酒さ2015(2)

酒さの治療についての総説 下記の雑誌より訳出しました。今回のものは前回のものに引き続いて書かれたパート2です。

Two AM,Wu W,Gallo RL,Hata TR. Rosacea Part II. Topical and systemic therapies in the treatment of rosacea. J Am Acad Dermatol. 2015;72:761-770.

治療は3つの分野からなる。
患者さんの教育、スキンケア、薬物/理学的な療法

酒さそのものは、身体的には良性の疾患だが、患者のQOL(生活、人生の質)の低下をまねき、欝的な傾向のオッズ比は健康な人の4.81倍にも上る。

【患者教育】
もし、増悪因子や悪化の引き金となる特有のものがあればそれを避けることが重要。一般的には風、低温、高温、運動、香辛料、刺激の強い食べ物、アルコール、熱い飲み物、身体的・精神的ストレスなどが当たる。時に薬物(内服、外用薬、化粧品も含めて)が悪化因子になっていることがある。

【スキンケア】
酒さの皮膚では水分の蒸散が増しているので、保湿することが重要。紫外線を防御することはLL-37や活性酸素を減少させ、悪化因子を防ぐ。
0.75%のメトロニダゾールゲル単独とそれに低刺激の保湿剤を加えたものを比較すると、保湿剤を加えたものの方が、自覚的にも他覚的にも改善
する。どの日焼け止めが主さの患者さんに合うか、は難しい問題である。ただ、最低SPF30以上で肌を刺激しないものを選ぶべきである。

