酒さ2015(1)

JAADの最近の雑誌に酒さについての総説がでていました。酒さについては何回か書いてきていますので、繰り返しになるところも多いですが、欧米での最新事情が書かれていると思いますので、抜書きしてまとめてみました。下記の論文からのものです。

Aimee M.Two,Wiggin Wu, Richard L. Gallo, Tissa R. Hata. Rosacea:PartI. Introduction,categorization,histology,pathogenesis,and risk factors. J Am Acad Dermatol. 2015;72:749-758.

【臨床症状】
4つの亜型(subtype)に分けられる。
1.紅斑毛細血管拡張型(I亜型)
2.丘疹膿胞型(II亜型)
3.鼻瘤型(III亜型)
4.眼型(IV亜型)
各亜型は同時に生じることもあるが、1.→2.または2.→3.の型への移行はごく少数。
基本の症状はカーッと赤くなること(一時的な紅斑)、持続的な紅斑、丘疹および膿胞、毛細血管拡張。
二次的な症状はあつく焼けるようなひりひりする感覚、局面、乾燥、浮腫、眼の症状、周辺への分布、鼻瘤。
タイプIでは、顔の中心あるいは耳、頚まで持続的な赤みを生じるが目の周りは避ける。血管拡張を伴うが、なくてもよい。
タイプIIでは上記に加えて一時的に丘疹、膿胞を伴う。ひどくなれば浮腫も伴う。
タイプIIIでは顔の脂腺部位の皮膚が厚くでこぼこに伸びて結節状になってくる。鼻の部位がもっとも多い。このタイプだけは男性に多い。
タイプIVでは充血した目、異物感、ちくちく感、乾燥、かゆみ、まぶしさ、かすんだ見え方、結膜、眼瞼の血管拡張、紅斑などがみられる。結膜炎やものもらいもみられる。特別な検査はないので眼科医の臨床診断による。皮膚症状を伴わないこともあるし、重症度は皮膚症状とは比例しない。
【病理所見】
皮膚生検をしても非特異的な変化しかみられない。従って一般的には不必要。ただし他の病気を否定するためには必要なこともある。
【病態生理】
正確な病因は不明。ケルト人や北欧諸国の人々に多いことから人種的な要因は想定されているが、遺伝子は不明。しかし酒さの人では自然免疫や獲得免疫に伴って発現する様々な遺伝子が過剰に発現していることがわかってきた。デモデックスや黄色ぶどう球菌や紫外線などがこれらに関与していることも臨床的、基礎研究からわかってきた。
【自然免疫機構の変調】
正常な生理的な状態では種々の刺激によって自然免疫機構ではサイトカインや抗菌ペプチドが制御された範囲で上昇する。ところが酒さではこのシグナル制御機構が破綻しているようだ。酒さでは抗菌ペプチドの一つであるカセリサイディンの発現が上昇しており、それを分解して活性型のLL-37を作る酵素セリンプロテアーゼのカリクレイン5(KLK5)も上昇している。しかも酒さではカセリサイディンやLL-37の形は正常のものとは異なっている。酒さのLL-37はより短く切断された形で、これは白血球の走化性や血管新生、細胞外成分の発現を制御している。これをマウスの皮膚に注入すると酒さと似た反応を生じることはこれらの機構が酒さの病因に関与していることを強く示唆する。
Toll様受容体は自然免疫機構を担う細胞表面のたんぱく質だが、Toll様受容体2(TLR2)はその中で細菌や反応性酸化物質をリガンドとして認識している。酒さでこれが過剰発現していることは事実だが、なぜ上昇しているかは未だに不明である。Matrix metalloproteinase(MMP)もその前駆物質を切断し活性化させることによってKLK5を上昇させる。酒さではMMP-2,MMP-9が増えている。
最近肥満細胞の酒さでの役割がわかってきた。肥満細胞はLL-37やMMP-9や炎症性サイトカインを分泌するが、酒さではこの細胞は増えている。動物実験で肥満細胞欠損したマウスや肥満細胞の働きをブロックしたマウスではLL-37を注射しても酒さ様変化はできないが、肥満細胞のあるマウスでは酒さ様の変化が生じる。
【微生物】
Demodex folliculorumやStaphylococcus epidermidisやHelicobacter pyloriなどの酒さでの関与が考えられているがその正確な病因は明らかではない。相反する報告があるし、これらが酒さの原因なのか、結果なのかもよくわかっていない。S epidermidisは健康な皮膚で広く認められる抗菌ペプチドであるが酒さでは正常のものとは種類が異なっている。
【紫外線】
紫外線は臨床的に酒さの悪化要因として知られている。UVA(長波長紫外線)はMMPを発現させ、膠原線維を変性させる。UVB(中波長紫外線)は線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor 2: FGF2)や血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor 2: VEGF2)を産生する。また紫外線は皮膚の反応性酸化物質(reactive oxygen species: ROS)の多くに関与している。ROSは皮膚の炎症に関与し、、またTLR2のシグナルを通じてKLK5-cathelicidinの炎症経路を活性化させ酒さを悪化させる。
【神経系の変調】
温度、香辛料、辛い食物などが発赤を起こす事実は酒さでの皮膚の知覚神経の病因への関与をうかがわせる。transient receptor potential(TRP)ファミリーの中のvanilloid TRP( TRPV1-4)とankyrin TRP(TRPA1)が酒さで活性化している。これらの受容体の経路、役割は完全には判っていないが、これらが酒さの発赤やひりひり感に寄与していると思われる。
【バリア機能の異常】
酒さの皮膚ではバリア機能が低下している。皮膚からの水分の蒸散が増している。また皮膚の水分量は減少している。これはミノサイクリンで治療すると改善する。これにはprotease-activated receptor2(PAR2)の活性化がバリアの恒常性を阻害していて、serine protease の阻害薬でバリア機能が回復するという報告もある。
【危険因子】
現時点では酒さに伴う明確なものはない。50歳以上の女性で偏頭痛の人はやや酒さになり易い。また酒さではやや心血管系疾患になり易いという報告もあるが限られた人数でのものでさらに統計的な調査を待つ必要がある。