すると考えられています。近年急速に普及した抗TNF抗体製剤をはじめとする、この系にピンポイントで働く生物学的製剤が乾癬の治療に劇的な効果をあげていることもその理論を裏づけています。
さらに最近は自然免疫の乾癬への関与も報告されてきています。
乾癬では傷で皮疹が新生すること(ケブネル現象)、溶連菌などの細菌感染で悪化することがわかっています。これらの創傷機転や微生物は抗菌ペプチドのカセリサイディン(LL37)やディフェンシンを多く発現します。(実際乾癬ではこれは多く発現されているそうです)。LL37は自然免疫受容体のToll様受容体(TLR7,TLR9)を介して形質細胞様樹状細胞(plasmocytoid dendritic cells, pDC)を活性化させ、IFN(interferon)の産生を促進させ、これがTh1, TIP-DCなどの分化誘導、活性化をきたし、乾癬病巣を新生させるという流れが想定されています。ただし、皮膚と関節部では必ずしも同じ、サイトカイン、ケモカインのカスケードが起こっているわけではなく、関節でのIL-23のソースは腸管のDCも想定されているそうです。また破骨細胞の分化に関与するRANKLなどの関与も報告されています。薬剤によって皮膚、関節への効果に差があるのは病因、病態の違いを反映しているのではないか、とのことでした。

【治療】
PsAの治療指針については、世界的な乾癬の標準治療を目指す団体であるGRAPPA(Group for Research and Assessment of Psoriasis and Psoriatic Arthritis)が2006年に発表した推奨図があります。
おおよそ、関節リウマチの治療に準じたやり方と思われます。末梢関節炎に対しては、非ステロイド性抗炎症薬((NSAIDs)、関節内ステロイド注入、抗リウマチ薬(DMARDs)、生物学的製剤(TNFα阻害薬)で治療を開始することが推奨されています。さらに2009年版ではPsAの重症度を軽症、中等症、重症の3群に分類し、重症度に応じて治療法を選択することを推奨されているそうです。
関節症状は放っておくと関節破壊へと進行し、変形し元には戻りません。この進行抑制作用に関しては、現在のところ生物学的製剤、とりわけTNFα阻害薬が最も優れた効果があることがわかっています。出来るだけ早期にこの薬剤を使用して関節の破壊を食い止めることが有用であることが重要とのことでした。
それでは、どの時点で、どのようなPsAの患者さんに適応となるのか? 軽症の患者さんでも関節破壊を食い止めるために積極的に使用するのか?
当日も会場の先生からの上記の質問がありました。生物学的製剤は高価な薬ですし、免疫抑制に伴う重症感染症などのリスクもあります。
これに対しての回答としては絶対的な基準は無いようでした。無論、ムチランス型など1、2年のうちに急速に進行して手指の関節が破壊、変形してしまうケースなどは絶対適応になります。ただ、全ての関節炎が重症になっていくわけではないので、リウマチ医、整形外科医などと協働しながら注意深く経過を見ながら個々に判断していくことが重要とのことでした。
近年はTNFαが乾癬の病態生理に大きく関わっていること、また乾癬患者さんにメタボリック症候群などの成人病がおおいことなどが明らかになり、乾癬は単なる皮膚だけの病気ではなく、糖尿病、脂質異常症、高血圧、冠動脈疾患の合併率が高い全身性の炎症性疾患であるというとらえ方がなされるようになってきました。
その点でも生物学的製剤は乾癬治療に大きく関わってきています。

参考資料

山本 俊幸 関節症性乾癬ハンドブック

ヒュミラ・乾癬承認4周年記念講演会資料 2014年2月2日 (株) メディカルトリビューン

山﨑 研志: 皮膚の抗菌ペプチドー乾癬病態との関連ー 皮膚病診療:36(4);298~303,2014