【薬物治療】
<外用剤>
◇FDA(米国食品医薬局)で認可、推奨されているもの
・硫酸ナトリウム・・・特に脂漏性皮膚炎を合併している人には有効。10%のローション、クリーム、クレンザーがある。5%の硫黄ローションを含むものがも最も一般的に使われている。丘疹、膿胞型のものに一日2回使用。明確な機序は不明だが経験的に抗炎症作用によるものと思われる。最も多い副作用は乾燥と刺激感と赤み。
・メトロニダゾール・・・活性酸素を減弱することによって効くと思われている。1950年代から使われている。紅斑、丘疹、膿胞を抑えることが比較試験で判明している。0.75%と1%のクリームがあるが、同様の効果がある。抗生剤などの治療を中止した後の再燃も抑える効果がある。
・アゼライン酸・・・天然のジカルボン酸で15%ゲルと20%クリームがある。70-80%の人が酒さの症状が改善する、と報告されている(対照患者では5割程度)。活性酸素を減弱する他、近年の研究でカリクレイン5やカセリサイディンの発現を抑制することがわかった。これらの直接作用によって効果を発揮すると考えられる。
・アルファアドレナリン受容体作動薬・・・皮膚血管の平滑筋に作用して血管収縮を起こし、酒さの発赤を抑える。しかし毛細血管拡張の血管には効かない。アルファ2作動薬のbrimonidine gel 0.33%は最近FDAにより承認された。使用後30分で紅斑が減弱し始め、6,7時間効果が持続する。その後は元に戻る。総じて安全だが、たまにリバウンドの報告がある。アルファ1作動薬のoxymetazolin 0.05%も使用後1-3時間で効果が現れ、数時間持続する。現在phase IIIの治験中である。これらは他の治療薬と併用することが可能である。
◇FDAで認可されていないもの(off-label)
FDAで認可されていなくても、効果のあるとされるもの
・レチノイド・・・光でダメージを受けた膠原線維組織を再構築することによって修復する。トレチノインは実験的にトル様受容体2(TLR2)の発現を抑制することがわかっている。紅斑、丘疹、膿胞、毛細血管拡張を抑える。臨床効果がある報告はあるが、大規模な統計的な報告はない。
・カルシニューリン阻害剤・・・タクロリムス、ピメクロリムスは理論的にT細胞の活性化を抑制することによって、炎症性サイトカインを減少させ、酒さの症状を軽減させうる。紅斑に効果があったとする報告の一方で、明確な効果はみられなかったとするものもあり、更なる検討が必要である。
・ペルメトリンクリーム・・・Demodexを抑制する目的で5%クリームが使用されている。紅斑、丘疹については0.75%メトロニダゾールと同等の効果があった。しかし、毛細血管拡張、鼻瘤、膿胞には効果がなかった。
・イベルメクチンクリーム・・・現在酒さへの効果は研究中である(Phase III)。内服剤はDemodexを抑制する目的で酒さに用いられている。
<全身投与>
・テトラサイクリン
50年以上の使用経験があるが、FDAで認可されたのはまだ2006年のことである。ドキシサイクリンが抗炎症作用の低用量で認可された。それ以前は抗菌剤として50-200 mg/日も使用されていた。しかし原因となる細菌は検出されず、その使用意義が疑問視されていた。ドキシサイクリンはmatrix metalloproteinase(MMPs)(蛋白質分解酵素)の発現を低下させるが、MMPはセリンプロテアーゼのひとつであるカリクレイン5(KLK5)を切断してその活性型に変える。またその他に、炎症性サイトカインを減少させ好中球を浸潤を抑える、膠原線維を破壊する反応性酸化物質(reactive oxygen species: ROS)を抑制する、一酸化窒素を減少し、血管拡張を抑制する。これらの作用によって酒さの症状を軽減していると思われる。以上のことから、ドキシサイクリンの抗菌効果による酒さに対する作用は限定的と考えられる。
・ベータブロッカー
ある種の薬剤は皮膚の血管周囲の平滑筋のベータアドレナリン受容体を遮断して血管を収縮させる。propranolol(インデラル),carvedilol(アーチスト)。これらの薬剤はまた動悸や焦燥感を軽減させ発赤を軽減させる。
・イソトレチノイン
FDAでは認可されていないが、難治性の酒さには0.5-1mg/kg/day内服が奏功する。1日10mgなどのもっと低用量でも有効であるし副作用も少ない。実験系ではレチノイドは培養ケラチノサイトに対してKLK5,7を誘導するが臨床上では患者の単球のTLR2の発現を抑制する。それでトレチノイン(レチノイド)の酒さに奏功する機序はトル様受容体の発現を抑えることによると思われる。
<ガイドライン>
2014年米国ざ瘡酒さ協会(American Acne and Rosacea Society)は酒さの治療の推奨プランを公表した。大きく紅斑のみのグループとそれに丘疹、膿胞を伴うグループに2分した。後者を更に丘疹、膿胞の数で3分した。(軽症:10個以下、中等症:10-19個、重症:20個以上)
概略をみると、保湿、遮光から始まって、軽症のものは上記の外用療法を施行、中等以上になるとそれにドキシサイクリンを追加、6-8週間経過をみる。それで軽快すればドキシサイクリンを漸減する。軽快しなければ12週間同様治療を行い、反応しなければドキシサイクリンの増量、イソトレチノインなども考慮というアルゴリズムを作成した。ただし、これは全ての症状を網羅したものではなく多くの文献から得られたコンセンサスであるとしている。
<新たな治療>
・セリンプロテアーゼ阻害薬
Part Iで示したように酒さでは、表皮セリンプロテアーゼであるカリクレイン5(KLK5)のレベルが高くなっている。KLK5は活性のないカセリサイディンの前駆物質を切断して活性のあるLL-37をもたらす。高KLK5はカセリサイディンの高レベルに寄与しているが、これらは酒さの病因を形作ると思われる。KLK5を抑制することが治療に役立つことはアゼライン酸が病巣でのKLK5, LL-37の発現を抑えて症状を改善することからも実証されている。外用セリンプロテアーゼ阻害薬であるepsilon-aminocaproic acid(ACA)を使用したグループでは12週間後にはセリンプロテアーゼの活性は低下し、紅斑も軽減していた。
・肥満細胞安定化薬
肥満細胞はLL-37,MMPs,炎症性サイトカインを放出することによってカセリサイディンによって誘導される酒さの炎症に関与していると考えられてきた。それで肥満細胞の脱顆粒を抑制することは治療に繋がると想定される。実際最近肥満細胞安定剤であるcromolyn sodium4%液を10人の紅斑型の酒さの人に8週間使用したところ、顔面の赤みとともにMMP,KLK5,カセリサイディンのレベルも減少した。これらを実証するためには更なる大きな検討が必要である。

【まとめ】
最近の酒さの病態の解明が(自然免疫機構の科学的な研究の進歩に伴って)進歩してきたことで外用、内服薬の開発も進んできた。最近はさらにセリンプロテアーゼ阻害薬、肥満細胞安定化薬なども有効な治療手段として検討されだしている。