アトピー性皮膚炎と皮膚バリア構造

NHKのアレルギー、アトピー性皮膚炎の話題を書いたばかりですが、今日千葉県皮膚科医会総会の特別講演は慶應大学の天谷先生のアトピー性皮膚炎の話でした。(天疱瘡の専門家でその抗原がデスモグレインであることを発見した世界的な研究者なので天疱瘡の話かと思いましたが、アトピーの話でした。)
講演はは茶のしずく石鹸の話から始まって、例のピーナッツアレルギーの話から、effector T cell, T-regの話、バリア障害、アトピー性皮膚炎に対する保湿剤の早期介入の話と進みましたので、ああ先週テレビで聞いた話だ、と思っていましたが、それはまくらで本題はこの後でした。
難しい話でよくは判らなかったのですが最先端の研究とはこういうものをいうのだろうと、何となく感じました。
それでその興奮と、おぼろげな記憶が消え去ってしまう前に備忘録として書き止めました。正確な伝達である自信はありませんが、アウトラインはそんなにずれていないと思います。
2006年にMclean, Irvineらによってアトピー性皮膚炎患者でフィラグリン遺伝子の変異が発見されました。天谷先生はこの報告を聞いて、皮膚に備わっているバリア機構を解明してアトピー性皮膚炎の発症メカニズムにせまろうという研究を展開していったとのことです。バリア障害の本質は何か?これからは角層を中心に調べていこう、と思ったそうです。
皮膚(表皮)は、最外層から角層、顆粒層、有棘層、基底層となっています。
角層は最外層にあって皮膚が乾燥して壊れていくのを防ぐとともに、刺激物や病原体が体内に侵入するのを防ぐバリア機能があります。皮膚にはその他にもう一つバリアの働きをする構造物があります。角層の下にあって細胞間の隙間をシールするタイトジャンクション(TG)という構造物でバリアの役目を担っていると考えられます。これまでは2次元的には判っていましたが、3次元的な立体構造は判っていませんでした。
慶應グループはその構造を3次元的に可視化することに成功し、炎症が生じた場合は抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞(LG)がタイトジャンクションを壊すことなく、細胞突起を潜望鏡のようにTGの外側に突き出し、外界の抗原、異物を取り込むことを発見しました。
TGには細胞同士がくっついている部分にTricellulinという弱い部分があり、それらの部分を通して突起を伸ばしているそうです。
TGには3層あり、最下層はフィラグリンによって異物を通さない層(K ↓、Alginine↓)、中間層がNMF(natural moisturizing factor)を含む水分保持機能を持つ層(K↓,A↑)、上層がスポンジのような働きをする部分(K↑,A↓)に分かれているそうです。(質量分析顕微鏡(TOF-SIMS)を用いた解析による)
TGの3次元構造の可視化やLGとの関係の観察は久保亮治先生が京都大学月田研究室で培った細胞生物学のテクニック、知識が役立っているそうです。
角層は死んだ細胞なのに、TGが3層でその上の角層は12層になっていて、13層目からは剥がれ落ちていくようにプログラムされているそうです。なにがそれを制御しているのかなどまだまだわからないことがいっぱいとのことでした。
またLGでも上方に手を伸ばすものだけではなくて、(IDEC: inflammatory dendric epidermal cell)という横方向に手を伸ばしている細胞があることもわかってきたそうです。これはヒトだけにあってマウスにないので働きはまだよくわかっていないけれど、これが悪さをするのではないか、と述べていました。
さらにノックアウトマウスでフィラグリンを欠損したマウスでは抗原がバリアを通過してしまうことも示されました。
さらに、LGをいったん皮膚からなくすると再生は毛の周辺から始まるそうです。2光子顕微鏡で細胞が毛の周辺にびっしり集まってくるビデオを見せてもらいました。皮膚樹状細胞と毛嚢による免疫制御は今後の研究課題だそうです。毛を中心に免疫細胞を呼び込み、皮膚の免疫サーベイランスを司っているかもしれないと壮大な話でした。

正確には理解できないけれども、皮膚科の最先端の研究の一端を見せていただき、圧倒される思いでした。そういえば、昨年来2光子顕微鏡の皮膚科での草分け的な研究を進めている京都大学の椛島健治先生や慶應大学の久保亮治先生の3次元的な画像を講演会などでみせられ、百聞は一見にしかずとの言葉通り、この目で免疫細胞の動きをみて、この分野の研究の進展に眼を見張る思いでした。今日はさらにその感を強めました。
講演の後で、天谷先生に「椛島先生の2光子顕微鏡のライブイメージングのビデオもとてもスマートでエレガントだったけれど、延々と写真を撮り続けて寝不足でグロッキーになっている院生?研究生?の写真がありましたけど、実は力仕事なんでしょうね。」といったら「こちらの毛嚢のビデオも延々数ヶ月にわたる根気の要る仕事の結果ですよ。」といわれました。すいすいと湖を滑るような白鳥も、実は水面下では必死に足で水かきを動かしているものの例え通りです。

講演会のお話はここまでなのですが、余計なお話を。
時々、椛島先生のブログ「きたきゅーから椛島健治の頭の中を送ります」というのを覗いているのですが、その中の本棚コーナーというのがあって、そこにまんが本の紹介がありました。
東村アキコの「かくかくしかじか」というものです。
「某先生のブログで紹介されていたので読み始めています。漫画とばかにするなかれ。。。
http://blog.hypoxia.jp/hypoxia-research/ 」というコメントが書いてありました。
某先生とは京都大学の麻酔科の先生のようですが、椛島先生に影響を与えた先生だとか、なぜか不思議に心惹かれてKindle版をダウンロードし読み始めました。No.4まで読んだら、最後のNo.5がなんとまだ電子版がないのです。
当日会場のホテルに着く前に本屋に駆け込んでNo.5を買って講演の合間も読んでしまいました。
今年のまんが大賞に選ばれただけあって確かに感動もののエンディングでした。
本の中の絵の先生のブレない生き方、弟子の指導法への感動でしょうか。著者自身の才能のためでしょうか。

これは1日たって、月曜日に書き足していますが、今日の椛島先生のブログに
「どうでもいいことですが、僕のブログの隣に出している本棚コーナーですが、誰にも褒められることはなかったのですが、「かくかくしかじか」は面白かったです、と数名から感謝されました。
漫画恐るべし。
・・・とありました。